y_miyakeのゲームAI千夜一夜コミュの俯瞰と主観と

物事には、本質的に二つの側面がある。
俯瞰と主観である。

俯瞰は物事の外へ外へ向かいながら、
その物事を観相する行為である。

絶対的な客体というものはないが、
俯瞰は、その物事に対して外へ外へと向かうために、
その物事の外へ出ることによって、
相対的な客観性を得ようとする手段である。
それは、当事者であることより、
観測者であることを選ぶ行為である。
さらに、大きな意味で言えば、
生の柵から、死の外縁へ向かう行為であり、
その辺縁たる死の境界へ近づくことと引き換えに、
知恵の実を得る行為である。

一方、主観は物事の内側内側へと入りながら、
物事と一体化しつつ、時間と変化を共にする行為だ。
死の外縁とは無縁の、生の柵の真ん中へ進むことで、
己の体を事物に捉えられることで、同時に物事と一体化し、
物事と相互作用をしながら、共に変化と運動をする行為である。

俯瞰でいながら主観、主観でいながら俯瞰であることは、
矛盾した行為である。だが、ある物事のエキスパートに
なるということは、この矛盾を超えることである。

スポーツ選手は、自分のプレーに集中しながら、
常にフィールド上で起こっているすべてを俯瞰する目を
持たなければならない。

棋士は、その局面の一手に集中しながら、盤面前面を俯瞰する
目を持っていなければならない。

研究者は、一つの問題に集中しながら、その分野全体に対する
俯瞰の目を持っていなければならない。

ちょうど我々が一日を懸命に生きると同時に、
人の生を永遠の中で捉えなければいけないように、

もし、ある物事に対する一流でありたければ、
その物事に対する俯瞰と主観を持たなければならない。

生と死と、時と一瞬と、行為と俯瞰と、
事物を観ることと、事物と一体化して行為することと、
二つの対極の中で、己のものとすること、
それが、賢明になることの本当の意味なのである。