アナタが作る物語コミュの【地方伝奇】Local limited！３.５　～神の敵のある一日～

原作　レイラ・アズナブル『神話夜行』
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今回お仕事がないでの、４ではなく、3.5です。
番外というか日常回の小ネタ集になっております。
馬鹿が五割増しなので、心の広い方の閲覧をおすすめします。

添付されてるイラストは、さとりさん作であります。
向かって左から、ロボ、スミ、絲蓮。
自分にとって史上最大のオマケです。

＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋

・起床の時間

「なんじゃこりゃああああああああああっ!?」

　大分県大分市、西洲。
　新日鉄にほど近いアパートに潜む神の敵の一日は、早朝の絶叫で始まる。

　洗面台の前でわなわなと震える人狼ロボ。
　鏡に映るロボは怒髪天を衝く形相を浮かべているが、着ているモノはえらく可愛らしくなっていた。　

　寝る前は『ネコ目イヌ科イヌ属』と大書されたTシャツと、紺のジャージ(ラインは二本)だったのに、起きるとピンクのワンピースになっていた。

　フリルやリボンがふんだんに使われたミニスカワンピで、スカート部分は非常に短いが下は同色のスパッツなので問題ない。
　白いロングブーツで絶対領域も確保されている。
　胸元は大きなリボンで飾られ、真ん中にはハートが刻印された金色のメダルがきらめいていた。
　頭には白い羽をモチーフにしたティアラが飾られ、ふんわりしたパフスリーブも羽をイメージしたデザインだった。
　手首の大振りなカフスは白とピンクで愛らしいが、どこか籠手を思わせた。

　……平たく言うと魔法少女のコスプレになっていた。

　その再現率は非常に高く、その道の人がいたら『言い値で買おう！』と言わしめる代物だったが、着ているのが一目で男とわかる細マッチョ強面少年(獣耳尻尾完備)なので需要はかなり狭まるだろう。

「蜘蛛てめぇええええええええええっ!!」

　特殊な性癖の持ち主しか喜ばないであろうその姿、嫌がらせ以外の何物でもなかった。

　現に、蜘蛛の魔物の絲蓮が爆笑を堪えようと息を殺しながら肩を震わせ、小さな拳でちゃぶ台を叩いていた。

「ぷっ……ぅくくっ……気づかない方が……ぷっく……悪いんですー」
　
　故郷を恋しがって屋上で遠吠えするロボをうっとおしく……いや見かねたスミは、『自分に一撃かます事ができたら修行完了とみなす』と言った。
　どんな形であれ、攻撃が当たれば帰っていいと。
　そして就寝時の奇襲を禁じなかった。

　丸腰の女相手に卑怯な事はしたくないと言ったロボにスミは『気づかない方が悪い』と返した。
　ロボは釈然としなかったが、絲蓮が嬉々としてロボに襲撃という名の嫌がらせをするようになった。

　顔への落書きから始まり、恥ずかしい服への強制早着替えへと。

　蜘蛛の魔物の絲蓮に掛かれば、イメージした通りの服を作って着せる事は造作もない。
　それどころか、この家の衣料品や寝具、雑巾の一枚にいたるまで糸と布でできた物は全て絲蓮の手作りだった。

　そしてこれまでロボが絲蓮の奇襲を阻止できた試しがなかった。

「畜生ぉぉぉぉっ！あの蜘蛛泣かす！いつか絶対に泣かすッ!!」

　ロボは涙目で魔法少女コスをむしり取りながら叫んだ。
　その叫びをアラーム代わりに、のっそりとスミが起きる。

「師匠、おはようございますです。味噌汁の具は何がいいです？」
「茄子」
「おーだー茄子の味噌汁ー」

・朝練の時間

『あーたーらしーぃあーさがきたー』

　最寄の公園で人間に混じってラジオ体操をする三人。

　ロボはイライラと。
　絲蓮は大人受けを意識してにこにこと元気よく。
　スミは頭にタマを乗せ、半分眠ったままで。

　ラジオ体操が終わり、人間の皆さんが帰るのを確認して、絲蓮は人避けの簡単な結界を公園に張った。
　スミは棒切れで地面に直径５０㎝の円を描くと真ん中に立った。　
　絲蓮はスミの両手の親指をティッシュで作った紙縒りで縛り、右足のサンダルを取り上げた。

