柔弱漢詩コミュの『新春』　真山民

『新春』　真山民
餘凍雪纔乾　　　寒さが残っているので、雪もようやく融けはじめ
初晴日驟暄　　　晴れて気温も急にあがってきた。
人心新歳月　　　人々の気持ちは新しい年への希望に満ち
春意旧乾坤　　　春の気分は昔からのこの天地に溢れてきた。
煙碧柳回色　　　柳は芽ぶいて元の色に戻り、緑に霞み
燒青草返魂　　　草も生き返ったようで、野焼きの痕も青くなっている。
東風無厚薄　　　春を告げる東風は誰とか彼とかの区別をせず
隨例到衡門　　　いつものように、このそまつな門にも吹いてくる。

真山民は、生まれも経歴もさっぱりわからない詩人です。宋の度宗の咸淳(1265～1274)末ごろに在世し、宋末進士に及第し、宋の滅亡とともに行方不明になったと伝えられています。

個人的には、新年の詩というとまずこの詩が思い浮かぶほどに気に入っていますが、これ以外の真山民の詩は知りません。

真山民には詩集『真山民集』が残され、江戸時代には高く評価され、明治に入っても中江兆民が真山民の詩を愛読したともつたわっていますが、近年の詩の歴史や総集にはさっぱり取り上げられていません。

一海知義さんのこの詩の解説のなかに「字づらをながめている方が味わい深いけれど」という文面がありますが、この詩の眼目は、当然尾聯の「東風無厚薄　隨例到衡門」です。真山民の言わんとするところもここにありますが、首聯の「纔」、「驟」の使い方は息をのむほどに見事と感服していますし、頷聯、頸聯の対句も平易な単語を並べて素晴らしいできと思っています。

良い一年を!

参考
一海知義『漢詩一日一首』(平凡社）
黒川洋一『漢詩歳時記』春の一（同朋舎)