mixiユーザー(id:809109)

2007年05月26日14:09

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まだまだコダワル 「おいしそう!」。

  ▲タイ語の น่ากิน 「ナーキン」 で検索した画像。ワンちゃんです。



〓そもそも、このシリーズは、アッシが 「おいしそう!」 というのが日本人独特の感嘆詞である、と直感したところから始まりました。

〓実際、調べてみると、まず、

   「ひじょうに日本語的な表現である」

というのは、まちがいないことがわかりました。そして、料理を目の前にしたときに、「おいしそう!」 と言うことが多い言語と、そうでない言語があることも、わかってきました。
〓初日は、ヨーロッパ的な発想では 「おいしそう!」 と言わないのではないか、「おいしそう!」 というのは、日本的な──あるいは、アジア的な──協調的発想、あるいは、付和雷同型発想に基づく

   「“和” の確認のための感嘆詞」

ではないか、と思ったんですが、調べてみるとそうでもない。
〓確かに、日本語と韓国語で 「おいしそう!」 と言うことが多いのは確かです。しかし、フランス語は英語よりも、はるかに頻繁に 「おいしそう!」 と言うし、モンゴル高原に故地を持つトルコ人が、世界三大料理の1つを有しながら、「おいしそう!」 とは、あまり言わないこともわかりました。
〓ここでやめてしまったんでは、今ひとつ何かをツカミ損ねた感じがします。もうちょっと調べてみましょう。



  【 ドイツ語の 「おいしそう!」 】

〓ドイツ語では、「おいしい!」 というのを、

   Das schmeckt gut! [ ダス シュ ' メクト ' グート ]
   Das schmeckt lecker!
         [ ダス シュ ' メクト ' れカァ ]

と言います。英語のように be 動詞を使うのではなく、schmecken [ シュ ' メックン ] 「〜な味がする」 という動詞を使い、そのあとに味を示す形容詞を補語として置きます。
〓ところが、「おいしそう!」 という場合は、この schmecken という動詞を使いません。

   Das sieht lecker aus!
       [ ダス ' ズィート ' れカァ ' アオス ]

と言います。ドイツ語を勉強したことのないヒトにはチョット難解な構文ですが、

   aussehen [ ' アオスゼーエン ] 〜のように見える

という動詞を使っています。ドイツ語には、このテの接頭辞を分離して使う動詞がたくさんあって、要は、英語で、

   to get in 「(部屋などに) 入る」 <動詞 + 副詞>

というように、「動作をあらわす動詞」 と 「動作の方向を示す副詞」 で構成されている動詞を、

   to inget

のように “ワンパック” にしているだけなんです。
〓ドイツ語の aus 「アオス」 は、英語の out、動詞 sehen 「ゼーエン」 は、to see に相当します。つまり、英語の

   to see out ( *to outsee )

に相当します。ただ、英語の to see out には 「〜のように見える」 という語義はありません。
〓英語でも、“Get him in!” 「彼を (部屋に) 入れてくれ!」 のように、目的語が来ると、「方向をあらわす副詞」 が文末に移動しますが、ドイツ語ではこれが徹底していて、「動詞のアタマにくっついていた副詞は、何がナンでも文末に置く」 という決まりがあります。
〓なので、「〜のように見える」 という文章は、

   主語 sieht <形容詞> aus.
      ※ sieht 「ズィート」 は、sehen の三人称単数形

となるのです。
〓では、「おいしそう!」 の件数を検索してみましょう。

   sieht lecker aus [ ' ズィート ' れカァ ' アオス ]
     ドイツ国内  27,500件
     ドイツ語圏  31,100件
   sieht köstlich aus [ ' ズィート ' ケストりヒ ' アオス ]
     ドイツ国内  417件
     ドイツ語圏  521件

〓ドイツ語には、このほか、delikat [ デり ' カート ] 「美味なる」、deliziös [ デリツィ ' エース ] 「美味なる」 という形容詞もありますが、「おいしい!」 とか 「おいしそう!」 という口語としては、あまり使いません。文語用、あるいは、広告の謳い文句用でしょう。
deliziös は、フランス語の délicieux, 英語の delicious と同様に、後期ラテン語 (ローマ帝国末期のラテン語) に由来します。
〓面白いのは、delikat 「デリカート」 のほうで、これは deliziös 同様、フランス語にならってラテン語 delicatus [ デーり ' カートゥス ] 「優美な、(刺激的な)」 から採り入れた単語です。
〓この形容詞に対応する名詞形 délicatesse [ デりカ ' テッス ] 「繊細、優美、優雅、洗練」 は、ラテン語にはなく、ドイツ語はフランス語からコレを借用しました。

   → Delikatesse
       [ デりカ ' テッセ ] 「美味な食べ物、絶品、繊細」

〓そして、これを複数形にしたものが、

   Delikatessen
       [ デりカ ' テッスン ] 調製済み食品、調理済み食品

なんですよ。ところが、この単語、期せずしてダジャレになってるんです。

   delikat [ デり ' カート ] 「美味なる」
    +
   Essen [ ' エッスン ] 「食べ物、食事、料理」

〓「形容詞から名詞をつくる」 フランス語の接尾辞 -esse [ -エッス ] は、ラテン語の 「形容詞をつくる接尾辞」 -itius [ - ' イティウス ] にさかのぼります。純粋に、文法上の接尾辞に過ぎないものです。ところが、これがフランス語で訛った -esse が、ドイツ語で複数形の -n を加えることで、Essen 「食べ物」 に化けちゃったんです。