「タマちゃんちょっとのいて下さいね」
「なー」

　スミの頭のタマを取りのけ、代わりに一丁の絹ごし豆腐が入った皿を置いた。

「師匠、これ今日の朝ごはんのおかずですので」
「ん」
「というわけでロボコン君、師匠を輪の外に出すか、両手を使わせるか、右足地面につけるか、頭の豆腐を落とせば勝ちですぅ」

　手合せと言うには、ハンディキャップがガチ盛りだった。
　もうどっちが修行を受けてるのかよくわからなかった。

「てめえらどれだけオレを馬鹿にしやがる!!」
「真面目にこれだけやんないと、お話にならないです」
「丸腰で縛られた女を殴れるかっ!!」
「そんなカッコつけて、またあの時みたいになったらどうするですか」
「ぐっ……」

　以前、実践に近い形式でスミとロボが手合せした際、端的に言うとロボの腹筋がくぱぁして、内臓チラリズムとなった。
　ミンチよりましな状態で留める事ができたスミは喜んだが、絲蓮はロボのお腹を縫うのにしんどい思いをした。

　以来、スミ側の得物は斧から竹箒になり、まごの手になり、ススキの葉っぱになり、うまい棒になり、終いには両手が縛られる事になった。

「師匠の為なら消防服からベビードールまで何でも縫えるですけど、男の腹筋や太陽神経叢を二度も三度も縫うのは嫌ですぅ」
「縫ってくれとか頼んでねぇよ」
「タマちゃんが君のはみ臓物にじゃれついたらどうするですか。教育に悪いです」
「………」

　猫はぷらぷらとしたモノが大好きだ。
　きっとちゃいちゃいと前足で小突き回すだろう、そして飛びつくだろう、そのままくわえて転げ回るだろう。

　具体的な想像(R18-G)をしてしまったロボはへその裏あたりがひゅんと寒くなった。　

「制限時間は僕が朝ご飯を作り終えるまで。よーい、スタート」
「往生せいやああああああああっ！」

　内心の怯えを振り払うように、勢いよくつっこんで行ったロボは、左足を軸にコマの様に回転したスミに跳ね飛ばされて星になった。

「師匠、せめて3ターンはもたせましょうね」
「……善処する」

　ナスの味噌汁をすすりながら反省会をする蜘蛛と牛。

　ロボがアパートに戻ってきたのは、絲蓮が洗い物をしている頃だった。

(コメントに続く)

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[1] mixiユーザー 08月02日 23:28

・おでかけの時間

　朝練と朝食をすませるとスミは涼しい窓辺でごろりと横になった。

「食べてすぐ寝ると牛になるですよ」
「牛だ」
「そうでした」

　スミは基本的に『仕事』がない時は、ほとんど寝て過ごす。
　寝てない時は何かを食べているか、ぼんやりと視線の先にあるものを眺めてじっとしている。
　実に牛らしい生活スタイルだが、てっとり早く強くなって北に帰りたいロボは非常に面白くなかった。

「おい起きろ！修行はどうした！何か言えぁぁぁあああっ」
「あとでなー……すぴー」
「後っていつだよ!!」

　その脇でネットサーフィンをしている絲蓮は『休日のお父さんに遊んでくれとせがむ子供のようだ』と思ったが黙っている事にした。

　大の字になって眠るスミに、ロボは拳を握りしめた。
　スミの『自分に一撃かます事ができたら修行完了とみなす』は常時有効だ。
　今ならやれると思うのと同時に、女の寝込みを襲うのは変態の所業だというささやかなプライドがブレーキをかける。

　それに何故だか、寝入るスミに攻撃を仕掛けた瞬間、『頭をかち割られて眼球を飛ばす自分』だの『腹を蹴られて内臓をまき散らす自分だの』が脳裏に浮かんで手足が重くなる。

「相手の反撃がイメージできない真性の馬鹿ならとっくに死んでるのに、意外としぶといです」

　絲蓮は人外専用掲示板『安価で弟子を修行させるスレPart16』を閲覧しながら、ぽそりと残念そうに呟いた。　

「なー」

　窓(七階)からタマが帰ってくると、硬直しているロボを一瞥し、トコトコ歩いてスミの腹の上で丸くなった。

　正体はグリフォンで鋭い猛禽の鉤爪を隠し持った子猫を鳩尾のあたりに乗せたままスミは一時間ほど惰眠を貪っていたが、唐突にぱちりと目を開けるとのっそり起き上がり。

「出かけるぞ」

　唐突に起きたスミは唐突にその日の予定を決めた。
　
　タマはスミの腹から降りて、屋上に向かい、絲蓮は冷蔵庫の残り物で手早く弁当を作った。
　長年の気心が知れた者同士の息のあった行動に、ロボだけが取り残されてキョロキョロする。

