白いドレスの美少女は、昔懐かしい歌を口ずさんでいました。彼女は気が狂ってしまったのです。
「どうして狂ってしまったの？」私は問いかけます。彼女は答えます。「好きな人がいるのです。でも、その好きな人は、私の父親を殺しました。でも、私はそれでも彼のコトが好きでした。でも・・彼は・・彼は・・。もう、彼の心の中には、私はいないのです。それならば・・・私はここに存在していても意味がないの。」
彼女は花冠を作って、誤って川に落ちました。
その花冠は、彼にあげるものだったのでしょうか？
彼の名前は、ハムレット。気が狂った彼女の名前はオフィーリアと言います。
Ｂｕｎｋａｍｕｒａで開催中の『ミレイ展』に行きました。皆様の日記やブログで「メチャクチャ混んでる」と読んで知っていたので、覚悟して行きました。
本っっっ当〜に混んでました。金曜日に行ったのですが、金曜日でコレじゃ、土・日・祝日はどんななんだよ？と思いました。
人が途切れない！後から後から来る。この企画持って来たキュレーターさんは、間違いなく出世します。ボーナス上がります！
金曜日は夜９時までやっているので、会社帰りの人も多く来てましたよ。
私が金払って見た美術展の中で、過去最高の混みようです（つまり、私が金出しても行きたい美術展は、日本人には人気がないって言う・・・(^_^;)）。
でもね。この展示、確かに凄いは。
今回は、ミレイの回顧展なんです。ラファエル前派から唯美主義通って、ヴィクトリアン絵画まで。その遍歴がキチンと見られる美術展です。
各ブロックの分け方も上手いと思った。
私ゃ、ラファエル前派自体が好きで、ラファエル前派で１番好きな画家は、シメオン・ソロモンなのですが、ミレイもこうして纏めて見ると「やっぱスゲエや」と思いました。
ラファエル前派。日本人にゃイマイチ馴染みがないこの派。
簡単に言うと、19世紀に英国で起こった美術運動で「ラファエルのような完璧を求めたアカデミックな絵じゃなくて、ラファエルの前の素朴な絵の時代に戻りましょうよ。」という運動です。
特徴としては、シェークスピアの文学や、バイロン、その他諸々の詩などからインスピレーションを受け、それを描く・・というのが特徴かな。詳しくは、図書館で美術書を読んでね！
ミレイは11歳という年齢で美術学校に入学。そして、ミレイの絵は日本の少女漫画にも影響を与えた・・と言われています。即ち、美少年・美少女を描くのが上手い。
で、絵の感想。ほぼしょっぱなに『両親の家のキリスト』ですよ。吃驚ですよ、私。
幼いキリストが手に釘を刺してしまい、その手を上げている。マリアが心配そうに頬ずりをする。後ろでは、父のヨセフや仲間が大工仕事中。
幼いキリストに“釘の痕”。明らかに、後の磔刑の象徴ですね。でも、この絵、発表した当時は、「表現が生々しすぎる！」と酷評だったらしい。ミレイは細密に描くから、当時は、そう思われたかも。
習作も展示してあるので、見比べると面白いよ。
『マリアナ』。シェイクスピアの“尺には尺を”から想を得て、ランスンが詠んだ詩が元らしい。
青いドレスの美女が、少し憂鬱そうに窓際に立っている。女性の表情も見事だが、ステンドグラスの描き方が半端じゃねえ。何、この人！？と思ってしまう。
祭壇画の前に銀食器があるが、コレは“抑圧された性の象徴”だそうな。
『マティルダ女王の墓の掘り出し』。ゴシック絵画風（つまり、表情などが硬い）に描かれた絵。コレも習作なのかな？
で、『オフィーリア』。
本物を見て、１番最初に思ったコトは「こんな小さい絵だったんだ・・・」でした。もっとド〜ンとデッカイ絵だと思っていたんです。画集だと大きさが分からないからね。
で、次に思ったのは、オフィーリアそのものより、彼女の周りに描かれた植物の細密さ。当時、植物学の授業をこの絵を見ながらやった・・という話があるのですが、それも頷けます。何の花が描いてあるか、花が好きな人なら分かると思うよ。それくらい細密に描いてあるの。
で、最後に、川で入水自殺（よね・・・。事故かもだケド・・・）するオフィーリア。表情がね、やっぱり私には“夢見心地”に見えるんだ。
苦痛には見えない。「恋人のハムレットの夢を見てるのかなぁ〜」と、私は思ってしまう。オフィーリアは、ハムレットに「尼寺へ行け！尼寺へ！」って、酷い言葉を吐かれるじゃない。でも、やっぱりハムレットのコトが好きで、それで、ハムレットのコトを思いながら花冠を編んでいたのかなぁ〜って思って。
川の水で広がっていくドレスの裾の描き方が美しく、暫く見惚れました。
デッサンや版画も何点かあって、私が気に入ったのは『脚は壁に付いていなければならない』。ミレイの自画像なのですが、ミレイさんって人は長身痩躯（182cmで57�圈砲世辰燭蕕靴�、そのひょろ長の自分が狭い部屋で脚をツッパッテる絵で、ユーモアがあって面白かったです。
『信じてほしい』もお気に入りの絵。
