▲カーネル・ハーランド・サンダース。
▲サンダース人形は、日本で発明されたもの
です。現在では、タイ、フィリピン、台湾、中国、韓国、ハワイに輸出
されています。米国人などは、このサンダース人形に、いたく感銘を
覚えるらしく、ネットに、こうした記念写真が見つかります。左は、
アンディとサンダース。右は、サラとサンダース。
〓昨日は、ハナシが迷走しまして、
nuclear の発音が [ ' n u : k j
∂ l
∂ r ] [ ' ヌーキュらァ ] となるのは一般的な傾向だというところへ辿り着きました。
〓そのつながりなんですが、ＫＦＣ こと 「ケンタッキー・フライド・チキン」 の創業者の名前が、
Colonel Sanders
カーネル・サンダース
[ ' カァヌる ' サンダァズ ]
であるのをフシギに思ったことはありませんか？
〓
Colonel というのは、
名前ではなく称号です。米語では、陸軍・空軍・海兵隊の 「大佐」 を指します。しかし、カーネル・サンダースの場合、「カーネル」 という称号は軍隊のものではなく、
「ケンタッキー州が、州に貢献した人物に授与する名誉称号」 です。「ケンタッキー・カーネル」
Kentucky colonel と呼ばれるもので、義務もなければ、報奨金や恩給のたぐいも付いてこない、まったくの 「称号」 だけです。
〓起源は、1813年 （文化10年） にさかのぼります。時の 「米英戦争」 “War of 1812” に参加したケンタッキー市民軍 the Kentucky Militia は、敗戦を喫して帰還してきました。市民軍が解散するにあたって、初代州知事であるアイザック・シェルビー Isaac Shelby の要請により、市民軍の将校のひとりであったチャールズ・Ｓ・トッドは、州都にとどまり、知事の副官を務めることとなりました。そのときに、トッドに贈られたのが Colonel の階級でした。
〓チャールズ・Ｓ・トッドを始めとし、初期の 「ケンタッキー・カーネル」 は、実際に軍隊を指揮していましたが、やがて、単なる名誉称号となりました。
〓「カーネル・サンダース」 こと、ハーランド・デイヴィッド・サンダース Harland David Sanders に 「ケンタッキー・カーネル」 の称号を授与したのは、43代ケンタッキー州知事 ルビー・ラフーン Ruby Laffoon でした。
〓このラフーン知事は、任期中 （1931〜35） に 「州消費税」 を導入し、歴代１位の数の 「恩赦」 と 「ケンタッキー・カーネルの授与」 を行った人物だそうです。
〓「カーネル・サンダース」 の “圧力釜” を使ったチキンは、確かに行列を生むような人気ではありましたが、彼が Colonel という称号を授与された背景には、そういう
「称号乱発知事」 がいたわけです。
〓カーネル・サンダースの時代、「ケンタッキー・カーネル」 の称号を授与された人は、多くの場合、表立って名乗らないものだったそうです。たぶん、称号の価値が下がっていたんでしょう。
〓しかし、カーネル・サンダースは、そうした人々を尻目に、みずから積極的に “Colonel” を名乗り、「南部紳士」 southern gentleman 然とした白いスーツ姿で、みずから 「ケンタッキー・フライド・チキン」 の広告塔を演じ続けていました。
【 colonel の発音 】
〓ええと、問題は、カーネル・サンダースの経歴ではないのですね。
colonel の発音
です。普通の日本人なら
「コロネル」 と読みたくなりますね。しかし、実際の発音は、そうではない。
colonel
[ ' k ∂ r n （∂） l ] [ ' カァヌる ] カーネル
なのです。もし、この発音を純然とあらわす綴りを考えるとしたら、
kernel
ですね。この英単語は実在し、発音も colonel と同じで、「中心部、核」 の意味です。
〓なぜ、colonel を 「カーネル」 と読むようなことになったのか？ まず、語源から調べてみましょう。
〓この単語は、ラテン語の
columna [ コ ' るムナ ]
「柱」 に起源を持ちます。英語では column 「柱、列、論説」 となっていますね。このラテン語の単語の変化については、過去に詳しく書いております。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=385803152&owner_id=809109
