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[mixi小説]BLACK OR WHITE?コミュのBLACK OR WHITE? 6 〜誰が為に騎士は行く.part4〜

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殆ど誰も来ない。それどころか知る者さえ少ない。光の届かぬ地下への階段。長年手入れされていないため、蜘蛛の巣が張り巡らされていた。それでも人は通っているようで、階段の中央付近には埃があまり積もっていない。
大人二人がやっと通れる通路を、枢機卿長と専属憲兵四人がカツンカツンと下りて行った。じめじめとした空気が鼻腔と肌にまとわりついてくる。ここにいて良い気分ではない。蝋燭の炎が唯一、気分を紛らわしてくれた。
息苦しさが増してきた。空気の状態もあるだろうが、何よりも、この下にいる誰かからのプレッシャーが大きい。知らぬ間に表情が険しく、冷や汗がたらりと流れ落ちた。

下りきったその先には、頑丈な鉄のドアがある。それの鍵を開けると、その向こうには更に分厚く強固な鉄の扉が二つあった。と、何やら音色が響いてくる。

鼻歌…

微かに男の声で鼻歌が聞こえる。軽快なリズム、スタッカートを利かせて楽しそうだ。ドアを開ける音に気付いたのか、一層明るいアレグロを歌う男…。一人が息を呑む。中には身震いする者までいた。これ以上、進んではいけない。と、本能が囁いてくる…。引き返そうとする足を、無理やり前へ進めた。

鼻歌はそのうちの左側の向こう側から聞こえるようだ。枢機卿長は鍵を懐からジャラジャラ出して、三つの錠前を上の物から丁寧に一つずつ開けていく。…最後の一つが取り払われた。ゴゴゴ…と、唸り声のような音を上げて、扉が開放される…。



その部屋は先程の雰囲気とは一変して、白くて清潔感のあるそれなりに広い空間だった。床、壁、天井…至る所に魔封石があしらわれているためである。脆弱な石の強度を、レンガや岩石が補っている。ベッドに整頓された本棚、洗面台…鉄格子で区切られたその先には足枷を付けられた男。

「珍しいじゃないか。予定以外に人が来るなんて今まで無かったのにさ。…ひょっとして、頼んでた本もう届いた?」

その部屋の住人は、長髪の男だった。見た目は若い。二十代前半であろか?椅子に座って、鼻歌まじりに新聞の殺人事件の記事を切り抜いていた。薄ら笑いを浮かべて、牢獄越しにちらりと来客に目を遣って迎える。枢機卿長が応えた。

「キュルテン、貴様に仕事だ」

「仕事…?この僕に?ここに閉じ込め腐りやがった枢機卿長様直々に?…へぇ、仕事ね…。で、何?」

気味が悪い笑い声を漏らすものだ…。目線は新聞に向けられているというのに、眼光の鋭さがこちらにも伝わってくるようだ。この部屋全体にまで神経を張り巡らせているのだろうか?

「す、スパイ容疑のかかった人間が出てな…。知っている事を洗いざらい喋らせてもらい…」

話の途中だったが、キュルテンが顔を変えて返事をした。はしゃいだ子供のような表情だ。

「あぁ!成程なるほど!…って事は、そいつを僕の自由にしても良いって事かい?」

「あぁ、殺さなければ何をしても良い」

「なぁんだ…つまらない。でも久々だなぁ、おもちゃ。壊さずに済むかなぁ…」

手を額に当てて、高らかに笑い声を上げる男…。その狂気に満ちた表情は、一同を怯ませた。魂を抜かれたように、笑い転げる男を呆然と見続ける。と、思い出したように一人が小声で枢機卿長に聞いた。

