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さしゃの二次小説(ハリポタ)コミュの本編第十二章 特訓と成果7

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ハリポタ二次小説 レナスの物語

第十二章 「特訓と成果」7 暴走



「うっへー……。これで何日目…?」

「何日でも、何回でも。出来る様になるまでやるよ。」


あれから、約一ヶ月。毎日毎日同じ事を繰り返す3人。


レナスは、イメージの伝え方を変えたり、講師をアルティアにしてみるなど、まさに試行錯誤を繰り返した。

角を出させてみたり、引っ込ませてみたり。
寝転んでみたり、体力を作ってみたり、逆立ちしてみたり。
からかって怒らせてみたり、泣かしてみたり…。

角や、シッポ、翼を出さない様にするのなら、出し入れを出来る様になってしまえば良い。

そう考えての事だった。


要は、半人間の制御というものは、人間の姿を保つ事、だと。



しかし、成果は全くと言って良いほど、得られない。



ドラゴン特有の角も、小さな翼も、ひょんな事で出てきてしまう事がある。
それでも、引っ込める事が出来ない。


出て来たら、引っ込むまで、部屋を出る事さえ出来ずに、真夜中まで立ち往生する事もあった。
下手をしたら必要の部屋に宿泊する事さえも。

さすがに、翌日の授業には間に合ったようだが、徹夜明けで、授業に集中できる訳が無い。

いざ、寮に戻って眠る事になった日は、まるで泥の様に眠り続けた。

ビルや、チャーリー、パーシー達にも案じられはしたが、どうにもならない現状だった。


そして、睡眠時間に関わらず、毎日やってくる、放課後の訓練。
休みを入れようかと提案したレナス達だったが、ギルガ本人のやる気を削ぐ事は出来ない。

こんな成果のない日々が一ヶ月続いてしまっては、いくら半人間の彼らと言えども、もはや精神的にも限界が来ていた。


精神的にも、肉体的にも、疲労困憊としている事に加えれ、寝不足が3人を容赦なく蝕んでいく。



そして…今日に至る。




「ちょっと…休憩しよっか?」

「そう…だね…。」


さすがに、こう毎日成果が出ないと凹むな…。

レナスは途方にくれる事しか出来なかった。もちろん、教え方に問題があるのは、否めない。
どう教えて良いのか、手探りの状態で成果を得られるはずが無い。教える側も、覚える側も、初めての試みなのだから。


