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2024年04月10日15:10

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BOOK ”食っちゃ寝て書いて” 小野寺史宣

”食っちゃ寝て書いて” 小野寺史宣

売れない小説家とヒット作をだせない編集者の物語を図書館にて。

「食う」「寝る」と、もうひとつ大切なこと。
作家の横尾成吾はここ数年、鳴かず飛ばずの状態が続いていた。
50を前にそろそろ出版社から声がかからなくなるのでは、
との不安を感じていた矢先、担当編集者からボツを食らわされ、
不安に拍車がかかる。

書くことを何よりも優先し、ずっと一人で生きてきた横尾。
友人・弓子の思わぬ告白もあり、今後の自分の身の振り方を考えはじめる。
一方、横尾の新しい担当になった井草菜種は、これまでヒット作を
出したことがなく、もう後はないと気は焦るばかり。
菜種は、自身同様長く停滞中の横尾と本気で向き合いはじめる――。
(出版社HPより)

主人公は五十歳独身、郊外のワンルームに住み、質素で規則正しく、
食う寝る書く日々。過去の唯一のヒット作があるためなんとか出版社とも
繋がりはある。学生時代からの同じく独身の女友達・弓子と時々息抜きで
銀座で酒を飲むのが唯一の息抜き。

大手出版社の若手社員、井草菜種は開業医の家に生まれ医学部を受験するが、
どこも不合格で文学部に進む。大学中に始めたボクシングもプロ不合格。
就職だけは希望通りの会社に入り、異動で編集部に来てたくさんの作家を
担当するが、ヒット作は出せずにいる。同棲している彼女との仲も雲行きが怪しい。

要は停滞気味の二人が、それぞれやれることを地道に頑張り、
力を合わせていい作品を作り出す物語。
まず、ゼロから作家が発想し小説を作り上げる苦労、
編集者は心を鬼にして、作品をよくするために修正を求め、
作家も腹立ちを抑え、編集者を信じ腐らずにそれを受け入れ、
求められた修正以上のものを生み出す。

言った方言われた方のそれぞれ二人の心の様、
大きく派手な展開はないながらも、知り合いとの会話やちょっとした日常の
よくある些細な出来事が、真面目で、ストイック、それでいて他人の痛みがわかる
穏やかな性格の二人の目線で綴られていき、最後はちょっとした仕掛けで唸らされ、
作家・編集者それぞれの立場での小説の完成そして新刊見本本ができるまでの
達成感と充実感、最後は気になる人とのちょっとした幸福感も味わうことができ
大変楽しめました。

二人が一ヶ月ごとに三月から翌年二月まで交互に語る形式で読みやすく、
結果的にちゃんと菜種のアドバイスによって作品がブラッシュアップされているのが
わかる形になっているのが上手いです。作家と編集の気持ちと役割もよくわかったし。

独身、健康に気をつけて日々質素に暮らしている主人公には
似た境遇なのですごく物語に入って行きやすかったし、
さらに趣味で小説を書いているものとしては、主人公の作家としての苦労は、
もちろんプロと素人ではレベルは違うけれど、十分に理解できたのも、
面白かった大きな理由でもあります。

作家としての言葉で惹かれたのが、
”無駄に想像しない、無駄に休まない、無駄に求めない、無駄に守らない”
”小説は文字だけで世界が描ける、しかも一人でできる、伝えられる。
誰でもできる、だから書き出すか、書き出さないか、それだけだ”
”初めは自分のことばかり書いた。何を拾い、何を捨てればいいかが分からず、
あったこと全てを書いた。それではダメ。言葉、何を書き、何を書かないか、
取拾選択が必要” といったもの。
要は、焦らず、あざとくならず、謙虚に、コツコツ、そして諦めず、
といったことなんでしょう。勉強になります。

そして、”ものが書けることがもうすごい、普通の人は四百枚、五百枚も
文章は書けない”、という言葉に元気をもらいました。
一応、下手なりに四百〜五百枚の小説をこの九年で六作書き上げました。
ド下手な小説とはいえ、趣味というか、少なくとも労力としては
認められた気分で、嬉しかったです。

作者は2019年”ひと”で本屋大賞二位をとったり、コンスタントに新作が出る、
今作のような人と人のつながりを描くのが得意な人気作家。
私も2014年に”それは甘くないかな、森くん”を読みました。

でもデビューは2006年38歳と遅く、今作でも語られるデビュー前の暗黒投稿時代、
そこからヒット作が出るまでの暗黒時代を経験している、いわば苦労人。
確かに派手なドラマは起こらないタイプの作風なので、爆発的なヒットや人気は
正直ありませんが、だからこそ個人的には信頼できるし、そういう世界が好きな
読者がたくさんいるのは嬉しいことです。

そしてこの小説はそういう人たちへの、感謝の思いがこもった、
こんな気持ちで自分は小説を書いてきて、これからも書いて行きます、
というメッセージやないかと思います。
作者の誠実さも良く伝わるいい小説でした。

この一ヶ月読書日記が四作も続いてるのは、ちょうど先月に足掛け十ヶ月
かけた六作目の小説を、某有名小説新人賞に今年も無事応募できて、
ちょっと一休みだからです。
色々勉強になる読書ができたので、そろそろストイックにコツコツ、
一人で自分の言葉で世界を作れる趣味に邁進する、
”食う寝る書く”生活に励みたいと思います。
といっても、まだアイデアが浮かばないんですが、、、。
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