〓ドイツ人でも、あんがい、語源をカン違いしているヒトは多いんじゃないかな。日本語の 「デリカテッセン」 というのは、このドイツ語のことです。



  【 イタリア語の 「おいしそう!」 】

〓イタリア人も、よく食う!というイメージがありますね。「ゴチになります!」 なんぞを見ていると、岡村隆史さんが、ホッペに指を当てて、

   “Buono!” [ ブ ' ウォーノ ]

なんて言うのをよく見ます。イタリア語の 「おいしい!」 です。
〓印欧語には、たいてい似たような 「良い」 という単語があります。英語 good、ドイツ語 gut、フランス語 bon、スペイン語 bueno、イタリア語 buono。
〓しかし、とりわけイタリア語の buono は、「おいしい!」 との結びつきが強いように感じられます。たとえば、Google のイメージ検索で、上の 「良い」 という単語を入れて順番に検索してみると、イタリア語の buono の場合に、食べ物がより多く出てくるのがわかります。

   delizioso [ デりッツィ ' オーソ ] おいしい

という形容詞もありますが、「おいしい!」 という感嘆詞は、やはり、“Buono!” であるようです。
〓当然、「おいしそう!」 も buono を使います。そして、英語の to look にあたる 「〜のように見える」 という動詞は sembrare [ センブ ' ラーレ ] です。
〓イタリア語やスペイン語など、現代でも人称変化のハッキリしている言語は、代名詞が主語の場合、これを省いてしまいます。なので、「おいしそう!」 という 「三人称単数」 のモノが主語の文章では、これを立てる必要がありません。

   Sembra buono! [ ' センブラ ブ ' ウォーノ ]
      「おいしそう!」
       イタリア国内  38,400件
       イタリア語圏  50,100件

〓ところが、この数値が参考にならないんですよ。残念! 「良さそう!」 という意味でも使われるからです。
〓delizioso を使った数字は次のとおり。

   Sembra delizioso! [ ' センブラ デりッツィ ' オーソ ]
      「おいしそう!」
       イタリア国内  244件
       イタリア語圏  380件



  【 スペイン語で 「おいしそう!」 】

〓スペイン語は、イタリア語の “Sembra buono!” のような語調の良い言い方が見当たりません。
〓英語の to look 「〜のように見える」 は、parecer [ パレ ' せール ] です。「おいしそう!」 は、

   Parece rico [ パ ' レーせ ' リーコ ]
      「おいしそう!」
       スペイン国内  358件
       ウェブ全体  1,950件

   Parece delicioso! [ パ ' レーせ デりすぃ ' オーソ ]
      「おいしそう!」
       スペイン国内  532件
       ウェブ全体   880件

   Parece sabroso [ パ ' レーせ サブ ' ローソ ]
      「おいしそう!」
       スペイン国内  21件
       ウェブ全体   211件

〓「おいしい!」 は、¡Qué rico! [ ケ ' リーコ ]、¡Qué bueno! [ ケブ ' エーノ ] となるようですが、イタリア語と同様、bueno は、単に 「良い」 という意味にも使われるので、検索の対象にしても意味がありません。



  【 タイ語で 「おいしそう!」 】

〓どうもラテン系の言語は調べてみても “袋小路” ですね。「おいしい」 と 「良い」 が分化していないので、統計の取りようがありません。
〓ふたたび、アジアに戻りましょう。タイ語です。タイ語で 「おいしい!」 は、

   อร่อย ?ar`y [ アロイ ] 「おいしい」

です。そしてですね、「おいしそう」 というジャスト・ミーニングの単語があるようなのです。

   น่าอร่อย nâa ?ar`y [ ナーアロイ ] 「おいしそうな」
     ※ อร่อย 「アロイ」 に修飾詞 น่า 「ナー」
      「〜すべき、〜したくなる」 を付けたもの

   น่ากิน nâa kin [ ナーキン ] 「おいしそうな」
     ※ กิน 「キン」 (食べる) に修飾詞 น่า 「ナー」
      「〜すべき、〜したくなる」 を付けたもの

〓タイ語は “!” を使わないので、検索結果を一見して、「感嘆文」 になっているかどうか判別ができません。また、“孤立語” なので、「おいしそうな○○」 と使われているのか、はたまた 「おいしそう!」 という言い切りで使われているのか、判然としないところがあります。
〓とりあえず、単語の検索数だけ挙げてみると、

   น่าอร่อย 「ナーアロイ」 37,800件
   น่ากิน 「ナーキン」  377,000件

となります。スゴイ数です。



  【 今日のまとめでしゅ 】

〓どうも、言語の性格によって、「おいしい!」 という文章だけを抽出するのが難しくなってきました。おそらく、Google タイプの検索エンジンでは、この程度の精度が限度なのでしょう。
〓とりあえず、きのうと同じく、人口割りの数値を出してみましょうか。

 0.01814 日本
 0.00485 タイ − “おいしそうな” という用法も混ざっている数
 0.00354 韓国
 0.00102 フランス
 0.00034 ドイツ
 0.00019 米国
 0.00004 英国
 0.00003 中国
 0.00002 トルコ
 0.00002 ロシア
 0.00001 イタリア − Sembra buono! を含めていない数
 0.00001 スペイン


〓う〜む、単なる “単語の使用頻度” でないだけに、統計がむずかしいデス。これを続けると、何かが見えてくるのか、疑問を感じてしまいました。
〓ただ、日本、タイ、韓国には、「おいしそう」 というために “特化した形式” があるのは確かです。件数の少ない言語ほど、そういう “特化した形式” を持たないことがわかります。
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