レナスは、ギルガに視線を向ける。
彼も、もはや体力の限界なのだろう。肩で息をし、立っているのがやっとの状態だった。
時々頭を振り、正気を保つのに必死の様だ。


「ギル…、ちょっと、休憩しよ?お茶とか飲もうよ。」

「大丈夫!俺、まだやれるっす。」

「今はちょっと休もう。頭と体を使ったら、休ませる時間も必要だからさ。」


見かねたレナスは、ピンピンと遊ぶように跳ねる髪に触れて、その緑の頭を撫でる。
よほど集中しているのだろう。汗で額に髪が張り付いているくらいだった。


「お茶、入ったよ?」

「うん。ありがとう、アル。ね?ギルもお茶しよう?」

「…………解った……。」


レナス達さえも行き詰っている事を察したのか、ギルガは視線と肩を落とし、テーブルにとぼとぼと向かう。

力なく椅子に腰を下ろし、目の前に差し出されるお茶には目もくれず、只々アルティアの動作を見送る。


そんなギルガが…、痛々しく思えてしまうレナスだった。


「気落とさなくていいよ。集中できる時間は、日に日に増してきてるし、この分だとあっと言う間だって。」

「そうだよ、ギルガ君。さぁ、紅茶飲んだら、また頑張ろう?」


あからさまに空元気の言葉。
しかし、レナスは解っていた。ギルガの前で弱音を吐く事が、どれだけ残酷な事か…。

弱音を吐けば、ギルガは責任を感じずにはいられない。

彼女は、それが、弱音を吐く行為そのものが、ギルガを見捨てるに等しい行為だと知っているのだ。


不安を与える訳には行かない。駄目だと思わせたら、希望を失わせる事に成る事を、彼女は十分理解している。


何より、彼女は自分自身に立てた誓いを、守ろうとしている。
この少年の為に。


そして、それはアルティアもまた同じ。




「ごめん……。」




しかし、そんな2人の心情とは裏腹に、ギルガの口から出て来た、力ない言葉。


俯き、どんよりと重い空気が彼を覆い隠そうとする。


その言葉が、アルティアとレナスを貫く。



絶望にも似た…


彼の…諦めかけた心情が、ギルガ自身を侵食していく。



「俺……迷惑かけてるよね……。絶対……。」


ここで絶望を与える訳には行かない。
レナスはとっさに、明るく振舞ってみせる。


「そんな事ないって!迷惑だって思ったら、最初から断ってるっしょ。」


落としたい眉を上げ、出したくも無い明るい声を出す。

落ち込みたい気持ちは、恐らくギルガもアルティアも同じなのだろうが、レナスには何があっても、そうしては為らないと言う信念があった。

指導者にふさわしくない行動が、どの様な事かを思い知っている為だ。


しかし、ギルガは声を荒げる。


「じゃあ、その目の下のクマは何?!疲れてるんだろ?寝不足なんだろ?!フラフラしてるのだって知ってるんだぞ!!」

「……ギル……。」


小さな体は、背中を丸め俯いたまま、拳を握って小さな肩がフルフルと震えている。

悔しさと憤り、自分に対しての情けなさを押し隠すような…。


「俺…、駄目な奴なのかも…。」

「自分で自分を追い込んでどうする…。」


小さな体で、今まで耐えて来た。
不安もあっただろう。
諦める言葉をいっさい言わずにやって来た。

レナスがどんなに厳しい事を言おうとも、それを吸収し、自分の物にしようと必死だったギルガ。


そう、レナスと本音でぶつかったあの日から。


そんなギルガの姿を知るレナスは、上げていたはずの眉を落とす。

やるせない…やりきれない…。
励ましの言葉さえも見付からない。


只々…優しく、彼の小さな背中を撫でる事しか出来ずにいる。


しかし…、ギルガの小さな体の内側で、押し殺したものがあふれ出て、顔を出す。


止まらない感情。

泣き出したい衝動。

自分を責める。


「だって、どんなに頑張ったって、俺、全然だめじゃん!!」

「ギルガ君、ちょっと落ち着いて?ね?」


アルティアの制する声が起こった瞬間、大気が揺れるのが解る。
まるで、空間が捻じ曲がって行くかの様な……。



まずい………!!




「どうせ駄目だったら、俺迷惑なんかかけたくない!!」







俺なんかのせいで……―――!!!!!







俺なんか…居なくなったほうがマシだ……―――!!!!!







バリバリバリバリバリバリバリ!!!






突如、何かにヒビが入るような音。






「避けろ!!!!」






とっさにアルティアとギルガの襟元を鷲づかみ、ねじ伏せ、後ろへ一気に




飛ぶ!!




勢い余って、着地に足を取られるが、何とか軸足を元に体制を立て直すレナス。

その場に膝を付き、自分達が座っていたテーブルに視線を向ける。







その瞬間








ガシャァァァァァンンンンンン!!!!










降ってきたシャンデリアが、けたたましい音と共に、テーブルを押し潰す。使っていた紅茶のカップが跳ね飛ばされ、欠片が宙を舞う。今まで使っていた片鱗は無い。


「ギル…少し落ち着け…!」


腕の中のギルガを抱き起こし、説得を試みる。しかし遅い。
小さな体から放たれる物。


「あああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」


頭を抱えたギルガの劈く様な叫び声と共に、レナスの耳は音を拾えなくなる。
彼の悲鳴にも似た叫び声で、レナスの鼓膜は完全に破壊されたのだ。


ギュルギュルと音を立てて、黄色い光の光線が、壁、天井、床、無数に飛び散り、突き刺さる。
しかし、そのけたたましい音さえも、レナスの耳には入らない。


鼓膜の痛みで、レナスの脳には衝撃が走る。
絡め取られて行きそうな意識を、なんとか繋ぎとめる。



残された視覚のみで確認できる物。


激しいイカヅチのような光。


彼の目は見開かれ、瞳孔が開き、まるで、意思を持たない人形のように、全く動かない。


「ギル!!しっかりしてくれ!!」


レナスの視線の端に映りこむ飛礫。
まるでレナスを狙ったかの様に、コンクリートの欠片が、襲い掛かる。

聴覚を失ったレナスは、一瞬判断を誤った。



防御する術ならいくらでもあったはず。
レナスは、とっさに腕をなぎ払い、直撃を防ぐ。


「くっ………!!」


腕に鋭い痛みが走り、声が漏れる。
脳みそごと持っていかれそうな衝撃。


しかし、そんなものを気にしている暇は無い。


次から次へとやってくる飛礫を、片腕だけで払い除ける。


腕から、温かいものが滴って行く。
自然と、温かく滴る部分に腕をあてがう。


鋭い痛みが体を貫き、片目を閉じ、顔がゆがむ。



「まずい……折れてる……。」



拳大の大きさなら何とかなると思っていた。


アルティアや、レナス自身は、半人間の力だけが暴走するなら、ガラスを砕いてしまう程度で済んでいた。

にも関わらず、ギルガは丈夫に作られたコンクリートの壁をえぐった。恐らくこの必要の部屋に設けられた壁のコンクリートは、岩よりも硬い。


なんてやつだ……。


止める事に出来ない、底知れない力。
レナスはその力に圧倒され、一瞬怯む。



「頼むギル!起きてくれ!!」



無事な片腕で、ギルの肩を揺さぶる。
まるで、助けを求めるかの様な思い。



しかし、制御不能に陥ったギルガの力は完全に……





暴走した……





光線に当たった壁からは、コンクリートの欠片の嵐。
天井からは、鋭く尖ったシャンデリアの雨。



全てが凶器に変わり



迫る…




守らなきゃ……!!!