「ギルバート様、申し上げ難いのですが…わざわざ彼に拷問を任せる必要があるのでしょうか?…あんな男に」

「あくまで人知れずに、だ。彼ほど今回の対処に適任なのはいないと思うが?」

「ですが、彼は危険です!万が一の事があれば…!」

「聞こえてるよ?ひそひそ話」

ビクッと、背筋に冷たい物が走った。いつの間にかキュルテンは笑い終え、憲兵に微笑みかけている。相手は牢の中といえ、息をするのも忘れてしまう恐ろしさ…

「ねぇ君…体を一切傷付けず、窒息させる事無く、言葉で心を壊さずに人をいたぶる方法、知ってる?」

突然、意味不明な質問を投げかけるキュルテン。何の脈絡も無かったため、男は「分からない」と返事をする事さえ出来なかった。呆れたように続ける。

「まずはね、対象に血を抜いて殺すって伝えておくんだ。その後、剃刀と血の受け皿を見せて、目隠しをした状態で磔にする。手首を切らない程度に剃刀を当てて、人肌に温めておいた水をそこに少しずつ流す…。水の滴る音がする位で丁度良い…。そしたらね、心が勝手に出血していると勘違いして、最悪その人は死んでしまうんだよ。面白いだろ?…そんな事も知らないくせに、口出ししないでほしいよ。全く…」

「かっ、…それとこれとは関係無いだろう!?いたぶり方どうこうが問題ではない!!いかに外部に漏らさずに出来るか、だ!!本来なら貴様のような危険人物に頼む必要も無い…!!」

「それでは、君が拷問をしてくれるかね?燃えカスとは言え半分は我らの仲間…傷付ければ神は大層お怒りになる事だろう…。血を浴びて穢れるが良い」

ギルバート枢機卿長が話に割って入る。

「そ、それは…」

言葉に詰まってしまった。血の穢れは古来より、あらゆる宗教で忌み嫌われてきたものだ。戦争が続いたためにそれが持つ意味は薄れてしまったが、それでも同胞の血を浴びる行為は現在でも禁忌とされている。

「そう、お前にはためらいがある。対して奴には無い。それもまた、彼を推薦した理由だ」

鍵の束を憲兵に預け、全員を鉄格子に向かわせる。

「それで、引き受けてくれるかね?ペーター=キュルテン」

最後の質問が投げかけられた。

「…えぇ、勿論」

不適な笑みを浮かべて答えるキュルテン。そして、最後の扉が開かれる。

…異端審問直前の出来事であった―



「離せ!離さぬか、無礼者!」

憲兵の小脇にリリムが抱えられてやって来た。精一杯の抵抗をしてみせるが、縄で縛られている上に力を失っている状態。どう足掻いたところで脱出は不可能だ。鬱陶しかったのか、男から拳骨が飛ぶ。ゴツンと良い音を立てた。

「んがッ!?」

「大人しくしてろ!下級悪魔の分際で!」

「かかかか下級じゃと!?今、このわらわを下級悪魔とほざきおったな!?誰に向かって口をきいておる!?魔界の王族、リリムじゃぞ!?本来ならば貴様ら人間如きが触れるのも叶わぬ崇高なる…」

更にもう一発。ゴッと鈍い音を立てた。痛みに耐えられず悶え苦しむ。

「くおぉぉぉ…!!」

「何が王族だ、何も出来ないくせに。どうせハッタリだろ?まぁ、そのお陰で燃えカス排斥の口実が出来たんだがな。ククク…」

「全く、狂っておる…!貴様、軍人であろう!?仲間が拷問刑にされて何とも思わぬのか!?」

「仲間ぁ?勘違いするなよ。確かに所属は軍になっているが…俺は憲兵だ。秩序を保つのが仕事。むしろ、混乱の原因を取っ払えて清々するぜ」

「貴様があやつの何を知っておるというのじゃ!?軽々しくその様な言の葉吐き捨てるでないわっ!!」

言い争いが続く。互いが互いを挑発し合いながら。見るからに拳を出せる憲兵の方が有利なのだが、それでもリリムは怒鳴り続ける。怒鳴らなければやっていけなかった。

そうこうしている内に、軍内留置所に到着した。他には誰もいないようだ。悪魔用の監獄なのだろう。鉄格子に結界の呪文が刻まれている。憲兵はその内の一つの扉を開けて、乱暴に抱えていた少女を放り入れた。