「ロボコン君何やってるですか」
「お前らこそ何やってんだよ!?」
「お出かけの支度です。君もちゃんとしたかっこするですよ」
「今朝のアレはてめえのせいだろが！」
「てへぺろ☆」

　10分後、アパートの屋上に集合する三体と一頭。

「はい、それではお出かけ前の服装チェックしまーす」

　セーラーシャツと半ズボンの絲蓮が、作業服のスミとジャージのロボとグリフォンに戻ったタマをしげしげと眺めた。

「師匠、右の角が隠れてません」
「こっちか」
「そっち左です。僕から見て右だから逆です」

「タマちゃんは今日もかっこかわいいです」
「ガウッ」

「ロボコン君、耳と尻尾が丸出しです。どこの層狙ってるですか」

　ロボの耳は狼の耳。
　腰パンなジャージからはふさふさの尻尾が荒ぶっていた。

「帽子かぶるなり幻術頑張るなりして引っ込めて下さい」
「何で隠す必要があるんだ」
「人間さんがびっくりするからです」
「人間なんぞの都合に合わせる必要なんざねーだろ」
「タマ公はすっぴんじゃねぇか！」
「タマちゃんは子猫姿のが長いので、むしろ元の姿をチェックする必要があるのです」
「ちくわ大明神」
「誰だ今の」
「コスプレは会場内でお願いするですよ」
「オレが、オレのままでいて何が悪い」

　絲蓮とロボの口論は、タマが給水塔の陰でくつろいで、スミが一度部屋に戻って、また帰ってきても続いた。

「僕のような完璧な偽装ができない事をひがんでるですね、かわいそうに」
「すっぴんで外歩けねぇ臆病もんが！」
「私に言い考えがある」

　がしりとスミの左手がロボの耳を掴んだ。
　そして右手にはきらりと光る出刃包丁。

「ぎゃあああああ何をするだあああああああっ!?」
「ちょっ……師匠それ失敗フラグーーーーーッ!!」

　
　この日、ロボはそれまで苦手だった偽装術を驚異的な短期間でをマスターした。

[2] mixiユーザー 08月02日 23:33

・修行の時間

　大分県玖珠郡九重町。

　1956年、夏。
　地元商店会の若者が『谷に橋をかけりゃ滝も紅葉もきれいに見えるぞ』と言い、長老達は『寝ぼけている、誰が金を出すのか』と一蹴した。

　2006年、秋。　
　高さ173m、長さ390mの日本一の大吊り橋(歩行者専用)が開通した。
　この吊り橋は長年の夢のような話から九重"夢"大吊橋と名付けられた。

「何が"夢"だよ。どいつもこいつもおめでてーな」

　男は憎悪と絶望の混じった声で呟いた。
　世界は男を裏切った。

　男がデビュー前から応援していたアイドルがデキ婚したのだ。

　男はこの世の全てに絶望していた。　

「ビッチが……人の心を弄びやがって」

　イベントで握手しただけだが、男はアイドルをアイドルにしたのは自分が応援してあげたからだと思っている。

　これまでCDとグッズに費やした金と時間は裏返った価値で男の心を押し潰した。

　もう死ぬしかないと思った。
　ただ死ぬのは嫌だとも思った。

　だからここで自殺する事にした。
　人がたくさんいる観光地で派手に死ねば、その場にいた奴全員が嫌な思いをするだろう。
　場合によっては一生モノのトラウマになるかもしれない。

　どちらを向いても家族連れやカップルが見える。
　皆楽しそうだった。

　そいつらの今日一日の思い出が人生最悪のモノになる。

『ざまあみろ』

　そう思うと男の暗く歪んだ心から笑いがこみあげた。

　通行券を買って、橋に入ると意外にもそこはすいていて、真ん中に妙な三人がいるだけだった。
　

「師匠、ほら震動の滝が見えますよ。日本の滝百選ですぅ」
「九酔渓もよく見えるな」
「紅葉の季節になったらまたきましょう」
「………ふん」

　景色を楽しむスミと絲蓮をロボは冷めた態度で眺めていたが、幻術で隠した尻尾はばさばさと上機嫌に揺れていた。

　北の大地でのびのび育った人狼の嗅覚には、アパートのすぐそばに新日鉄を始めとした工業団地というのは辛いものがあった。
　そんなわけで現場が高原や山岳地帯だったりすると、無意識にはしゃいでしまう。

