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2007年05月20日12:03

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星座の名前。

  ▲山羊座とは?     ▲テューポーン。   ▲テューポーン。



〓雑誌なんぞを見ていると、英語の星座名を見ることがありますよね。しかし、どれもこれも、全然なじみがない綴りであることに 「?」 と思ったことはないですか?
〓たとえばですよ、「魚座」 なら、“Fish” でよさそうなものなのに、

   Pisces

と書いてある。読もうと思っても読めない。「蟹座」 は “Crab” でもいいだろうに、

   Cancer

となっている。「あれ〜、キャンサーって “癌” のことじゃない?」



  【 なぜ、星座名はラテン語なのか? 】

〓「星座名」 が読めないのもドウリで、これらの単語はラテン語なんです。なぜ、ラテン語なのか? それは、astrology [ アスト ' ロラヂィ ] 「アストロロジー」 というのが、もともと、ヨーロッパでは “学問のひとつ” だったからです。
〓 astrology の語源は古典ギリシャ語で、

   ’αστρολογία astrologiā [ アストロろ ' ギアー ]
    ↑
   ’άστρ- ← ’άστρον astron [ ' アストロン ] 星、星座
    +
   -ο-  接合母音
    +
   -λογία -logiā [ ろ ' ギアー ] 「〜の学問」 の意の接尾辞

「星の学問」 という意味でした。
〓古代の文明においては、「天体観測」 と 「占い」 とが未分化であって、その流れを汲む中世までのヨーロッパの astrology においては、「天体の位置や運行と、人間社会との関係をつきとめること」 が目的でした。
〓近世にいたって、astrology の中の 「天体観測」 だけが独立して、「天文学」 astronomia という自然科学の一分野となり、「占い」 の部分は astrology 「占星術」 として、学問の園から追い出されたわけです。
〓なので、現代の astrology を 「占星術」、つまり、“星占いの技術” とするのはよいのですが、中世までのヨーロッパの astrology は、「占星術」 ではなく、「占星学」 と呼ぶべき1つの学問だったんですね。
〓つまり、こういうことです。


   astrology 「占星学」  古代の各文明で生まれた
                天体観測にもとづく占い
    ↓
   astrology 「占星学」  中世までのヨーロッパでは、
                学問の一分野であった
    ↓
   近世以降
    ↓                    ↓
   astronomia 「天文学」      astrology 「占星術」
   天体観測のみを自然科学の   残された 「星占い」 の部分は、
   一分野として独立させた     学問の領域から追い出された


〓毎度申し上げるように、近世にいたるまで、ヨーロッパの学術の共通語はラテン語でした。つまり、「占星学」 astrology という学問も、ラテン語で記述され、論じられたわけです。
〓そうなれば、当然、「占星学」 の学術用語もラテン語となります。ですから、ヨーロッパにおいては、

   「星座の名前」 は学術用語であり、
   ラテン語で呼ばれるのが当たり前であった


のですね。つまり、「星の集団に付けられた学名」 なのです。



  【 星座名の解説 】

〓それじゃあ、ここで、星座の名前を読めるようにしたいじゃあ、ありませんか。以下に、「占星術」 の “十二宮” のラテン語の読み方と、英語の発音をあげてみます。
〓雑誌の星占いのページには、

   zodiac [ ' ゾウディ , アック ] 十二宮

と書いてあることがあります。女性向けの洋雑誌ならば、必ず、ZODIAC、フランス語なら ZODIAQUE と書いてあります。見慣れない単語ですが、「動物園」 の zoo と語源が同じなんです。

   ζω˜(ι)ον zōon [ ' ゾーオン ] 生き物、動物。ギリシャ語
       ※ (ι) は “下書きのイオタ”。ネットで表記が不可能なので、
        便宜的に、こう表記した。

〓このギリシャ語の単語の語幹は ζω(ι)- zō- 「動物」 です。ここから2つの単語をつくってみましょう。

  【 zodiac 】 の語源
   ζω(ι)- zō-  「動物」
    +
   -ιδιον -idion  指小辞。小さいものをあらわす
    ↓
   ζώ(ι)διον zōdion [ ゾ ' オディオン ]
      「小さな動物の絵、もしくは、像 (フィギュア)」
    ↓
   ζωδιακός zōdiakos [ ゾーディア ' コス ]
      「動物の」 → (名詞化して) 「十二宮」
       ※ κύκλος kyklos [ ' キュクろス ] 「輪」
        (男性名詞) が省略されている。
        英語の cycle の語源の単語。
        つまり、zodiac の原義は、「動物の輪」。
        「輪」 は “黄道” を指す。

