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2024年05月11日15:03

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BOOK "歌われなかった海賊へ" 逢坂冬馬 (父の入院&退院)

“歌われなかった海賊へ” 逢坂冬馬

ロシアの女狙撃兵の物語で本屋大賞を受賞した作家の最新作、
ナチスドイツに抵抗した若者達が主人公ということで購入。

1944年、ナチ体制下のドイツ。
父を処刑されて居場所をなくした少年ヴェルナーは、体制に抵抗し
ヒトラー・ユーゲントに戦いを挑むエーデルヴァイス海賊団の少年少女に出会う。
やがて市内に敷設された線路の先で「究極の悪」を目撃した、
彼らのとった行動とは?──本屋大賞受賞第一作。 (出版社HPより)

高校生ぐらいの若い男女が、ナチスに反抗する、いい意味でも悪い意味でも
抵抗運動を背景にした青春モンかなと思っていたら、左にあらず。
予想以上に視野が広く、しかも深い、骨太で、現代への警鐘もある物語でした。

確かに前半は主人公達世代向けの軽い感じの語り口でしたし、
その行動もイタズラや喧嘩の延長みたいでした。
つまり、最初はヒトラーユーゲントの活動に強制参加させられることへの
反抗が彼らの主目的だったのが、次第にナチスの政策や郊外で行われている
秘密の作業を知ることによって、今まで以上に危険な行動をせざるを得ない
ようになっていくという。

ナチス政権下のユダヤ人への徹底的な差別は誰もが知る悪行ですが、
それだけではなく、最近”ナチ刑法175条”というドキュメンタリーが
上映されて注目されているLGBTへのユダヤ人並の迫害(条例で規定)、
それだけではなくロマ(ジプシー)への迫害、健全なアーリア人の
子供を産むように努力することのみが女子の健全な姿という道徳、
それらの学校教育内での推進といったことが語られ、
今までのナチスVSレジスタンスという構造と
成功不成功に関わらず実行計画までの緊張感を楽しむ映画や小説とは
全く違ったものでした。

加えて彼らの作戦後すぐ、彼らの街は占領軍に開放されるのですが、
その際の、数日前までナチスに従っていた一般市民の変わり身の早さ、
戦後、そういう市民達やナチス協力企業がしれっと復権していくのを
告発していく運動、そして今では戦後の反省心も薄れ、新たにトルコ系や
アフリカ系移民への差別や若者の右傾化への危惧なども物語に組み込まれていて、
盛りだくさん、大変読み応えありました。

彼らは、市民に向かって一緒にエーデルヴァイスの海賊の歌を歌おうと
声をかけます。けれど、市民は一緒に歌おうとせず、ナチスのついている嘘に
気づきながらも、喜んで騙されている。
この小説は、海賊たちの若者の物語ではあるけれど、歌わなかった住民を
厳しく批判する物語なのです。

それはまさに現在に通じる問題、
ネット上で真実をよく知ろうともせず批判する姿勢、
一方でごく一般的なことでも政治的な意見を言うことを良しとしない風潮、
投票率の低下といった国民への政治や社会への無関心、
つまり、嘘を声高で歌う海賊と増え続ける歌わない市民、
そもそも口をひらくことさえもしない若者への強い警告の書でした。

警告の書ではありますが、さすが本屋大賞作家、
後半は主人公の立場に合わせて前半より重くはなりますが、
彼らの作戦実行の緊迫感、そして最後に歌わなかった市民のささやかな抵抗が
わかる終わり方もよく、エンタメ本としてもきちんと楽しめました。

エーデルヴァイス海賊団というのは実際にナチス政権下に様々な都市にあった
若者の組織ですが、当初は政治的というよりはヒトラーユーゲントに
参加したくない若者の集まりで、みんなで徒歩での長距離ハイキング
すなわちワンダーフォーゲルといった余暇活動の延長で、
地域地域で独立していて横のつながりもあまりなかったとのこと。

小説の中でも、彼らのモットーは、高尚な理想を持たない、助け合わない
(誰かが捕まりそうになったとしても)、自分で責任を取る、でした。
それ故に、市民を動かすような、大きな流れにはならなかったのでしょう。

ちなみに、ナチス政権下の若者としてはスイングジャズに熱狂する
”スイングキッズ”も有名ですが、ベルリンの中流階級中心の彼らに対し、
海賊団の方は地方中心で、より労働者階級が多いと言うこともあり、
そういう地味さもあって、今まであまり知られてなかったとのことです。

それにしても、こんなにも深く強いメッセージがを日本の若い作家の、
一見学生向けのエンタメの皮を被った物語で読むとは思いませんでした。
物語、そして著者の心意気、素晴らしかったです。

この本、去年の秋に出版されていたのは知ってましたが、
エンタメ本やろと言うことで、パスしていました。
ナチスレジスタン分野が大好きで、いつもその手の映画を一緒に観に行く
91歳の父親もこの本のことは知っていましたが、この分野の本を原書で
読むぐらいのマニアなんで、逆にこの手の”軽い”のは読まない、と言ってました。

ところがその父が腰椎圧迫骨折で手術&リハビリで三月から入院生活に。
さすがに父も入院生活が退屈そうなので差し入れした次第です。
そして私と同じような感想で、なかなか幅広い視点でよく書けていて面白かった、
と言ってました。しかし、LGBTに関しては当時は本当に隠れた存在だったので、
ちょっととってつけた感があるとも。

ちなみに父はリハビリをたっぷりして、70日間の入院から今週無事退院しました。
日常生活はほぼこなせますが、階段の上り下り、腰を屈めたり、外出はもう少し
リハビリが必要。入院中、病院が手配してくれて要支援1,2を飛ばして要介護1級の
認定を受けました。

父は一人暮らし(私の自宅から電車で40分)なので、週3で訪問リハビリ、
入浴昼食リハビリ付きデイサービスを受けることで、人の目が入るのはよかったです。
私も週一ぐらいでは食事、洗濯、買い物、掃除等をしに行くことになりますが、
また一緒に新宿や渋谷に映画&昼食ができるぐらいリハビリが上手くいくことを願います。

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