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2024年05月21日09:21

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火曜日のメインコンテンツ「哲学」 第一弾 → ジョン・スチュアート・ミル 51 ミルの価値観ー人間と価値 (三) 政治体制の価値

(1) 価値定立の視点 1/3
 
 すくなくとも統治形態は、人間の生活に深いかかわりをもつものであるがゆえに、歴史上いかなる時代においても、きわめてカレンとな学問的課題とされました。すでにふれたベンサムにしても、またロックやルソーにしても、それぞれの程度の差はみられますが、個人を基調とした社会把握に立脚しながら、統治への人民参加の有効性を主張して、民主的統治を志向したのでありました。そして客観的には、これらの巨人の最も忠実なエピゴーネンともみられるミルは、民主的統治形態に絶大の信頼をおくとともに、それを真に最良の形態にするための施策の探求にあらゆる努力を傾倒したといえるのであります。

 たしかに民主主義は、原子論的な社会把握において、その内的論理上からみる限り、無矛盾的なものとして構想されるでしょうし、かりに諸社会の発展段階や適用地域の相違によって、民主的統治の個々の内容に変異がみられるとしても、それがつねに専制政治なり独裁政治なりの対立物として定立されるものである限り、その内的論理においては同一のものであるということができるのです。してみると、われわれにとってのひとつの課題は、この民主主義の論理が最良の形態をもって現実に機能できる政治体制とはどのようなものか、についての模索であるといえるでしょう。たしかに、原子論的な社会把握は、近代資本主義のもとでは非現実的な形象といわざるをえません。いみじくも、ジョン・フィーラーが、資本主義をもって「資本に基礎をおく専制主義」と表現したように、近代民主主義の危機は、資本主義的階級社会のもとで、民主主義がその論理にしたがって有効に機能できる統治体制をとりえない、ことを示唆するものであります。

 ところで、ミルはその労作『代議制統治論』の第一章において、統治形態はどの程度まで自由に選択できるか」という点を最初の解明課題としています。このことは、代議制民主統治を理想的に最良の形態としているミルが、この課題を彼の政治学体系の出発点としていることを意味するものであります。そして同時に、このことが、彼が政治体系の考察にあたって、たんに代議制統治の有効性を論証するというにとどまらず、もっと体制そのものについての根本的な問いかけを何よりも重視していることの証左でもあります。この点は、そらに第二章において、
「すぐれた統治形態の規準」について究明しているところからしても明らかに知ることができます。政治制度は人間によってつくりだされたものであって、その起源もその存在も人間の意志に負っているというのが、ミルの政治思想を支える基調点でありました。してみると、政治制度は人間によって選択されうるものであって、そのためには、それがいかなる基準において選択されねばならないか、が明示的に提示されることが必要となってくることでしょう。そればかりでなく、かりに選びだされた政治制度といえども、それは依然として人間によって運営されるかで規定されることにもなるでしょう。政治権力が君主の手中に握られているか、特定の少数者のもとにあるか、あるいは人民の代表者達の合議形態のもとにあるか、によって制度的メカニズムに相当のちがいがみられてきます。したがって、これらの政治制度をめぐっての判断評価は、きするところ政治体制の価値観の設定のされ方いかんにかかってくるということができるでしょう。



参考文献

 『経済学原理』 ジョン・スチュアート・ミル(著)  末永茂喜(訳) 岩波文庫
 『功利主義論 Utilitarianism』
         ジョン・スチュアート・ミル(著)  関口正司(訳) 岩波文庫
 『代議制統治論』 ジョン・スチュアート・ミル(著) 関口正司(訳) 岩波書店
 『ミル自伝 大人の本棚』
   ジョン・スチュアート・ミル(著) 村井章子(訳) みすず書房
 『新装版 人と思想 18 J・S・ミル』 著者・編者 菊川忠夫 清水書院
 『J・S・ミル 自由を探究した思想家』 関口正司(著) 中央公論社
 『世界の名著38 ベンサム/ミル』 早坂忠(訳)  中央公論社
 『J・S・ミル 自由を探究した思想家』 関口正司(著) 中公新書
 『福祉国家を越えて――福祉国家での経済計画とその国際的意味関連』
    カール・グンナー・ミュルダール(著) 北川一雄(訳) ダイヤモンド社
 『社会科学と価値判断』
    カール・グンナー・ミュルダール(著) 丸尾直美(訳) 竹内書店
 『言語と人間』 ヴィルヘルム・フォン・フンボルト(著) 岡田隆平(訳) ゆまに書房
 『人間形成と言語』 ヴィルヘルム・フォン・フンボルト(著)
     クラウス・ルーメル・小笠原道雄・江島正子(訳) 以文社
 『言葉と世界 ヴィルヘルム・フォン・フンボルト研究』 亀山健吉(著) 法政大学出版局
 『フンボルトの言語研究―有機体としての言語』 斉藤渉(著) 京都大学学術出版会,
https://www.youtube.com/watch?v=eiKBDCP6ojk
   【10分で解説】『功利主義』まとめ(ベンサム、JSミル)
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