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将来は小説家!?コミュの不定期連載 『死神』 第2話

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黒い影が闇夜の中をすり抜けていく。
その影を見たものがいたとしても、
それが人だと気づくものはおそらくいない。

それだけ、この町の夜は暗いということもある。
その影が、明るい光の下にあっても、なお黒い影であるということもある。
しかし、それ以上にその影の動きは人の目には早すぎた。

『ねェ、ミスティ?』
黒い人型の影と一緒に動く一回り、いや、二回りは小さい影が問いかける。

『ん?』
大きな影はそのスピードを落とすことなく、言葉を返す。

『あの人サ、幸せそうだったネ』
『・・・』
『キミにはそう見えなかっタ?』
『さっきの女の子の事か?』
『もウ・・・そうじゃなくテ・・・今日の配達先の彼だヨ』

影はスピードを緩める。
先ほどまでぼやけていた輪郭が
少しずつ、常人の目にも捉えられるぐらいに。

『ちょっと・・・天使との距離が離れすぎたな。奴らが追いつくまで待つか』
『そうだネ。振り切っちゃ意味がナイものネ』

幸せそうだったか・・・そうかもな。
ミスティは、つい1時間ほど前のことを思い出してみる。

待ちに待ち続けたものを届けてあげたんだ。
まぁ、確かに幸せそうだったかも知れないな。
待たせに待たせれば、そりゃあ大して嬉しくもないものでも
心から嬉しいものになるかも知れないな。
届ける側の俺には一生分からないけれど。

『言い方は変かも知れナイけどサ、きっとキミに感謝してるヨ』
『別に喜ばれるためにやってるわけじゃないさ。
自分にしかできないことをやっているだけだからな。』

・・・つい1時間ほど前、彼はこの国における未曾有の大罪を犯した。
『神殺し』、というこの国始まって以来の、法にさえ存在しない大罪を。

彼が大罪を犯す1時間前、この国には何の変化も無かった。
500年前から続く大国の中心にそびえる荘厳な城の中もまた、
なんの変化もない夜を迎えるはずだった。

大国の象徴である王は、ただ一人その玉座に座っていた。
周囲に誰一人はべらせず、食事もとらず、睡眠もとらず、
建国のそのときから、彼はただずっとそこに居続けているのである。
彼がそこにいたから、この城は存在し、この国は存在する。
彼こそが『国』なのである。

『・・・今日も・・・終わる・・・』
誰にも聞こえない声。誰にも聞かせるつもりのない声。
彼はこの場所で何千回、何万回と繰り返してきた。
何度かはその声を聞くものもそばにいたのだ。
だが、そんな者達もいつしか果て、朽ちて行った。
あまりに短い人の命を悲しむあまり、
王は誰にも心を開かなくなった。
それに同調するかのように、
いつしか周囲の臣下も心を開かなくなった。

王は神。国民はその手に守られる子羊。
たったそれだけの単純な図式で、この国は500年繁栄し続けている。

『明日が・・・また来るのか・・・』
王の口がまたかすかに動く。
今の城の中に、王の声を聞いたことがあるものは誰一人いない。
500年生き続けている王の声が青年のそれであることを知るものはいない。
そもそも、外見はすでに人の姿の極限とも言える状態であるだけに
想像するものさえいないに違いなかった。