「絲蓮、例のモノを」
「はい師匠」

　絲蓮は牛の皮を骨を模した形に巻いたモノ……いわゆる犬ガムをスミに渡した。
　スミはそれをロボに一度突きだしてみせると。

「とってこい」

　九重連山に向かって大きくふりかぶって投げた。

　人間の目にはわからないが、人外の目には犬ガムが九重連山の岩肌に突き刺さったのが見えた。
　スミなりに精いっぱい力をセーブしたのだろう、山の輪郭が崩れたり、クレーターができる事はなかった。

「オレは犬じゃねぇぇぇぇぇぇっ!!」
「知ってる」
「殺す気か!?」
「大丈夫だ。昔、ここより三倍高い所から落とされたが、特に問題はなかった」
「制限時間は売店で買ったソフトクリームが溶けるまでですぅ」
「行け」

　スミはロボを吊り橋から蹴り落とした。

「ぎゃあああああああああああああああっ!?」

　

「わーーーーー人殺しーーーーーーっ!!」

　一部始終を目撃してしまった男が悲鳴を上げると、スミと絲蓮はくるりとそちらを向いた。

「絲蓮、結界は？」
「てへぺろ☆」

[3] mixiユーザー 08月02日 23:34

　スミは腰を抜かして震える男の襟首を掴んで首を傾げた。

「ぎゃああああ鬼ぃぃぃぃぃっ!?」
「惜しい。牛だ……見えているのか」

　男にはスミの頭から生える角が見えていた。
　人間の中にたまに『視える』者がいたりする。

「師匠、問題ないです。その人間さん今から死ぬ予定みたいですぅ」

　絲蓮が男のポケットから遺書を取り出し、広げて音読する。
　まさにいじめっこの所業であった。　

「アイドルがデキ婚したから死ぬって、ぷークスクス」
「お前なんかに何がわかる！あの子は僕の光だったのに！それが……それがあああああっ」
「僕ｗのｗひｗかｗりｗ」
「絲蓮よせ」

　スミは絲蓮を止めたが、男の襟首は掴んだままだった。

「うちの弟子がすまない。詫びと言ってはなんだが、お前の手間を省いてやろう」
「……えっ？」
「好きな方角を言え、そっちに投げよう」
「ちょっ…何言って……？」
「師匠は人間さんの自殺を手伝ってくれるそうです」
「……自殺？」

　そこでようやく男は自分が何をしに九重"夢"大吊橋に来たか思い出した。

「大丈夫、うちの師匠なら人間さんを音より早く投げ飛ばせます。そうしたら衝撃波で人間さんは木端微塵になって色々と楽です」

　絲蓮は誇らしげに胸を張り、男の顔色は真っ青を通り越して白くなった。

「人間さんは苦しみを感じる間もなく一瞬で死ねて、僕らはお片付けの手間が省ける。まさにWIN-WINの関係です」
「決められないか、ならば極楽浄土があるという西に投げよう、せーの」
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

　ロボが犬ガム片手に九重"夢"大吊橋に戻り、売店に行くとハンバーガー(猪肉)を無心に食らうスミと、その頬についたソースを拭う絲蓮と、溶けたソフトクリームを舐めるタマと。
　それから膝を抱えて泣きじゃくる人間の男がいた。

「てめぇらよくも……って、何だそいつ」
「ただのへたれですよ」
「死にたくない死にたくないごめんなさいごめんなさい死にたくない」

　その後男は、今日の記憶を消されて家に帰された。
　記憶が消された影響か、心境の変化か、ファンだったアイドルへの執着が消えた男は、別人のように人当りが良い好青年となり、半年後には上司の薦めで見合いして結婚した。