  【 zoo 】 の語源
   ζω(ι)- zō-  「動物」
    +
   -ο-  接合母音
    +
   -λογία -logiā  「〜の学問」 を意味する接尾辞
    ↓
   ζωολογία zōologiā [ ゾーオろ ' ギアー ]
       「動物の学問」 ※ただし、古典ギリシャ語にはない単語
    ↓
   zoologia [ ゾーオ ' ろギア ] 「動物学」。近世ラテン語
    +
   -icalis
       [ イ ' カーりス ] 「〜に関する」 という形容詞をつくる接尾辞
    ↓
   zoologicalis [ ゾーオろギ ' カーりス ]
       「動物学に関する」。近世ラテン語
    ↓
   zoological [ , ゾウア ' ろヂクる ] 「動物学の」。現代英語
    ↓
   zoological garden
       「動物学の庭」。現代英語 (18世紀)
    ↓
   zoo [ ' ズー ] 「動物園」。省略形。1847年ごろ初出

〓いやはや、ちょっと寄り道のつもりが大回り。では、十二宮 Zodiac です。

  【 Aries 】 ラテン語 [ ' アリエース ] 雄ヒツジ
    英語音 [ ' エ(ア)リーズ ] the Ram
    日本語名 「おひつじ座」、「白羊宮」 (はくようきゅう)
    ※ aries は、「雄ヒツジ」 を指す普通名詞。

  【 Taurus 】 ラテン語 [ ' タウルス ] 雄牛
    英語音 [ ' トーラス ] the Bull
    日本語名 「おうし座」、「金牛宮」 (きんぎゅうきゅう)
    ※ラテン語 taurus は、ギリシャ語 ταυ˜ρος tauros
     [ ' タウロス ] の借用。

  【 Gemini 】 ラテン語 [ ' ゲミニー ] 双生児、ふたご
    英語音 [ ' ヂェマ , ナイ ] the Twins
    日本語名 「ふたご座」、「双児宮」 (そうじきゅう)
    ※この単語は複数形。geminus [ ' ゲミヌス ] が、
     「双子の人」。2人揃った星座なので、複数形を取る。

  【 Cancer 】 ラテン語 [ ' カンケル ] カニ
    英語音 [ ' キャンサァ ] the Crab
    日本語名 「かに座」、「巨蟹宮」 (きょかいきゅう)

〓英語で 「ガン」 を、最初に cancer と記したのは、16〜17世紀の英国の翻訳者 フィリーモン・ホランド Philemon Holland です。古代ギリシャより、医学者たちは、「ガン」 を、その 「カニが足を四方に伸ばしたような」 ようすから、カニになぞらえて呼んでいました。
〓ローマの紀元1世紀の博物学者 大プリニウス Gaius Plinius Secundus は、その著書 『博物誌』 “Naturalis Historiae” の中で、ギリシャの医学者たちに従い、「ガン」 をラテン語で cancer 「カニ」 と記述しました。
〓フィリーモン・ホランドは、『博物誌』 “The Historie of the World” (1601年訳) を英訳するにあたって、ラテン語の cancer を、そのまま英文の中に持ち込みました。
〓当時の英語では、cancer が、crab と並んで 「カニ」 の意味で使われていました。英語で、カニを cancer と呼ばなくなったのは、18世紀末のことです。

  【 Leo 】 ラテン語 [ ' れオー ] ライオン
    英語音 [ ' りーオウ ] the Lion
    日本語名 「しし座」、「獅子宮」 (ししきゅう)
    ※ Leo と lion の関係はコチラをどうぞ。
     http://mixi.jp/view_diary.pl?id=96554030&owner_id=809109

  【 Virgo 】 ラテン語 [ ' ウィルゴー ] 処女
    英語音 [ ' ヴァーゴウ ] the Virgin
    日本語名 「おとめ座」、「処女宮」 (しょじょきゅう)