杖が握れない……!!






だめだ……このままじゃ……





レナスは、ギュッと目を閉じ、ギルガとアルティアを自身の体の下へとねじ込み、伏せる。


しかし、するりと抜け出るものがあった。





「プロテゴ!!守れ!!」





防御魔法……。



ねじ込んだ体を跳ね除けて、彼女は杖を握っていた。
そのギリギリと何かを睨みつける鋭い目付きは、今まで見た事が無い。まるで、彼女の物とは思えない程の覇気。


魔法を放つ衝撃で、金の髪が髪は逆方向に靡く。


「アル………?!」

「私にだって…出来るんだよ……?」



魔法に集中する、その背中は勇敢なものだった。
アルティアの防御魔法に救われ、石つぶてから守られる。



襲い掛かる群れは、弾かれたかのように見えた……。



「アル危ない!!」



レナスは自分自身の声が聞こえていない。
しかし、声を出さずにはいられない事実。そこに迫っていたのは、今までの石つぶてとは比較にならないほどの…人の大きさの数倍はあるほどの、岩の塊……!!



瞬時に、光が包み込む



杖を構えた女性の体を、後ろに引っ張り戻す


瞬時に解放し





払う……―――!!!!




時速数百キロというスピードで迫ってきていたはずの大岩をはじめ、石つぶて達は、一瞬空中で静止する。




退け……!!!



覗かせる、2枚の黒いコウモリのような翼。
力いっぱいに広げ、集中させる魔力。



地響きが起こる。


空間が揺れる。


大気が凝縮されたような息苦しさが襲う。



まさに刹那の瞬間に起こった。


静止したはずの飛礫、大岩が、嵐に打ち付けられたかの如く、壁へと押し戻される。
轟音と共に、レナスの体から放たれる嵐によって、次々と壁から幅された大岩が一つ壁に衝撃を加え、次から次へと押しつぶされていく。
減り込んでいく飛礫、大岩。


衝撃で、粉々に砕け散り、壁と言う面影すら残らないほどの抉れただけの空間が存在していた。





静けさが訪れ、レナスは振り返る。





アルティアが、倒れて意識を失ったギルガを支える。
彼女が見たレナスの姿。


左の頬にあった紋様は、左半身に広がり、左目は赤く染まっている。腕を押さえる手に備え付けられた爪は掌よりも長く伸び、赤く染まっている。


レナスは、自身のヴァンパイアの力を解放していた。


あの刹那の瞬間にあれほどのスピードで変貌を遂げたレナス。
もしも、あの素早さが無ければ、全員命を落としていた事だろうと、今になって背筋が凍る思いで胸を撫で下ろすアルティア。


顔を出した両翼を折りたたみながら、レナスはアルティア達に歩み寄ってくる。


「大丈夫?」

「うん…ありがとう…。ギルガ君に怪我は無いみたい…。」

「アルにも…ギルにも、怪我は無いみたいだね。スリ傷はあるみたいだけど…。すぐに治るから大丈夫だよ。」


受け答えをしたアルティアだったが、瞬時にレナスの様子の変化に気付く。

紋様が小さくなり、赤かった瞳が翡翠の色を取り戻した時、爪の長さも翼があったはずの背中も元に戻った。


「レナス……?もしかして……」

「こんなとこで寝かしたら、風邪ひくな…。あたしこいつ担ぐから、医務室いこっか?」


アルティアの言葉を待たずに、ギルガのを肩に担ぎ出す。
腕を折り、所々擦り傷きり傷を作りながらも、明るく笑うレナスの姿。


「……レナス……耳が………。」


その問いかけにも、レナスは答えない。
いや、答えられない…。


「あ、アル〜。悪いんだけど、杖、拾って持ってきてもらっていい〜?んじゃ先行ってるね〜。」


片腕は使えない。
片腕でギルガを担ぎ、ぶっきらぼうに、足で扉を開ける。


痛みに顔をゆがませる瞬間があっても、


それでも尚、笑い続けるレナス。



「なんで…?なんで……?」



アルティアは、抑え切れなくなった。
レナスが出た扉から、彼女の背中が見えなくなった瞬間。

まるで堰を切ったようにあふれ出てくる、大粒の涙。



「なんで…そうなってまで……笑っていられるの…?」


決してギルガを責める事をしないレナス。
例え、腕を折ったとしても、聴覚を失ったとしても、それでも、笑うレナス。



無理矢理にじゃない。
優しさに溢れた、レナスの笑顔。



しかし、アルティアは奥底の何処かで理解していた。





今は……




今は




そうする事だけが




ギルガに対してできる




レナスにとって




唯一できる、優しさの形なのだ、と






****続く****

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