　概ね充実した人生を送ったが、ただ牛や胸の大きい女性を見ると、顔が青ざめ全身が震える謎の症状に悩まされたという。

[4] mixiユーザー 08月02日 23:39

・ふわふわの時間

　新日鉄にほど近い、日岡公園。

　犬の散歩やウォーキングに興じる人がふと途絶えた夕暮れ時。
　芝生に大きな影が落ち、羽音と共に異形の獣が降り立った。

　大きな翼の生えた獅子に見えるが、その頭部と前足は猛禽であった。

　グリフォン。
　黄金の守護者の異名をもつ、獰猛な魔獣。

　よく見れば頭部を三角の耳羽が飾り、全身を薄い縦縞の斑紋が覆い、獅子よりも虎に近い印象がある特殊個体だ。

「やいタマ公！てめぇみたいなのをユニークモンスターって言うんだってな」
「ガゥ？」

　突然現れたロボにビシッと指をさされ、グリフォンモードのタマはきょとんと首を傾げた。

「ユニークモンスターってのは普通のより体力あったり攻撃力高かったり妙な術を使ったりするんだってなぁ」
「グルル……」

　タマは地面をテコテコ歩く虫を見ていた。

「だがしかしっ！オレはそんなの恐れないぜ!!……てめぇの弱点を見破ったんだからな！」

　ロボの闘気が膨れ上がり、タマの耳羽がぴんと立った。

「だっしゃああああああああっ」
「クケェェエエエエエエエエッ」

　ロボの初撃をタマはその巨体に見合わぬ軽快な動きで避けた。
　空中から急降下して前足の鉤爪でロボを捉えれば勝負は一瞬でつくのに、タマはそれをしない。
　いつもこうしてロボを大きなネズミに見立てて楽しんでいるのだ。

「そーやって余裕ぶっこいてろよ……オラァッ!!」

　ロボは正面から一気に間合いを詰め、岩をも砕く嘴を紙一重で躱してタマの胸羽を掴んだ。
　そして地を蹴ってタマの首によじ登って跨った。

「マウント取ったあああああっ！」
「ガァーーーーーーッ!!」

　タマは高く飛び上がったり、ドリフト走行して振り払おうとするが、ロボの両足はタマの首にがっちり巻き付いて離れない。
　ロボはニヤリと笑って両手の指をくっと曲げた。

「タマ公、てめぇの弱点はここだああああああっ!!」

　ロボは両手をタマの耳羽の後ろにつっこみ、わしゃわしゃと掻いた。

「グルァッ!?」
「よーしよしよしよし」

　ロボの手の動く範囲が耳羽の後ろから喉の下まで広がると、タマは目を細めて大人しくなった。

「よーしよしよしよしよしよしよし」
「グルグルグルグル」
　
　翼の付け根をまさぐられ、尻尾の付け根あたりを時に荒々しく、時に繊細にくすぐられたタマは喉を鳴らしながら地面にごろりと寝そべった。
　お腹を丸出しにして、ごろんごろんと寝返りを繰り返す、もう好きにして状態だった。

　もちろんロボはリクエストに答えてタマのお腹を思う存分に掻き回した。
　タマの背中側はブラシの材料になりそうな程固い獣毛だったが、お腹側は真っ白でふわふわのダウン100パーセントだった。

「お前すっげぇもふもふだなー」
「ぐるる」
「トゥスニッケより柔らけーな、あははは……は」

　ロボがふと顔を上げると、買い物袋をさげた絲蓮と目があった。

「……」
「……」
「がぅ？」
「……」
「……」

　石のように固まって見つめ合う互いのこめかみから冷や汗が一筋、すぅっと流れた。

「うるせぇバカヤローーーーーーーーッ!!」
「僕まだ何も言ってないですっ!?」

　ロボは叫んで夕日に向かって駆け出した。
　あっという間に見えなくなったが、夕食の直前ギリギリには帰ってきたという。

[5] mixiユーザー 08月02日 23:46

・装備選択の自由時間

　夕食後。
　スミが押入れを開けると、重い音を立てて無数の武具が崩れ落ちた。

「好きなのを選べ」
「は？」

　長剣、短剣、打刀、長槍、パイク、ランス、手斧、板斧、ハルバート、クレイモア、こん棒、モーニングスター、九節鞭、ボウガン、戦鎚、メリケンサック、レイピア、斬馬刀……
　
　鈍器や両手持ちの武器が目立つが、様々な種類の武器があったが、どれも実用一点張りの簡素で武骨な拵えだったが、何かの魔法がかかっている気配がした。