〓ラテン語の virgo と英語の virgin は、“似てはいるが、別の単語” のように見えます。しかし、これは本来、同一の単語なのです。ラテン語という言語は、少々やっかいなところがあって、主格でのみ、本来の語幹の形が隠れてしまうという例が非常に多くあります。言ってみれば、「表向きは擬態している昆虫」 みたいなものです。
〓こうした単語は、変化して初めて、その 「素性」 が現れます。

   virgo [ ' ウィルゴー ] 主格
   virgin-em [ ' ウィルギネ(ム) ] 対格。「処女を」
   virgin-is [ ' ウィルギニス ] 属格。「処女の」

〓言ってみれば、主格は、本来 -in で終わるべきところに -ō が現れているのです。フランス語以下、ロマンス諸語では、格変化が失われるとともに、対格が主格に取って代わります。そのために、古期フランス語 virgine [ ' ヴィルジンヌ ] → 中期英語 virgine [ ' ヴィルヂン ] というぐあいに語が伝播しました。
〓現代フランス語の vierge [ ヴィ ' エルジュ ] は、さらに語末の -ine が消失したものです。

  【 Libra 】 ラテン語 [ ' りーブラ ] はかり
    英語音 [ ' りーブラ ] the Scales, the Balance
    日本語名 「てんびん座」、「天秤宮」 (てんびんきゅう)

  【 Scorpio 】 ラテン語 [ ス ' コルピオー ] サソリ
    英語音 [ ス ' コァピ , オウ ] the Scorpion
    日本語名 「さそり座」、「天蝎宮」 (てんかつきゅう)
    ※ギリシャ語 σκορπίος skorpios [ スコル ' ピオス ]
     からの借用。
     この語も、主格こそ scorpio 「スコルピオー」 だが、
     対格以下 scorpion- という語幹が現れる。つまり、英語の
     Scorpio と scorpion の関係は、ラテン語の 「主格」−「対格」
     の関係がフランス語を通じて持ち込まれたもの。

  【 Sagittarius 】
       ラテン語 [ サギッ ' ターリウス ] 射手、弓術家
    英語音 [ , サヂャ ' テ(ア)リアス ] the Archer
    日本語名 「いて座」、「人馬宮」 (じんばきゅう)
    ※ラテン語 sagitta [ サ ' ギッタ ] 「矢」 に、形容詞語尾
     -arius [ ' アーリウス ] がついたもの。sagittarius 「矢の」。
     これを男性名詞化して、「矢の男」→「射手」。

  【 Capricornus 】 ラテン語 [ カプリ ' コルヌス ] 山羊座
    Capricorn 英語音 [ ' キャプリ , コァン ] the Horned Goat
    日本語名 「やぎ座」、「磨羯宮」 (まかつきゅう)

〓唯一、英語名とラテン語名が異なる星座です。英語では、語末の -us を落とします。
〓ラテン語でも、星座名以外には用いない特殊な単語です。caper [ ' カペル ] 「雄ヤギ」 と cornu [ ' コルヌ ] 「角」 の合成語。

   「雄ヤギの角」 座

という意味になります。なぜ、このようなオカシナ名前なのかというと、ギリシャ語名の

   α’ιγόκερως aigokerōs [ アイ ' ゴケロース ]
      「ヤギの角が生えた」

という形容詞を、そのままなぞってラテン語に置き換えてしまったからです。
〓ギリシャ神話によれば、神々がナイルの河畔で宴会を開いているところに、魔神テューポーン Τυφών Tŷphōn が現れ、神々はあわてて動物に姿を変え、逃げ出したそうです。牧神パン Πάν Pan は山羊に変じて、ナイル川に飛びこんだところ、下半身が魚に変じてしまったそうで、その 「パンのあわてふためいたカッチョ悪い姿」 が、いうところの 「山羊座」 です。
〓「山羊の角が生えた」 “魚” というような 「皮肉な意味」 が含まれているのかもしれません。
〓ラテン語を始め、英語などで the Horned Goat と訳しているのは、本来、オカシイのですね。だって、ギリシャ語では、“Goat-Horned” の意味なんですから。
「山羊の角がはえている、“山羊以外のナニモノか”」 の意味なんです。