「くっ!」

鍵をかける男。じゃじゃ馬を相手に疲れたのか、肩を回して溜息をついた。すぐ傍の椅子に腰をかけて、このまま見張りもするようだ。

「貴様!覚えておれ!四回じゃ!審問の時放り投げたのと二発殴ったのと、今放り投げたので四回じゃ!力が戻った時は真っ先に…」

「リリム!?リリムなの!?」

聞き覚えのある声が牢の外から聞こえる。

「その声は…ルナか!?」

鉄格子に向かって行って確かめようとした。が、結界が作用して電流が走ったような感覚に襲われてしまう。ギリギリ結界に触れないように外を覗くと、見慣れたランタンが向かいの牢の壁にかけられていた。

「貴様、そんな所におったのか!?」

「えぇ。それより、クロードはどうだったの!?教皇猊下にお取り次ぎはしてもらえたの!?」

ルナが知っておるという事は、教皇との謁見…やはり何か計画しておったのじゃな…。じゃが、それが分かったところでどうにもならぬ!

「いや、それどころではない!クロードは教皇暗殺未遂容疑で拷問刑じゃ!」

「えぇっ!?そんな事する訳無いじゃない!!だって、クロードは教皇猊下の…ッ!!」

何か言おうとしたルナ。だが、一瞬憲兵の方を見て、口を手で押さえた。心臓が激しく鳴っている。呼吸を整えて、焦り早打つ胸を静めた。憲兵は怪訝な顔で彼女の入ったランタンを覗き込む。

「…何じゃ、どうした?」

「い…いいえ!何でもないわ!」

ランタンの中では表情が覗えないが、明らかに動揺している。しばらく沈黙が続いた…。落ち着きを取り戻しはしたが、代わりに理不尽な現状が飛び込んでくる。彼がもうすぐこの世を去るかもしれない喪失感、恐怖。目の前にいるのは彼ではなく、計画の鍵を握る悪魔…事の発端たる悪魔…

「…どうしよう、クロードが…。あんたが…あんたが素性黙ってないからよ!!」

「何じゃと!?貴様、わらわの所為だと言いたいのか!?」

「えぇ、そうですがぁ!?何か間違ってたかしらぁ!?いつもいつも親がどうだとか血筋がこうだとか…それしか能が無いのかしらねぇ!!」

「かかかか下級第一位の分際で!!どの口が言うておる!?戦う事すら出来ぬ貴様よりはマシだと思うがのぅ!?」

「っ!?言ったわね!?あんただってクロードに魔力もらわなきゃ何も出来ないでしょう!?この単細胞!!」

「フンッ!!チビのくせに口だけは大きいようじゃのぅ!!」

女二人、鬱憤のぶつけ合いが延々と続く…。堪りかねた憲兵が止めに入った。

「黙れ黙れ!!お前ら自分が置かれてる状況分かってんのか!?囚人は大人しくしてれば…」

「そっちが黙れ!!」

衝突し合う二人ではあったが、この台詞はピタリと揃った。小悪魔の方は、血走った目、額には青筋、牙を剥き出しにして睨みつけている。息を荒げて、文字通り怒髪が天を突いていた。ひょっとしたら本当に大悪魔なのだろうかと思わせる。一方、ランタンの中の天使。中がどうなっているかは不明だが、溢れ出す気迫が男を威圧する。牢屋越しとはいえ、わずかに身の危険を感じた。

「あ…はい…」

けなし合い罵り合いはまだまだ続く…。



この階段は、一体何処まで続くのだろうか?蜘蛛の巣だらけで埃まみれ…全然居心地の良いものではない。憲兵二人に導かれるまま、クロードは歩みを進めていた。体は何故か傷と青あざだらけ。息も絶え絶えである。

と、クロードが突然歩みを止めた。残された力を振り絞って、抵抗を示す。何とかして引き返さないといけない…こんな所で終わるわけには…。しかし、それを軍の監視者は許さない。警防で男の体を叩きのめした。