〓イタリア語では、この単語は
colonna [ コ ' ろンナ ] と変化しました。m が n に同化したんです。そして、
「柱 → 列 → 軍の縦隊」 というぐあいに意味が派生しました。この colonna に指小辞 （ししょうじ＝小さい物をあらわす） -ello を付けたものが、
colonnello [ コろン ' ネッろ ]
連隊長
です。連隊長が、「小さな縦隊」 というワケではないでしょう。「連隊長」 を 「縦隊さん」 という愛称で呼ぶ感じでしょうか。
〓ヨーロッパでは、イタリアの兵法が進んでいたらしく、この単語はフランス語に借用されます。
coron（n）el [ コロ ' ネる ] 1534年初出
〓あっちゃ〜。フランス語では、最初の Ｌ が Ｒ になっています。これは、フランス人が Ｒ と Ｌ を混同したわけではなく、
「異化」 と呼ばれる現象です。ロマンス諸語 （ラテン語の末裔の言語） では、よく起こる現象で、
１つの単語のなかに、Ｌ−Ｌ、Ｒ−Ｒ というように、同じ流音が繰り返されるのを嫌うものです。以前、「ソムリエの語源」 のときにも説明しました。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=361573440&owner_id=809109
〓あちらは、Ｒ−Ｒ を嫌った異化でしたが、こちらは Ｌ−Ｌ を嫌った異化です。現代フランス語では、語源に照らして “正しい語形” に復元されています。
→
colonel [ コろ ' ネる ]
陸軍大佐、連隊長。現代フランス語
〓ところで、coronel という 「異化の起こった語形」 は、そのまま英国に伝わりました。かくして、
coronel [ コロネる ] 1548年初出。近代英語
という英単語ができます。
〓しかし、同じ16世紀の後半に、フランス語同様、語源に照らして “正しい語形” に綴りが修正されます。
colonel 16世紀後半。英語
〓ところが、
発音は変わらなかったんですね。学者が Ｒ を Ｌ に直したところで、軍隊のような現場で使われているコトバは口伝えで広まりますから、綴りなんか知ったこっちゃない。
〓学者や役人などは、“正しく” Colonel と書くが、現場じゃ Coronel の発音から２番目の -o- が落ちた [ ' カァヌる ] が通用する、という状態が、こうして生まれました。そして、現代までその慣習が続き、一見すると Ｌ を Ｒ に読んでいるかのように見えるのです。
〓以上のような歴史をふまえて、カーネル・サンダースは、
Colonel Sanders と書いて、
[ ' カァヌる ' サンダァズ ] と読む
のです。
〓最後に、世界各国で 「カーネル・サンダース」 がどう呼ばれているか、並べてみましょうか。
Colonel Sanders
英語圏、ドイツ、フランス、スウェーデン、イタリア
Coronel Sanders
スペイン語、ポルトガル語。L → R
Kolonel Sanders オランダ、インドネシア
Полковник Сандерс Polkovnik Sanders
[ パる ' コーヴニク ' サンデルス ] ロシア
※ 「パルコーヴニク」 は、陸・空軍大佐
桑��斯上校 sāngdésī shàngxiào
[ サンドゥースー しゃンシアオ ] 台湾、香港
※ 「上校」 は、陸・海軍大佐
山��士上校 shāndéshì shàngxiào
[ しゃンドゥーしー しゃンシアオ ] 中国、香港
※台湾と中国本土では、もっとも使用される綴りが違う。
香港は、両者が、ほぼ五分五分。
※中国や台湾では、「山��斯」、「桑��士」 という表記も、
まれに現れる。
Albay Sanders [ アる ' バイ サンデルス ] トルコ
※ albay は、大佐、連隊長
커널 샌더스 [ コノる センドス ] 韓国
〓スペイン語・ポルトガル語では、古い時代のフランス語・英語の語形を保持していて、Coronel Sanders となることがわかります。
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