  【 Aquarius 】 ラテン語 [ アク ' ワーリウス ] “水の男”
    英語音 [ アク ' ウェ(ア)リアス ] the Water Bearer
    日本語名 「みずがめ座」、「宝瓶宮」 (ほうへいきゅう)
    ※詳しいことは、昨日分を読んでくださいましな。

  【 Pisces 】 ラテン語 [ ' ピスケース ] 魚 (複数形)
    英語音 [ ' パイスィーズ ] the Fishes
    日本語名 「うお座」、「双魚宮」 (そうぎょきゅう)

〓英語では、the Fish とする人と、the Fishes とする人がいるようですが、後者が正しいと言えます。なぜなら、「魚座」 というのは、2匹のサカナから成っているからです。
〓ギリシャ神話によれば、これは、アプロディーテー ’Αφροδίτη Aphrodītē と、その幼い息子エロース ’Έρως Erōs が変じた姿とされています。
〓先の 「山羊座」 の牧神パンと同じ宴会で、テューポーンが現れたとき、アプロディーテーとエロースは、サカナになって逃げたんですね。
〓2匹なので、複数形でなければなりません。


──────────

【 付記 】

〓英語の typhoon [ タイ ' フーン ] は、通常、広東語の 「大風」

   大風 daai6 fung1 [ ターイフン ]

の借用とされていますが、それほど単純に説明できるものではありません。
〓上に登場した、ギリシャ神話の魔神

   テューポーン Τυφών Tŷphōn [ テューぽ ' オン ]

のほうが、古い語源と言える可能性があります。
〓というのも、「台風」 をあらわす英単語は、1555年に初めて現れていますが、当時の語形は、

   tiphon [ ' タイフォン (?) ]

でした。英国船が盛んにアジアに進出し始めるのは、17世紀からのことであり、1555年に現れた単語を 「広東語起源」 とするのはムリがあります。
〓「台風」 は、typhon と書かれたこともあり、これは、「テューポーン」 のラテン語綴り Typhon そのままです。それに、そもそも、広東語の daai fung を転写するのに、y や ph を使う必要はありません。
〓ギリシャ語起源の tiphon, typhon 「暴風雨」 が存在したうえで、18世紀、イギリス船が広州に寄港するようになって、初めて、広東語の daai fung と英語の typhon が融合し、typhoon というエグゾティックな綴りが生まれた、と考えるのがスジでしょう。
〓 typhoon の背景に、「テューポーン」 の名があることを失念するべきではありません。実際、古典ギリシャ語でも、テューポーン τυφών tŷphōn の名は、“暴風雨” の意味で使われていました。


──────────

【 付記2 】
〓参考のために、ギリシャ語辞典 Liddell & Scott から、「テューポーン」 関連の項目を引用し、和訳をつけておきます。

【 Τυφωεύς 】 contr. Τυφώς − Typhöeus, Typhos, a giant buried by Jove in Cilicia: cf. τυφώς.

【 Τυφών 】 Typhon. Typhaon. the same giant who is more freq. called Τυφώς, Τυφωεύς.  II as storms were ascribed to the agency of giants, the name came to mean a furious storm, hurricane, typhoon.

【 Τυφώς 】 contr. for Τυφωεύς.  II as appellat., τυφώς. − like τυφών II, a furious storm, hurricane.

──────────

【 Τυφωεύς [ テュぽーエ ' ウス ] 】 縮約形 Τυφώς [ テューぽ ' オス ] − Typhöeus, Typhos, ユピテル (ジュピター) によって、シチリア (のエトナ山の底) に閉じこめられた巨人。cf. τυφώς.

【 Τυφών [ テューぽ ' オン ] 】 (1) Typhon. Typhaon. しばしば Τυφώς [ テューぽ ' オス ], Τυφωεύς [ テュぽーエ ' ウス ] と呼ばれるのと同一の巨人。 (2) 暴風雨は巨人のもたらすものとされたため、この名前は 「猛烈な暴風雨、ハリケーン、タイフーン」 を指すようになった。

【 Τυφώς [ テューぽ ' オス ] 】 (1) Τυφωεύς [ テュぽーエ ' ウス ] の縮約形。 (2) (普通名詞 τυφώς として) τυφών (2) と同様、「猛烈な暴風雨、ハリケーン」 を指す。
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