娘は後ろ手に手紙を持っている。父親はどうやら「その手紙を見せろ」と言っているらしい。それを頑なに拒む娘。
ひょっとしたら、彼女が持ってるのは、恋人からの手紙かも知れないね。英国は身分制度が厳しいから、身分違いの恋かも知れない（父親らしき人は、軍服着てるし）。ドラマがある絵なので、色々空想出来て楽しいです。だから好きなのよ、ラファエル前派の絵。
因みに。こういう絵を“プログレム ピクチャー”と言うらしい。
唯美主義のコーナーにあって１番気に入ったのは『安息の谷間「疲れし者のやすらぎの場」』。夕暮れの墓場。尼僧が２人いる。１人は墓穴を掘り、もう１人はこちら（鑑賞者側）を見ている。
どうやら、“尼僧が死によってキリストと結ばれる”という意味が込められているらしい。
唯美主義の絵は、主題がハッキリ「こうだよ！」と分かるモノではないそうな。色々空想出来るので、私は楽しいのですが。
『エステル』。わぁ〜い＼(^o^)／。私が見たかった“エステル”が来てる〜。ペルシア王のお妃になったユダヤ人のエステルが、ユダヤ人虐殺の計画から同胞を救おうとしている絵。王妃と言っても、勝手に宮殿に入るコトは出来ない。そのエステルが意を決して、王宮に入ろうとしている。出典は新約聖書のお話から。
真珠の髪飾りを今まさに解こうとしている、黄色いドレスを着たエステルが恰好良いんだ。
ミレイの絵を見るたび思うコトがあります。ミレイの描く女の子や女性って、皆、眼差しが強いよね。見ていると、見つめ返されているような気がして、たまに「うわぁっ！」って思います。
ミレイの奥さんの絵があったのだケド、マネージャーとして活躍していて、結構気が強かったようなので、そのイメージがあったのかな？とも思うんですが。
『ローリーの少年時代』。美少年！以上（オイ）
『しゃべってくれ！』寝室にいる男性。窓の外には死んだはすの恋人の女性。男性は手を伸ばし、彼女に「しゃべってくれ！」と言っているようだ。
ここから暫く、ファンシーピクチャーが続きます。“ファンシーピクチャー”とは、子供や若い女性にコスプレなんかさせて、空想的で可愛い絵を描いたモノを言うのだそうです。
対になってる２つの絵が可愛い。『初めての説教』と『二度目の説教』。モデルはミレイの娘さん。赤いマントを羽織って、緊張した面持ちで、教会で初めての説教を受ける幼い女の子。でも、２度目の方では爆睡！（笑）
気に入ったのは『きらきらした瞳』。赤いケープを来て、ケープに両手をつっこんで、堂々とした強い視線でこちらを見てくる女の子。彼女はどうやら“やどり木”の下にいるらしい。クリスマス。やどり木の下にいる女の子には、キスして良いのです。好きな男の子がモジモジしてて、なかなかキスしてこないから「何やってんの！？じれったいわね！」って感じの態度なのかも知れない。
『ベラスケスの思い出』。ベラスケス調に描いてある女の子。王女マルガリータにちょっと似てるよ。
で、私が今回１番気に入った絵。
『使徒』。黒い服を着た青年が、斜め右上を見ている。全体的に暗いトーン。でも、顔の辺りには光が当たっている。
凄く静謐な感じを受けました。“使徒”というからには、キリストの弟子なのかな？ヨハネ・・なのかな？その辺りは分からないけれど。
ミレイは晩年になると風景画も描くようになります。でもミレイの風景画は、風景そのものを描くというより“バイロン”の詩や、ワーズワーズの詩からインスピレーションを得たりして、非常に幻想的に仕上げます。『月、まさにのぼりぬ、されどいまだ夜にならず』という風景画は、夕暮れの湿原を描いたモノ。でも、リアルというよりやはり幻想的。前述のタイトルは“バイロンの詩”からの引用です。
見終わって。本当に良い回顧展だと思いました。
あと、思ったのは、ポスターって大事なんだってコト。
正直“ミレイ”が何者か分かってて来たお客さんってあんまりいないと思うんだ。なんならバルビゾン派のミレーと間違って来たくらいの感じでサ。
でもね。帰りにこんなコトがありました。
渋谷のBunkamuraの前、今風の若い女の子が「わぁ！アレ、綺麗。何だろう、超キレイ」と言って、彼氏を引き止めていました。彼女の目の先にあったのは、ミレイ展のポスター。つまり“オフィーリア”の絵。
彼女は、それがオフィーリアだって知らないかも知れない（多分、知らない）。ミレイが何者か知らないかも知れない（多分、知らない）。でも、彼女の目には、その絵は“とても美しいモノ”として見えたんだね。
それで良いんだ。絵の見方なんて。知識なんてなくてもね。
10月26日まで開催しています。
ヴィクトリア絵画が好きな方、ラファエル前派が好きな方、特上の美少年・美少女に会いたい方は、行かれると宜しいかと存じます。
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