▲フランス語と中国語の 「おいしそう」 で検索した画像です。
〓ええっと、ですね。きのうは、とりあえず、英語とロシア語で 「おいしそう!」 という “褒めコトバ” ないしは “感動のコトバ” は 「習慣として存在しない」 ということを考察してみました。
【 中国語の 「おいしそう!」 】
〓それなれば、日本語以外の言語では、ことごとく 「おいしそう!」 と言わないのか? そこで、とりあえず、中国語を調べてみましょう。
看上去(很)好吃。 kàn shàngqù (hěn) hăochī
[ かヌ しゃンちゅー (へヌ) はオ ちー ] 11,200件
看起来(很)好吃。 kàn qĭlái (hěn) hăochī
[ かヌ ちーらい (へヌ) はオ ちー ] 29,100件
※Yahoo! China による検索。
〓どちらも、原義は 「見たところ、おいしい」、「見てみたら、おいしい」 という文章です。文法にうるさいヒトは、「看上去」 と 「看起来」 の意味は厳密にはちがう、というらしいですが、どっちも同じような意味で使われているようです。
〓日本語と同様、「看上去很好吃!」 なんて感嘆文で使われている例も見えますが、やはり、用例は少ないですね。英語のテキストには、日本人の書いたものがたくさん混ざっていることを考えると、
中国人は、「おいしそう!」 を比較的よく言う
と判断できそうです。それでも、日本人の 231万件には、はるかに及びません。
〓最近のテレビでは、中国の中継が多いですよね。レポーターのタレントが、「ハオチー!」 なんて言ってますけど、あれは、上の文章の、
好吃 hăochī 「食べる(吃)によろしい(好)」
の部分です。「吃」 というのは、「喫」 の簡体字です。日本語では、「たべる=食」 ですが、現代中国語としては、「食」 は “古語” なんですね。向こうでは、擦り切れて、古くなっちゃった。代わりに似たような意味を持っていた 「喫」 が主役の座を奪ったわけです。古い時代から、「喫」 にも 「食べる・飲む」 の意味がありました。たとえば、「満喫」 とか 「喫煙」 ですね。
【 韓国語の 「おいしそう!」 】
〓次は、韓国語にイッてみましょう。韓国語と日本語は、用言の活用がよく似ています。だから、「おいしそう」 というタイプの表現もあります。これは、
形容詞の語幹 + 겠다 (ketta)
=「〜そう」 (おもしろそう、楽しそう)
であらわします。
〓“おいしい” は、맛있다 mashitta [ マシッタ ] (基本形) と言います。普通に韓国語で 「おいしい!」 というときには、
맛있어요! mashissoyeo [ マシッソヨ ] 「おいしい!」
と活用します。
〓ここで 「ッ」 (促音) で書いている音は、日本語の促音ではなく、声門閉鎖音です。つまり、「アッ!」 と言うときの 「ッ」 の音です。韓国人は 「マシッソヨ」 とハッキリ5音節で発音しません。標準語を話す日本人は 「ッ」 に1音節分の “拍” を置きますが、韓国語ではもっと短い音です。
〓では、韓国語の 「おいしそう!」 を検索してみましょう。
맛있겠다 [ マシッケッタ ] 「おいしそう」
172,000件
〓はい! やっと大物がかかりました。17万2千件です。人口比から言ったら、おそらく、日本人と同じくらい 「おいしそう!」 を連発しているのが韓国人です。日常的な、ごく普通のコトバとして 「おいしそう!」 が存在するんですね。
〓これも、ハッキリと日本語ふうに6音節に発音しません。「ッ」 は短く。それと、「ケ」 と 「タ」 は、「促音のあとで日本人がよくやるように、激しく息を出してはいけない」 音です。むしろ、「マシッゲッダ」 くらいのツモリで発音します。
【 トルコ語の 「おいしそう!」 】
〓では、今度は、トルコ語イッてみましょう。日本語、朝鮮語とは、同じアルタイ諸語に属するのではないか、と考えられる言語です。今では、ヨーロッパに近いところに住んでいますが、トルコ人の故郷はモンゴル高原だと考えられています。
〓トルコ語も、英語などと同様、「おいしそう!」 にピッタリ来る表現がありません。
görünmek [ ゲリュン ' メク ] 〜のように見える
という動詞を使います。
〓それでは、「おいしそう」 を検索してみましょう。
lezzetli görünüyor [ れッゼト ' り ゲリュニュ ' ヨル ]
「おいしそうに見える」
トルコ語のページから 10,600件
トルコ国内のページから 1,630件
〓フシギですが、トルコ国外の例が非常に多いのです。ただし、「トルコ国外のトルコ語のページ」 と 「トルコ国内のページ」 の数的比率は知ることが不可能なので、これだけでは、単純に 「トルコ国内では “おいしそう” と言うことが少ない」 と断じるわけにいきません。
〓世界三大料理は、中華料理、トルコ料理、フランス料理と言われますが、トルコ語では、あまり、「おいしそう!」 とは言わないようです。
【 フランス語の 「おいしそう!」 】
〓そんならば、ついでだ! 三大料理の最後の1つ、フランスではどうか?
〓フランス語は、同じ印欧語でも、英語やロシア語とちがって、「〜のように見える」 という動詞を使いません。「〜な容子 (ようす) を持っている」 と表現します。
avoir l'air + 形容詞
ですね。英語の to look と、ほとんど同じに使うことができます。
Sophie a l'air malade. [ ソ ' フィ アれルマ ' らッド ]
「ソフィーは気分が悪そうだ」
※ “a” は、avoir (=to have) の三人称単数形
She looks sick. 「彼女は気分が悪そうだ」
〓では、「おいしそう!」 を検索してみましょう。
a l'air délicieux
[ アれルデりスィ ' ウー ]
フランス国内 64,100件
フランス語圏 77,500件
〓これは意外ですね! ヨーロッパのニンゲンは、「おいしそう!」 なんて言わないと思ってました。しかし、これはかなりの高率ですよ。しかも、フランス語圏全体から考えると、フランス本国のほうが若干高率である、と考えていいと思います。
〓しかもですね、この検索の結果を見ると、
Ça a l'air délicieux!!! [ サアれルデりスィ ' ウー ]
「これ、おいしそう!!!」
というような、きわめて日本風な用例が多いんです。フシギですね。
【 まとめやしょう 】
〓最後に、検索結果と、その国の人口を照らして、その国の人が 「1人あたり、何回、“おいしそう!” を発しているか」 計算してみました。
0.01814 日本
0.00354 韓国
0.00102 フランス
0.00019 米国
0.00004 英国
0.00003 中国
0.00002 トルコ
0.00002 ロシア
〓中国は多かったように思えたんですが、人口割りにすると、意外に順位が下がってしまいます。とりあえず、今まで調べた範囲では、世界三大 「おいしい!」 民族は、
日本、韓国、フランス
ということになりそうです。
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