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‐HOUND‐コミュのハウンド―16―

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こんにちは。牧瀬新太です。

警視庁特殊犯罪対策課に所属しています。
異動からもうじき3カ月になりますが、未だに亜種犯罪には分からないことが多すぎます。
実質、亜種犯罪の多くはバウンティハンターたちによる検挙が多く、特殊犯罪対策課は事後処理がほとんどだ。
いくら入念に現場を調べても、地道に聞き込みしてまわっても、相手によっては追跡だって容易にかわされてしまうし、戦闘能力だって遠く及ばない。
そもそも人間だけで人間離れした化け物たちを追いかけようなんて考えが間違ってるんだ。
バウンティハンター制度なんか作るなら、彼らを警察官として採用すればいいのに。
そもそもニューマンやハーフが公務につけないなんて法律誰が考えたんだ。
逮捕した奴をしっかり拘束しておく方法だって定かじゃないのに。



…ちなみに今日は銀行に来ています。来月実家の母親が誕生日なので、何か送ろうかとお金を降ろしに来たわけですが。
結構混んでて、大分退屈しています。

「まだ10人以上も待ちか…」

隣の女の人も大分待ってんだな。なんかちらちら包帯見えるし、なんだろう入院費とかかな。あれ?

「君は…」

「ん?」

彼女と目が合えば、それはやっぱり。

「マキちゃん」

「アキラちゃん」

バウンティハンターハウンドの千里アキラちゃんだった。

「どうしてこんなところに?っていうか、その怪我は一体」

「あぁ、肋骨複雑骨折に3か所の内臓破裂、他打ち身切り傷多数で、さすがのメグも一度に全部は無理でさ」

「複雑骨折に内臓破裂!?君なんでそれで生きてるんだ?」

「ニューマンの能力は人それぞれってこと。これがバウンティハンターの仕事なの」

「大丈夫なのかい?一人で出歩いて…」

「全部治りかけの状態だから、無理しなければ大丈夫」

理解できない。まったくもって理解できない。
未成年の少女が犯罪現場で今にも死にそうな傷を負いながらも素知らぬ顔でこの平和のど真ん中に座っている。

「カード持ってないの?」

「…」

「ねぇ」

「え、え?」

「キャッシュカード持ってないのって聞いてんの」

「あ、あぁ、持ってないから作ろうかなと思って…」

「へぇ、そんで順番待ってんだ。一緒だね」

あぁ、いけない。動揺しすぎて全然話を聞いてなかった。
慣れない。やっぱり慣れない。
蛟くんはちょっとそれっぽいけど…あ、ヒロくんも大きいから少し見えるかな。
でも、アキラちゃんや銀牙くんはやっぱり相応の扱いをするにはどうにも幼すぎて、今でもたまに彼らがバウンティハンターだということを忘れてしまう。

「さ、最近、仕事の方は?」

「私は安静だから、情報収集と留守番。することもなしに、今日は休み」

「あぁ、そうなんだ」

あんまり会話が続かない。
そうだ。これを機にバウンティハンターの実体を調査しよう。そうだ。そうしよう。

「ちなみに君ら情報収集とかってどうやって…」

「企業秘密」

「じゃ、じゃあ、実際犯人逮捕の時とかは…」

「企業秘密」

「…」

駄目だ。年頃の女の子とロクに会話も続かないなんて。
僕だってついこの間まで学生だったのに。

「マキちゃん、休みの日も仕事の事考えてんの?」

「え、あ、まぁ、それなりに…」

「へぇ、意外。マキちゃんもっと休みの日は遊んだりしてんのかと思ってた」

「そ、そうかな?」

「うん、なんか見た感じ結構チャラいし」

「そ…そうかな…」

向こうから歩み寄ってくれているような気もするが、言葉を放り投げられてる気もする。
やっぱりこれも会話じゃないと思う。
早く順番回って来ないだろうか。早くこの空間を脱したい。
とはいえ、用もなしに席を移動するわけにはいかないし。
呼ばれてしまえばどれだけ楽だろうか。本当に。
でも、うれしいものか悲しいものか、そんな空気は長く続かず。
ふと顔を上げたら目の前を紺色の制服に身を包んだガードマンが電灯の真下を通り過ぎていく。
そして、その意味を理解する間もなく後方から女性の叫び声が耳に届いた。

「!」

茫然としていた僕の横でアキラちゃんか滑るように椅子から下りて、屈んでいた。
そんなアキラちゃんを視界の隅に入れたままやっと異常事態に気付いた僕は椅子の背を掴んで振り返った。