「刻まれた呪文は"転送"のみ、宝貝の類はないが、丈夫さは保障する」
「どういうつもりだ牛女」
　
　ロボの犬歯がギリッと鳴った。

「丸腰の子供を現場に出すわけにはいかない」
「オレはガキじゃねぇ……丸腰でもねぇよ」

　両の拳をぎゅっと固め、渾身の右ストレートをスミの鼻先で止めた。

「男の武器はこれ一つで充分だ」

　スミの碁石のような目がロボの拳を見つめると、やがてふっと息をついた。

「笑うな！！」
「お前は本当にウェンカムイが親なのだな」

　思い出すのは白く霞むほどの豪雨。
　血と泥の味。
　にやりと笑う羆の悪神。

『素手ってのは便利だよなァ……握れば槌になるし、開けば刃になるし、広げれば網になって暴れ牛を捕まえられる』

　地面に縫いつけられたように動かぬ身体。
　血に狂い、破壊に淫した己はこのまま首をねじ切られるのだろうと、他人事のように受け止める。

　殺せと誰かが叫び、たくさんの声がそれに同ずる。

『殺せ！』
『殺せ！』
『審議など必要ない』
『今のうちに殺せ！』
『生かしておくには危険すぎる』

『どやかましいやい！俺がぶちのめした牛だ。どうするか俺が決める!!』

　啖呵を切った羆は牛をずるずると引き摺っていく。

『なぁ、牛よ。素手ってのは便利なもんだ。女の涙を拭ってやれるし、声もでないほど腹ぁすかしたガキに飯を食わせてやれる』　　

　羆はそうして牛の口に握り飯を押し込んだ。
　もぐもぐと無言で頬張る牛の目から凶相が消え、羆はガハハと笑った。

『これほど男らしい武器はねぇだろ』

　思い出の中の男にも、目の前の少年のように勢いだけで突っ走ってた頃があったのだろうか。
　そう思うと心のどこかがふにゃりと緩むような感触がした。

「笑うなっつってんだろ！」
「私は笑っていたのか」
「笑ってた!!」
「お前は怒ってばかりなのにな」

　自分がその原因である事をスミは特に気にしていなかった。

「拳は真の強者のみに許された武器だ」
「知ってらぁ！」
「扱い方を間違えたら」
「オレは死なねぇ！」
「――気が狂うぞ」

　己が両手で敵の身体と命を潰す感触を快感と感じ、それに溺れればあとは落ちるばかりだ。

「だからてめぇは、こんなに武器をため込んでるってわけか」
「そうだな」

　スミは否定をしなかった。

「師匠ーお風呂わきましたよー」
「わかった」
「おいちょっと待……脱ぎながら歩くなあああああああっ!!」
「師匠！脱いだ服は洗濯籠に入れてっていつも言ってるじゃないですかー！」

　後に残されるのは脱ぎ捨てられた服と、弟子二人。

「何しょっぱい顔してるですか。師匠に主武装を聞かれたのでしょう？」　　
「素手で充分だってのに」
「次の現場から君を前衛に出すって事です」
「マジで!?」
「マジです」
　
　ロボの驚愕に強張った顔がみるみる内に喜びに緩んだと思った次の瞬間、きりりと引き締められたが、その尻尾はばさばさと揺れていた。
　死ぬまで大分でスミと絲蓮におちょくられながら過ごすのかと、半ば諦めていた。

「屍の山を築いてやる……見てろよチビ蜘蛛、てめぇなんかにゃ負けないからな」
「あ、僕。戦わないです」
「ファッ!?」

　ぷるぷると首を振る絲蓮。
　その両肩を掴むロボ。

「見てわからないです？こんなか弱い少年が、向こう側の連中に太刀打ちできるわけないじゃないですかー」

　実際、スミが戦って、絲蓮がその他全般を担当する完全分業制が出来上がっていて久しい。
　
「見た目に反して実は強いとかそういうんじゃないのかよ！」
「そんな固定観念丸めて捨てるですよ」
「弱いんなら何でそんなに偉そうなんだよ!?」

　その瞬間、絲蓮の両手がひらひらと動いたかと思うと、ロボの服がフリルとリボンたっぷりのゴスロリワンピになった。
　白いレースで縁取られた黒いリボンがしゅるしゅると伸び、ロボの手足を絡め取って床に引き倒した。

「僕が偉そうなのは、君より賢いからです」
「もがー！むぎぎー！」

　絲蓮はロボの耳がリボンで塞がれているのを確認して、せいぜい頑張るですよと呟いた。

【終】

[6] mixiユーザー 08月02日 23:58

以上、神狩りの魔のぐだぐだな日常でした。
ネタのほとんどがさとりさんと話してる最中に沸いたとか言えない。

次回は待望の水着回で蜘蛛が牛にブラジル水着を着せるために奮闘するお話……になるかどうかわかりません。

[7] mixiユーザー 08月03日 00:53

　おもしろいです。おもしろいです。本当に、キャラがたってて素敵。
　さとりさん、さし絵のかたですね。
　お友達と話し合っているところを想像しちゃいました。