もう50年ほど前、自前でSTEREO装置を揃え始めた頃、初めて使うようになったヘッドホンがSTAXのコンデンサー型だった。電気屋で色々聴いたが、コンデンサー型のヘッドホンの音は異次元と言うか他に比べようのない音で、当時でもヘッホンとしては異例の価格だったが、それでも最安値の普及型はまだ手の出る範囲にあったので少々無理をして購入して、それから約20年以上愛用した。しかしある時突然ボツッというような音がして本体から煙を出して昇天してしまった。その後、後継にやはりコンデンサー型を・・・と思ったが、そのころにはSTAXのヘッドホンは最普及型でも専用アンプとペアで￥100K程度の価格になっていて、ヘッドホンの使用時間も減っていた私は購入を諦めて現在に至っている。
コンデンサ型のスピーカー、ヘッドホンと言うのは超軽量の薄膜振動膜を膜全面で均一駆動して音を出す一種の平面発音機構を持っていて、高分解能・・・と言っても最近の所謂HiResの品の無い高分解とは違う極上品・超繊細な高分解能^_^;;・・・で圧迫感の無い極めて自然（・・・に聞こえる）な音が独特の魅力だった。ただ、作るのに手間がかかる上にソノ繊細な構造上維持管理に通常のダイナミック型スピーカーなどにはない微妙なところがあった・・・・私のヘッドホンの暴発も恐らくその薄膜間にかかっていた高電圧のショートによるものだったと思われる。そういった事情に加えて、このタイプの広面積の薄膜平面駆動スピーカーは一点から絞り出すような衝撃性・・・いわゆる”腹に響く”・・・低音は出ないこともあって、腹に響くドルビー音全盛の現代に向かないらしく、今ではほぼオーディオ絶滅種になってしまったのはいささか残念なことではある。
・・・・そんな折、一週間ほど前ネットを見っていて面白い記事を見つけた。八坂神社の目と鼻の先にある喫茶店にマグネパンMG1.7というスピーカーがある・・・と言う。Magnepanと言うのは米国の会社だが、リボン型の平面駆動型スピーカーを専門に作っている会社で、以前からその名前は聴いていたが私は其のスピーカーの音を聞いたことがない。駆動方式はコンデンサー型とは異なる（らしい）が、広面積の薄膜全面駆動・・・と言う点は似ていて形状も薄い衝立のような形をしている。一度その音を聞いてみたい・・・と言う好奇心とオーディオに凝っていた頃の懐かしさもあって、本日その”喫茶店”に行ってみた。
土曜日と言うこともあって観光客で賑やかな八坂神社前の通りを探すと、小さな建物の幅１ｍ程の階段を上った先の２階にその喫茶店は有った。入り口には”バッハを聴きながらコーヒーでもいかが・・・”みたいな事を書いた小さな看板があって、その一寸”知る人ぞ知る”珍しいスピーカー共々京都に時々ある”通の音楽喫茶”らしい雰囲気を感じながら２回に上がってその店の扉を開けた・・・一瞬”えっ？”と思った。厳粛なるクラシック音楽喫茶とは似ても似つかない賑やかさで、若い女の子やらカップルがペチャペチャお喋りをしていて音楽を聴いている風もない・・・・要するに観光地によくある普通の小さな喫茶店で有る。肝心のマグネパンを確認するまでも無く店員に案内された席に座ると、幸運にも目の前にそのマグネパンらしき衝立状のものがおいてある。MG1.7というのはマグネパンの中でも小型機に属していて幅50�儿發�150�僂旅�い地味な見かけで、音が鳴っていなければそもそもスピーカーとは気づかない様な代物だった。そして、店内が結構賑やかな上に地味なバッハの無伴奏を極小音量で流しているので最初はその黒い衝立が鳴っているのかどうかさえ定かでは無かったくらいである。まあ何というか何にせよ一家言あるオーディオ装置で何だかんだ蘊蓄を傾けながら”バッハを聴く”・・・・なんていう雰囲気とは対極の雰囲気である。
それでもスピーカの極近傍の席と言うこともあって、MG1.7なるスピーカーの音は確認できた。その音はやはり独特で、そもそもどこから音が出ているのか良く判らない・・・付近の空間から何となく音が漂い出ている様な雰囲気で、よく聞くと通常のダイナミック型のスピーカなどとは全く違う超高分解（らしい）繊細な高域を持っていて、低域も聞けば確かに出ていない訳ではないけれど死んでも”腹に響く”様な音は微塵も出てこない・・・・この点は、コンデンサー型よりも更に徹底してる。しかし、とにかく”控えめ”・・・・とでも言うのだろうか、スピーカーからの押し付けがましさが一切無く、周囲がお喋りで賑やかなら”どうぞどうぞ、私になそ遠慮なく、お喋りをお楽しみください・・・”とでも言うようである。まあ。人気観光地のど真ん中の喫茶店にちょっと凝ったオーディオで鳴らすバッハとキャピキャピ娘のお喋り・・・と言う何ともアンバランスな取り合わせだが、それがかえって店のオーナーのマグネパンへの惚れこみようを示しているようでもあり・・・・・と言う訳で、本来ならスピーカの音を楽しみに訪れた店なので、もうすこし静かな雰囲気で”オーディオの音”を楽しみたかった気もするが、何となく周囲のキャピキャピ娘どもも不愉快と言う訳でも無く妙に”MG1.7”の音に納得して不満は無かった。
Magnepanと言う会社は調べてみると今もリボン型スピーカーを作っているようだが、殆ど受注生産見たいになっていて日本には代理店も無くなっているようである。やはり、コンデンサー型と言いリボン型と言い押し付けがましい自己主張をしない（・・・・と言う自己主張を持った）薄膜平面駆動型スピーカーはこの”オレがワシが・・・”の下品なHiRes全盛の時代に有っては絶滅危惧種らしい。私でももう少し”腹に響く”下品な音が欲しい時もありそうで、自分のシステムに・・・と言うことになると、やはりちょっと躊躇してしまうが・・・・・。
まあ。何れにしても今日は久しぶりに新しい”オーディオ経験”を楽しめた。
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