「誰も動くんじゃねーぞ!」

100キロは余裕であるくらいの巨漢の男と、シルバーのリボルバーを持ったチンピラ風の男が入口からずかずかと歩いてくる。

「ぎ…銀」

「静かに」

驚きと同時に口から零れ落ちそうになったことばをアキラちゃんに止められた。

「あ、アキラちゃん」

「銀行強盗だってのは見りゃ分かんでしょ」

アキラちゃんが小さな声で話すから、こっちも慌ててボリュームを下げた。
二人の男は怯えて壁に張り付くように逃げて行った他の客たちを尻目に窓口へと向かっていく。

「これだけの大きさの銀行にたった二人で顔も隠さず乗り込んでくるなんて」

「目に見える武器はあのリボルバー一丁だけ、それだけの自信があるってことは結論は一つでしょう」

チンピラ風の男が大きなかばんを持って窓口へ、巨漢の男は窓口に背を向けて客を見回していた。

「誰も動くなよー。おでが見てるからなー」

「おい、佐久間。武器になりそうなもん取り上げとけ」

「あいあい、そだね」

チンピラ風の男はちらりと視線を後ろに向け、巨漢の男を佐久間と呼んだ。

「そいじゃあ、武器を集めるよ」

佐久間が右手をかざす。
すると、あっちこっちから驚きの声や叫び声が聞こえたかと思うと、佐久間が右手をかざした先の空中にハサミやカッター、小さなナイフが引き寄せられていく。
そして、僕は見た。アキラちゃんの腰元から小さな拳銃が引き寄せられていくのを。

「なっ!」

ちなみに非番の僕はそんなものは持ち合わせていない。

「君はいつもあんなものを持ち歩いてるのかい?」

「護身用だよ。流石にいつもブローニング持ち歩いてるわけにいかないしね」
アキラちゃんは武器を取り上げられたことに少し動揺しているみたいだった。

「引き寄せる能力、磁力…いや、引力?」

アキラちゃんはじっと二人の男を睨みつけていた。
そして、佐久間が右手を降ろすと宙に浮いていた武器になりそうなものたちは音を立てて床に落ちた。

「みんな取り上げたよ、拳ちゃん」

「佐久間お前…俺のも持ってくんじゃねぇよ」

「あで?」

拳、と呼ばれたチンピラ風の男は佐久間の頭を小突くと、武器になりそうなものたちの山からシルバーのリボルバーを拾い上げる。

「ん?」

「どうしたの?」

「どうやら、物騒な客がいるみたいだな」

拳は武器になりそうなものの中から小さな拳銃を拾い上げた。

「あ、アキラちゃん」

「知らんぷりしてないと、真っ先に疑われるよ。身分証見られたら一発なんだから」

「で、でも一警察官としてこのまま黙っているわけには…」

「ちゃんと状況を理解してよ。相手はニューマンなんだから、何も考えずに飛び出したって秒殺されちゃうっての」

それでもアキラちゃんは冷静だ。二人の様子をじっと窺っている。

「このご時世、拳銃持ち歩いてる奴って言やぁ…俺らと同じこと考えてる奴か、やくざ者か、警官か、もしくは…ハンターか」

「どうするの?拳ちゃん」

「引き寄せろ佐久間、今俺が言ったすべての奴を」

「わ、分かった」

佐久間は手をかざす。

「んん!」

しかし、佐久間がいくら眉間に皺を寄せて力んでも何も動かない。

「どうやら、デカい方は力を使いこなせてないみたいだね」

「使いこなせてない?」

「あの様子だと、力が発現して間もないんじゃないかな。力の限度を理解してないみたい」

「力の限度?」

「それでも特殊犯罪対策課の刑事なの?ニューマンの能力にはそれぞれ限度がある。壁を通り抜けられる奴だって、いつまでもコンクリートの海を泳いではいられない。私の目だって、地球の裏側まで見通せるわけじゃない。力の大きさは人それぞれだけど、誰にだって出来ることには限界がある。それを理解しなければ、犯罪者はすぐに捕まるし、ハンターはすぐに死ぬことになる」

「な、なるほど」

「今見る限りあのデカいヤツが引き寄せられるのは無機物だけみたいだね。いや、まだ断定はできないけど、それならまだやりようが…」

「あ、アキラちゃん?何を」

アキラちゃんは袖や裾をめくりあげ、包帯を外し始める。

「いや、締め付けれてると思うように動けないからさ」

「あんな奴らにそんな体で挑もうって言うのか!?武器もないのに!」

「しー!静かにしてよ!いくら私だってこんな体で正面からやりあえないっての!」

ギリギリ声を抑えた会話だった。

「拳ちゃん…」

「ちっ、使えねぇな」

どうやら男たちは次の手を考えているようだった。
しかし、その合間も銀行職員に銃口を向け、作業を急かしている。

「それなら僕も一緒に」

「馬鹿言わないで。武器を持たない一般人がニューマン相手に太刀打ち出来るわけないでしょう」

「し、しかし」

「自分に出来ることをちゃんと考えて。下手なことはしないでよ」

それだけ言うとアキラちゃんは小柄な体をさらに縮ませて待合席の合間を抜けて行った。
無力な僕を残したまま。

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