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2007年05月12日18:49

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「ガングリオン」 と 「ランゲルハンス島」。

  ▲ガングリオンの吸引。 ▲染色したランゲルハンス島。



「ガングリオン」 と言っても、ロボット・アニメか、なんぞではないのです。
〓先ほど、TBSラジオで 「土曜ワイド」 を聴いていたら、

   永六輔さんが、ガングリオンの
   摘出手術を受けたという


のですね。ラジオの中では、ナンだか、ハナシ半分なので、どこに何がデキて、どのような手術を受けたのか、サッパリわからない。
〓「永六輔 ガングリオン」 で検索してみたら、さすが、永六輔世代、

   ネットに何の情報もない

のです。信じられませんね。当人がパソコンのパの字もわからない、のは承知していたけれども、あのラジオを聴いている人たちも、ほとんど、パの字嫌いの人たちらしい。

〓それにしても、「ガングリオン」 とは興味をグイグイと引かれる名前です。「ランゲルハンス島」 と同じように “調べてくれ〜調べてくれ〜” と単語が訴えています。



  【 ガングリオン 】

〓「ガングリオン」 というのは、手足の関節にできる腫瘍 (しゅよう) のことで、たいていは良性のものらしい。
〓一般の人が、

   「軟骨が出た」

と表現する 「あのコブみたいなもの」 が “ガングリオン” なのです。心当たりありますか? あたしは、確かに 「軟骨が出た」 と言って “手の甲だの、手首だの、指の関節だのにできたコブ” を見せられた経験が、何度かあります。なるほど、あれを “ガングリオン” と言うらしい。

〓発症メカニズムはわかっておらず、生命保険の手術給付の対象外であることが多いそうです。痛みがある場合は、内部に溜まっているゼリー状の物質を注射器で吸引するか、あるいは、切除手術をするそうです。
〓永六輔さんのガングリオンは痛みを伴っていたらしいです。だいたい、普段から、「オレは死んでも手術を受けない」 と言い張っている永さんが手術を受けたんだから、相当に痛かったんでしょう。

〓ところで、この 「ガングリオン」 というオモシロな名前はどこから来ているのか?

   γάγγλιον ganglion [ ' ガングりオン ]
      ※ -γγ- は、-ŋg- と読む

〓ギリシャ語です。ビミョーな時期に生まれた単語です。古典ギリシャ語期の末期に生まれています。なので、すべての 「古典ギリシャ語辞典」 に記載されていません。この単語をつくったのは、紀元2世紀のギリシャの医者、

   Γαληνός Galēnos [ ガれー ' ノス ] ガレーノス
      ※英語などでは Galen

という人物です。「古典ラテン語辞典」 には記載があり、ganglion [ ' ガングりオン ] で出ています。
〓語源は、どうもよくわからないんですが、どうやら、

   γλοιός gloios [ グろイ ' オス ]
      粘り気があるベタベタするもの。ドロドロしたもの

の頭に、強めのための 「畳音」 を付けたものではないか、と思うんですね。ギリシャ語の名詞に 「強調の畳音」 というのがあるかどうかよくわからないんですが……

   γα- + γλιον ga- + glion
      ものすごくドロドロしたもの。
      ドロドロしたスゴイもの


〓「グロイオス」 が、なぜ、「グリオン」 になるのか、という疑問を持たれるでしょうが、いわゆる古典ギリシャ語ではない、コイネー (汎ギリシャ語圏の共通語) では、-οι- -oi- は、[ オイ ] ではなく、[ -y(:)- ] [ ユ(ー) ] のように発音されていました。
〓ギリシャ語では、本来、「畳音」 というのは、動詞の語幹の頭に、語頭の子音を含む音節を付加して 「完了」 をあらわすものです。しかし、たとえば、

   γιγνώσκω gignōskō [ ギグノ ' オスコー ] 知る

のように、そうした文法の範疇とは異なる 「畳音」 もありうるようです。



  【 ランゲルハンス島 】

〓先に名前を出したので、ついでに 「ランゲルハンス島」 について書いておきましょう。
〓膵臓 (すいぞう) というのは、その90%が 「消化液である膵液」 を分泌する外分泌腺でできていますが、その外分泌腺の中に、インスリンなどを分泌する内分泌腺の細胞のカタマリが、孤島のように存在しているのだそうです。

〓この内分泌腺の細胞塊を発見したのが、ドイツの病理学者

   Paul Langerhans [ ' パウる ' らカ゚ァハンス ]

だったので、

   Langerhans-Inseln [ ' らカ゚ァハンス ' インズるン ]
   Langerhans’sche Inseln [ ' らカ゚ァハンシェ ' インズるン ]
      ランガーハンスの島々

と呼ばれたんですね。
〓日本では、昔風のドイツ語読みで 「ランゲルハンス」 と呼んでいますが。

〓この 「ランガーハンス」 というのは、もちろん、発見者の姓なんですが、その意味は、

   langer Hans [ ' らカ゚ァ ' ハンス ] 大きいほうのハンス

なんです。Hans 「ハンス」 というのは、Johann 「ヨハン」、Johannes 「ヨハネス」 の略称ですが、時には、単に 「ヤツ」 という意味にも使われます。ですから、「大きいほうのヤツ」 の意味だったかもしれません。
〓いずれにしても、

   kleiner Hans [ ク'らイナァ 'ハンス ] 小さいほうのハンス

との対比だったでしょう。残念ながら、Kleinerhans という姓は見つかりません。Kleinhans 「クラインハンス」 (小さなハンス) は、ありますが。
Langhans という姓もあり、これらは、あきらかに 「背丈の大きい/小さい」 に言及したものです。

〓実際、医学用語なぞ知らないドイツ人が Langerhans-Inseln という単語を耳で聞いたとき、最初に思い浮かべるのは、

  背の高いハンスという男が
  領有している島々


という光景でしょうね。日本人が 「ランゲルハンス島」 というコトバを聞いたときに思い浮かべる “ナニカ” とは、あきらかにちがうでしょう。
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