『早く・・・せめて・・・』
何万回目かのつぶやき。

『あっはっはっはっ・・・お、オマエ、何だよ、ソレ。
髭伸ばしすぎだろ、いくらなんでも。』
『髭お化けだネ。』

完全に場違いな笑い声が静寂な空間に持ちこまれる。
王はその声に、目さえも動かさない。

とくに反応が無いことを気にせず、白々しく、かつ、
うやうやしく貴族めいた礼を王にささげ、言葉を続ける。

『偉大なる王、ヴィルヘルム=云々様、
あなたにお届けものを。』
『本当ハ偉大ではナイ、アナタにネ。』

『因果の鎖を、断ち切りに』
『下りない幕ヲ、下ろすためニ』

王はゆっくりと顔を上げ、その目で二つの影を捉えた。
口を開け、言葉を発するような仕草をみせたものの、
結局なんの言葉も発されなかった。

『随分老けたな、リンクス。』

王の口はまた声を発するような動きを見せる。
しかし、その口が開閉することはあってもやはり音は出ない。

『しかし、オマエが王様ってのはやっぱり驚くよ。
パン屋のせがれって事しか特徴の無かったオマエがなぁ・・・』

すぅ・・・という音と共に、広間の空気が一瞬薄くなる。
気がする、ではない。実際に、である。

『ミ・・・ミスティか?』

広間全体が震えるような大音量。
周囲の装飾品は声の振動をまともに受け、
しばらくカタカタと残音を残す。

『お、覚えてたか。記憶力はたいしたもんだ。』
『覚えてなかったラ、ちょっと寂しかったもンネ』

王は目を見開きながらその玉座から立ち上がる。
両手を前に差し出し、救いを求めるように。

『お願いだ・・・助けて・・・助けてくれよ・・・ミスティ・・・
もう、イヤだ・・・もう・・・この鎖の中で生き続けるのは・・・イヤなんだ』

『オイオイ、世界に誇る大国の神がなんとも情けないものいいだなぁ。』
『まるで人間だネ。』

よろよろと立ち上がる神の姿に荘厳さは微塵もない。
ただただ、助けを求める言葉を続ける。
『こうして2、3歩歩くだけでも、数え切れないほどの因果の鎖が
僕の周りを幾重にも取り囲むんだ。
僕が軽く指先で触れるだけで、起こしたくもない奇跡が人を殺す。
国を壊す。大海を荒れさせる。
自分の意思ではなにも、なにもできないんだ。
僕はもう、この鎖の牢獄の中で
何もできずにただ生き続けるのはイヤなんだ!』

泣き叫ぶように声を振り絞る神の姿を見つめたあと、
ミスティはやさしく語りかける。
『・・・やっぱりオマエに神なんか似合わないよ。
せいぜいパン屋のリンクスがお似合いだ。』

『そうだ、そうだよ、僕は・・・神なんかじゃないんだ!!僕は!!』

ガンッ!!

『ぐばッ!!』
ここ500年味わったことのない突然の衝撃に
蛙のような声を上げて倒れこむ。
倒れこむことすら、500年ぶりだ。

『俺はオマエを助けられない。
俺ができるのは、お前に届け物をすることだけなんだよ。
普通の人間だったら当たり前に死神から送られる、「死ぬ」ってことをさ。』

顔をさすりながら立ち上がるリンクスには怒りの表情はなかった。
むしろ、驚きの表情が浮かんでいる。

『な、なんで・・・僕に触れられるの?僕に傷を付けられるの?
自分で死ぬことすらできなかったのに・・・僕を守る因果の鎖は・・・』
『さっき言ったろ?因果の鎖を断ち切るために俺は来たんだ。』

いつの間にか、その手には身の丈はありそうな黒い大鎌が握られている。

『ごめんな、リンクス。器用に神の力だけを奪うことなんてできないんだ。
オマエの命を奪うことしか、俺にはできない。・・・ごめんな』

リンクスの顔にふっと笑みが浮かぶ。
彼にとっては何もかもが、あまりに久しぶりな行動だった。
『・・・ミスティ、キミが不器用なことぐらい、僕が知らないとでも思ったのかい?』

城の人間達が異常に気づいたとき、彼らの王であり神であったものは
すでにその命を奪われていた。
その傍らに、大鎌をもった男がただ立っていることに気づくのに
数十秒を費やしたのも無理もないことである。
彼らの不死身の王が死ぬことなど、考えられないことだったのだ。

城の中には怒号と悲鳴が飛び交い、
その後には金属と金属がぶつかり合う火花が飛び交った。
この瞬間から、彼はこの国で『最も殺されるべき男』になった。

・・・
『ミスティ?そろそろあいつら、来るヨ?』
『・・・』
『ミスティ?』
『・・・』
『まだ、ボク達のことヲ待ってルひと、いっぱいいるんだヨ?』
『ん、わかってる。死神が死ぬなんて笑えないしな』
『キミの冗談は、いつだって笑えないけどネ。』

二つの影はまた、闇夜の中を動き始める。
上空から彼らを探す真っ白な天使達から逃れるように。

待ちに待ち続けたものを届けてあげたんだ。
きっと、リンクスは喜んでくれたに違いない。
最後の最後、倒れるときにアイツは笑顔だった。
すべての重圧から放たれたような、安心した、そんな顔だった。

じゃあ、俺が背中に背負ったこの重圧からはダレが救ってくれるんだろう。
最後の神に死を届けた後、俺はどうなるんだろう。
そんな思いが、友人の死体を見つめながら心の奥底から湧き出した。
俺も、彼のように楽になりたい、と。

今、闇夜をかけながら死神は自分に言い聞かせる。
俺は俺にできることをするだけだ。
俺の存在を待っていてくれる奴らが世界中に居る限り。
(つづけ)

コメント(2)

おぉ、二章が出ましたね。
今回は男が追われる理由ということで綺麗に収まっていると思います。
物語がぐっと深くなって、面白くなってきました。
続きをゆっくりと待つことにします。

気になる点は一つ、
これは時間的に一章の前なのか、後なのかということです。
後ならば、城の人たちとの小競り合いに、
天使との追いかけっこ、一章の出会いのエピソードに、
更にその後しばらくたったということになって、
それが1時間に収まるのかな?
と思いました。
> いぎりす屋さん
いつもありがとうございます。
時制ですが、第2章は第1章の後の設定です。
この辺は前半の台詞、
『あの女の子の事か?』だけでしか表現していないですが(^^;;
ちょっと分かりにくかったかも知れません。

で、そうなると1時間という時間にコレが収まるのか
という事が問題になるわけです。

えっと・・・、『すげー足が速い』という事です(^^;;。
『1時間』にしたのは
『たった一時間で国が変わってしまう』という印象を
もってもらいたかったという意図もありますが。

次はもうちょっとラブコメしたいです(笑)

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