ハイトーンで少年のような響きのあるヴォーカル入りのシンフォニック・ロックを愛好する私のようなリスナーにとって、90年代以降の米国は、プログレ史上で最も豊穣な土壌であったと言える。おそらくイエスの影響が大きいのだろうが、本質的に米国人にはハイトーンのヴォーカルを好む風潮があるのではないだろうか。
曲 バンド アルバム
�� In our lives / Iluvatar [ Children 1995 ]
今回の10選のバンドはいずれも知名度が高くないが、その中でも90年代米国を代表するシンフォニック・ロック・バンドは、このイルベイターではないかと思う。4枚のアルバムを出している。専任ヴォーカリストのいる標準タイプの5人組で、ヴォーカルはグレン・マクローリン。ハイトーンで少し金属的な響きのあるつややかなヴォーカルに加えて、この曲では児童合唱団がバッグを務め、可愛らしいことこの上ない。ドラムスを始めとする演奏の技巧もみごとだ。
�� Anyone / Relayer [ A grander vision 1994 ]
リレイヤーは、バンド名から見ても、いかにもイエスに擬態したバンドだということが分かる。5人組で、ヴォーカルはジョン・サハジャン。現在までに7枚のアルバムを出している息の長いバンドだ。ヴォーカルの声質が魅力的で、少年声はこうあってほしいといったような響きだ。ベースがブリブリ言わせながらメロディーを弾いていることや曲の構成が複雑で次々と変転していくところなど、何とかイエスに近づこうとした努力が評価できる。
�� Season of the heart / Cairo [ Cairo 1994 ]
カイロはよく輩出してくれたと言いたいみごとなシンフォニック・ロック・バンドだ。ブレッド・ダーグラスをヴォーカルとする5人組で、３声のコーラスが 豊潤だ。イントロからすでにギターとキーボードが変展する。そして続くヴォーカルはつややかで透明感があって、しかも愛らしい。鳴り続けているキーボードの音色も豊かで、コロコロと器用に転がったり空間いっぱいに広がったりと変幻自在。リズム隊もうまいし、コーラスも膨らみがある。
�� Pleasure field / Light [ On a new horizon 1994 ]
ライトは、90年代米国屈指のメロディアスなシンフォニック・ロック・バンド。ただしヴォーカルは、少年声だがミドル・トーンである。4人組でデヴィッド・ドーナムをヴォーカルとし、３声のコーラスで歌う。サウンドは明らかにイエスの影響下にあり、コーラスがたっぷりで、コーラス・メロディもイエスっぽい。各楽曲は5分程度と短くてストレートな構成だが、メロディーの良い曲多数。というか、全部良い。
�� Overland / Ad Infinitum [ Ad Infinitum 1998 ]
アド・インフィニトゥムというバンド名は、永遠を意味するのだという。6人組で、リード・ヴォーカルが2人。そしてツイン・キーボードのために非常に分厚いサウンドとなっている。ロジャー・ディーンによる異世界のジャケットは、いかにも大物風だが、演奏も完璧な整合性で、やっぱり大物の風格がある。アルバム1枚だけで終わったのが残念。ヴォーカルの声質は、今回の他のバンドに比べてやや低いが、少年らしい響きがある。8分から10分あるプログレらしい変転する楽曲ばかりなので、曲の選択にも困ったが、 アップ・テンポで始まるこの曲にしてみた。
�� Wide awake and dreaming / Blue Sift [ Not the future I ordered 1997 ]
ブルー・シフトは4人組で、スチュワート・メレディスがヴォーカルを担当。ヴォーカルの声の響きは、ちょっと雑音に近い倍音を含んでいて、今回のバンド中、最もジョン・アンダーソンに似ているのではないだろうか。しかし曲はフルートが入ったり、エッジの強いハードな曲だったりして、イエスとはかなり感じが違う。このアルバム発表後、このヴォーカリストは交通事故で亡くなってしまったのだという。
�� Amphigory / Tryptic [ Rabble gadgets divine 1998 ]
トライプティックは4人組で、ヴォーカリストの JT マーティンがフルートも担当している。曲のオープニングからメロディー・ラインを含めてそのままイエスといった雰囲気で、ハイトーン・ヴォーカルにコーラスが入りまくる。しかしそれぞれの楽曲は短いものが多くて、この曲でも5分。8分や9分になる大曲もあるにはあるが。
�� When it’s love / Cannata [ Wathing the world 1993 ]
カンナタは、マルチ・プレイヤーのジェフ・カンナタがキーボード、ギター、ドラムス、ヴォーカルを担当。そこに9人のゲストが加わって、ギターが4人おり、更にサックスも入っている。アメリカン・プログレ・ハードとシンフォニック・ロックの中間にいるサウンドだが、この透明感のある美しい声は、選出しておかなければならないだろう。ジェフ・カンナタは60年代から活躍しているというが、80年代にはアーカンジェルのメンバーとして活動していた。かなりのお年になる筋金入りのミュージシャンだが、声はとても美しいし、メロディーも最高。ただしプログレとしては、極めてポップである。
�� A transforming / Ring Of Myth [ Unbound 1996 ]
リング・オブ・ミスは3人組で、リード・ヴォーカルが2人。アクロバチックな演奏はジェントル・ジャイアントをちょっと下手にしたような感じで、ちゃかちゃかしたアップ・テンポの展開。しかしヴォーカルは、ちょっとジョン・アンダーソンにも似たハイトーンだ。うまいのか下手なのか、はたまた録音が悪いのか。この迫力不足は残念だ。変わり種のサウンドとして面白くはあるが。
�� Embrace the new day / Infinity [ Infinity 1996 ]
インフィニティは、ヴォーカルとキーボードのジョージ・グレゴリーと、ギター、ベース、キーボードのランス・スウィングの2人を中心とし、ゲストが9人。 サックスやトランペットも入っている。インフィニティというバンド名も、意味 は永遠だ。リズム隊が軽いのが欠点だが、しっかりと多彩な音を繰り広げる。そしてコーラスもみごとで、イエスというよりもスター・キャッスルに似ていると言えるだろう。ヴォーカルの掛け合いや複雑なリズムから見て、ジェントル・ジャイアントからの影響も感じられる。
[次点] Airglow / Realm [ The path 1992 ]
レルムは、キーボードのスティーブ・ヴェイルを中心とする3人組だが、ヴォーカルとギターはダレル・ストドゥナが担当している。サウンドはイエス擬態であって、一見それに成功しているように見えるし、バンドのホームページにもそんな風に書いてある。しかしイエス好きの私でも、あまり聴く気にならないのはなぜだろう。ハイトーンで少年声なのは間違いないのだが、聴いた後で耳に残る 響きが、なぜか心地よくないのだ。ヴォーカルが情けないような響きだからだろうか。今回は少年声特集なので、あえて選択した。
〇 その他候補にしたバンド（どれも素晴らしいバンドばかり）
Bigelf, Citadel, Damn Yankees, Episode, E-Motive, 5 UU’s, Hands, Ice Age, Innocent, Kalaban, Lover Boy, Nick Peck, Pangaea, Robert Berry, World Trade
参考
プログレ／1980年代 アメリカの少年声ハイトーンヴォーカルの曲10選
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1983075520&owner_id=9666295
プログレ／1970年代 アメリカの少年声ハイトーンヴォーカルの曲10選
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1981644348&owner_id=9666295
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