Facebook「心に残るメッセージ」
那覇のモノレールの車内で、ひとり立ち尽くしている高校生がいた。
目は赤く、今にも泣き出しそうな顔をしているのが気になり、男性は思わず声をかけた。
「どうしたんだい?」
高校生はうつむいたまま、小さな声で答えた。
「財布を無くしてしまったみたいで…」
話を聞くと、これから叔父の葬儀に向かう予定だという。
しかし財布を落としてしまい、このままでは飛行機に乗れないらしい。
「どこか行くの?」
「叔父の葬儀がこれからありまして…このままだと飛行機に乗れないんです…」
必要な金額を聞くと、「6万円です」と高校生は言った。
あまりにも大きな額に、男性は一瞬言葉を失った。
往復の交通費にしても高すぎるのではないか――そんな疑念が頭をよぎる。
それでも、目の前で涙をこらえながら途方に暮れている高校生の姿を見ると、胸のどこかがぎゅっと締めつけられた。
しばらくの沈黙のあと、男性は静かに財布を開き、6万円を差し出した。
「…行って…きなさい…」
高校生は何度も頭を下げながら、そのお金を受け取ってモノレールを降りていった。
男性はその後ろ姿を見届けてから、いつも通り仕事場へ向かった。
とはいえ、6万円は決して安くない。
「やっぱり高いよな…往復交通費でも4万くらいだろうし…」
知人にこの出来事を話してみると、みな口を揃えて笑いながら言った。
「それ、騙されてるでしょ(笑)」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にズシンと重いものが落ちた。
――やっぱり騙されたのかもしれない。
せっかくの善意が、ただの無用心だったのだろうか。
そう思うと、ひどく落ち込んだ。
そんな出来事から2週間ほど経ったある日、職場の同僚が慌てた様子でスマホを持って駆け寄ってきた。
「これ、見てください!」
画面にはネットニュースの記事が映っていた。
そこに載っていたのは、あの日モノレールで会ったあの高校生の写真と、彼の気持ちが綴られた文章だった。
『嬉しくてホッとして、でもパニックになってしまいました』
『時間がギリギリで何も聞かずにごめんなさい』
『おかげで大好きな叔父の葬儀に間に合いました』
『授業で作った文鎮を贈り物として渡したい』
『お借りしたお金をお返しして御礼を伝えたい』
記事を読み進めるうちに、男性の胸はじんわりと熱くなった。
――高校生は詐欺師なんかじゃなかったんだ。
あのときお金を貸して、本当によかった。
記事によると、あの日、高校生は葬儀当日に切符を購入してモノレールに乗車し、那覇空港駅で降りようとしたときに財布がないことに気づいたのだという。
もしかしたら最寄り駅で落としたのかもしれない。
しかし取りに戻れば、今度は飛行機に間に合わない。
どうすることもできず、立ち尽くしていたところに、見知らぬ中年男性から声をかけられたのだ。
「これをもっていきなさい」
「早くしないと間に合わないよ」
そう言って突然6万円を渡され、パニックになりながらも、言われるまま受け取って空港へ走った。
走って、飛び乗るように搭乗して、どうにか大好きだった叔父の葬儀に間に合った。
葬儀が落ち着いたあと、高校生は父親にすべてを打ち明けた。
「アホかお前は! 何があっても返さなきゃダメだ!」
父親はすぐに高校の先生に相談し、先生の提案で地元の新聞社に頼んで、その出来事を記事にしてもらうことになった。
新聞に掲載された記事は大きな反響を呼び、ほどなくして全国版のWEB記事にもなった。そして、その記事は、埼玉に住むあの日の男性のもとにも届いたのである。
それから1か月後、新聞社で男性と高校生は再会した。
高校生は6万円が入った封筒と、自分で授業中に作ったという文鎮を男性に差し出した。
二人は固く握手を交わし、男性からも紙袋が手渡された。
中には新品の財布が入っていた。
「もう財布は無くすなよ…(笑)」
照れくさそうにそう言う男性の言葉に、高校生は深く頭を下げた。
――2024年、沖縄で本当にあった、男性と高校生の「ウソみたいな本当の話」である。
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