〓ゴールデンウィークに、甥が遊びに来ました。今年、小学校1年生の 「ユウくん」 なんですが。
〓1時間くらい、ひとりでオモチャで遊んでいたんですが、飽きてきたらしく、あっちへウロウロ、こっちへウロウロ。
「DVD 見るかい?」
「ミル〜!」
〓『ウルトラマン』、『ウルトラマンA』、『アイアンキング』 があるけど、どれにする?と訊くと、
「アイアンキングってナニィ?」
〓そりゃそうだろう。1972年から73年に放送されたヒーローものなのです。
「あのね、ウルトラセブンみたいのでね、
太陽エネルギーじゃなくて、水の
エネルギーで闘うんだよ」
〓するってえと、ユウくんは、『アイアンキング』 が見たい、と言うのですね。とりあえず、第10回から再生すると、これが “お気に召したらしい” のです。なんと、
第13話まで2時間、
食い入るように見ていた
のですね。これは大いに意外でした。『アイアンキング』 というのは、当時、決してヒットしたヒーローものではないのです。
小学1年生が、2時間、集中して見続ける、
というのは、タダゴトではない
と思います。『ウルトラマン』 あたりだと、何回も見ているということもあるんでしょうが、30分ガマンしていられないんですよね。すぐに、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりして、落ち着きがなくなる。それが、2時間、画面に集中してるんですから……
〓それも、2時間で集中力が切れたんではなく、次の第14話を見始めたところで、ママが 「回転寿司行くわよ〜」 ってんで、呼びに来たものの、「行きたくない。アイアンキング見てるんだもん」 って言うんですから。
〓アタシが、「お寿司から帰ってくるまでにダビングしておいてあげるよ」 と、なだめて、やっとナットクしたんですね。
〓ユウくんが 『アイアンキング』 を見ているようすを観察していると、ナニを面白がっているのがよくわかります。
セリフが面白いらしい
のです。これは意外だった。
「ヘンなの! “このワカラズヤの
コンコンチキ” だって!」
というふうに、いちいち、ナニに引っかかったか、報告してくれるんですね。どうやら、『アイアンキング』 の
静弦太郎 (しずか げんたろう = 石橋正次)
霧島五郎 (きりしま ごろう = 浜田光夫)
の2人の 「落語ふうのヤリトリ」 が、いたく気に入ったらしいんですね。
〓これは、大いに勉強になりますよ。たぶん、今の小学1年生は、「落語ふうの会話」 というものを聞いたことがないんですね。確かにそうかもしれない。アタシが子どものころは、テレビでもラジオでも、「落語ふうの会話体」 は、まだ、生きていました。かえって “古くさいもの” と感じていたのを覚えています。
〓そういえば、『アイアンキング』 をリアルタイムで見たときも、「古くさい落語ふうのヤリトリ」 が “特撮にそぐわない” と、子ども心に感じていたのを、ナントナク思い出しました。
〓しかし、「落語ふうなるもの」 をまったく聴いたことのない平成生まれにとっては、
落語ふうの会話体が新鮮なもの
と映るんですね。
〓まったく、「テキスト」 の価値というのは、時代と場所で変わるものだ、と、最近、つくづく思います。
〓『アイアンキング』 の脚本は、特撮ものには珍しく、全話をひとりの脚本家が担当しているのです。
佐々木守 (ささき まもる)
〓昨年の2月に亡くなった脚本家です。『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』、『怪奇大作戦』、『シルバー仮面』、『アルプスの少女ハイジ』 、『おくさまは18歳』、『コメットさん』 (九重佑三子) などの脚本に参加しています。
〓『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』、『シルバー仮面』 などでは、実相寺昭雄 (じっそうじ あきお) 監督と何度となく組んでいます。先だって公開された 『シルバー假面』 は、佐々木守さんが亡くなったあとに残された “わずかな原案” を実相寺監督が執念で映像化したものでした。
〓かの有名な 『ウルトラセブン』 の第12話 “スペル星人” は、佐々木−実相寺コンビでした。
〓『ウルトラマン』 で、佐々木−実相寺コンビが映像化した怪獣を並べてみれば、この2人のユーモアのセンスがナットクできます。
ガマクジラ
ガヴァドン
スカイドン
テレスドン
シーボーズ
ジャミラ
〓『おくさまは18歳』 なんて面白かったよな〜。たぶん、この世代のユーモアのセンスの根っこは、江戸時代に直結しているんです。そこに、アメリカだの、フランスだの、いろいろな文化を引っぱってきて肉付けしているのだろうけど、根本は 「ハッツァン、クマサン」 なんですね。
『アイアンキング』 の
弦太郎と五郎は、
ハッツァン、クマサンである
と言えそうです。
〓そのダイアローグには、平成生まれの子どもを2時間以上、釘付けにしておく力があったのです。
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