「がはっ!」

「全く…いい加減にしろ!!さっきから何回目だ!?潔さの欠片も無いな、裏切り者の燃えカスが!!」

テメェには分からねぇだろうけどよ…俺は、今死んだら駄目なんだ!約束を守…

声を出し過ぎて喉が枯れかけている。それ以前に、声を出す体力が無くなってしまった。焦点が合わない…体が重い…。力尽きて、ついに膝から崩れ落ちた。

「あーあぁ、お前、やり過ぎだって!血ぃ出てるじゃねぇか!浴びさせんじゃねぇぞ!」

「大丈夫だって。穢れるのは同胞の血を浴びた時だろ?こいつ、半分は黒だし、教皇暗殺しようとしてた奴だ。神様も大目に見てくれるって!」

「そ…そうかぁ?…まぁ、そうかもな。でも、これどうすんだよ?運ぶの面倒だぜ?」

「運ぶ必要なんて無いだろ?引きずってさ…」

「馬鹿だな。こういうぐったりした奴を引きずる方が返って労力使うんだよ…。オラ、起きろ!!」

無理やり体を持ち上げられ、立たされるクロード。そのまま手を離すとまた倒れてしまいそうだったため、二人がかりで支えて進んで行く。

畜生…。声にならない声で恨みの一つを述べた。

下りきった先にある鉄の扉の鍵を開ける。その向こうには更に二つの扉。その内の右側の扉の方から鼻歌が聞こえてきた。キュルテンはご機嫌なようだ。人の気配に気付き、より一層高らかに歌う。明るい曲調なのにもかかわらず、この言い知れぬ嫌悪感は何だ?雰囲気とミスマッチだからか?だが、そんな事は今のクロードにとってはどうでも良かった。

右の扉には結界の呪文が刻み込まれていた。その向こうの部屋にはペーター=キュルテンと、数々の拷問器具が待ち構えている。彼は器具の手入れをしながら客人を迎え入れた。

「やぁ、思ったより随分遅かったじゃないか。何かあったの?」

「すまない。こいつが抵抗するもんでな、色々手こずったんだ」

傷だらけでぐったりしている男に目が行く。その瞬間、彼の表情が一変した。今までの薄ら笑いとは正反対の、怒りの形相。手入れをしていた釘を握り締めた。刺す様な瞳が憲兵を捉える。

「へぇ、僕より先に手を出したんだ…」

…何て目だ。本当に人間の目だろうか?逃れなければならないと思いながらも、吸い込まれてしまいそうな、奈落のような目。殺気がヒシヒシと伝わった。

「そ、それよりギルバート様からの伝言だ…」

「…何?さっさと言ってよ」

「生きてる時も、死んだ後も好きにして良い…との事だ」

驚いたのか、目を丸くした。釘を落とす。チリンという金属音。同時に、彼は整った表情が歪む程の笑いを発した。それを形容するには、魔王、という言葉が適切だろう。

「最高ぉーだ!!公認のおもちゃが手に入った!!それならそうと早く言ってくれよぉ!!」

すっかり機嫌を直した男は、二人からクロードを半ば強引に受け取った。そして、部屋の中央にある十字架にかける準備を進める。鼻歌も忘れて、野獣の様に乱暴な笑い声を漏らしながら…。気が狂ってしまいそうな光景を、憲兵はただただ呆気に取られて見続けた。

「…あのさぁ」

キュルテンががっかりした声で言う。

「僕は一人で、ゆっくりと、遊ぶのが、好きなんだ。気を利かせられないものかなぁ?」

ビクッと背筋を正し、軽く敬礼。そのままこの場を離れる憲兵。一刻も早く出たい、外の世界の空気を吸いたいという思いは共通だった。

ドアが閉ざされていく…

「今度のは、どれ位持つかなぁ…?心と体、どっちが先に壊れるかなぁ…?」

ペーター=キュルテンの笑い声が、鉄の向こうに響き渡った。






BLACK OR WHITE? 6〜誰が為に騎士は行く.part4〜 part5に続く

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