初監督作「ファーザー」で第93回アカデミー脚色賞を受賞した映像作家・劇作家のフロリアン・ゼレール監督が、ヒュー・ジャックマンを主演に迎えたヒューマンドラマ。「ファーザー」に続く「家族3部作」の2作目で、ゼレール監督の戯曲「Le Fils 息子」を原作に親と子の心の距離を描き出す。
家族とともに充実した日々を過ごしていた弁護士ピーターは、前妻ケイトから、彼女のもとで暮らす17歳の息子ニコラスの様子がおかしいと相談される。ニコラスは心に闇を抱えて絶望の淵におり、ピーターのもとに引っ越したいと懇願する。息子を受け入れて一緒に暮らし始めるピーターだったが、親子の心の距離はなかなか埋まらず……。
主演のジャックマンが製作総指揮にも名を連ね、「マリッジ・ストーリー」のローラ・ダーン、「私というパズル」のバネッサ・カービー、「ファーザー」のアンソニー・ホプキンスが共演。2022年・第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。(映画.comより)
<2023年5月15日 劇場鑑賞>
田舎に降りて来ることを予想していなかった作品。例によって2週間で終了、2週目は夜だけの上映になるパターンだったけれど、夜でもがんばって行きました。見れてよかったです。
弁護士として成功し、立派な事務所を構えるだけでなく、その有能さを見込まれ、有力議員の選挙事務所を任されようとしている”ザ・デキる男”のヒュー様。長身でハンサムな彼は、見栄えもめでたく、そこにいるだけでも目立ちます。男女にかかわらず、見栄えのする人は本当に生きてて得だと、出てきた時から思わせる出で立ちでした。彼は、今は若く美しい妻(ヴァネッサ・カービー)と生まれて間もない息子との3人暮らし。なんの瑕疵もない人生に見えます。ところが、そこに前妻(ローラ・ダーン!)が息子のことで訪ねて来ます。難しい年頃の息子は、どうにも不調のようで、学校へも行けてないようなのです。いよいよ母親だけの手には負えなくて、助けを求めに来たわけです。
成功街道まっしぐらのヒュー様は、「なんなんだ」と思いながらも、自分の息子ですから、それなりに関わろうとします。しかし、問題はそう単純ではありません。息子も素直でいい子ですし、きちんと学校へ行って道を踏み外さずに生きて欲しいと両親が願うのも、当然。そしてまた、新妻が夫に、向こうの息子ばかりに気を取られないで、こちらをきちんと見ていて欲しいと願うのも、当たり前なのです。息子を励まし、またときには預かり、妻たちも協力しながら、みな精一杯協力します。でも、愛情では治せないものも、また存在するのです。
ところで、ヒュー様の父親役で、アンソニー・ホプキンズが出演しています。彼は、どこのお城かと思うほどの豪邸に住み、家庭を顧みずに仕事と成功に邁進したことを後悔しているところはないように見えます。常に言動が強いので、どこまでが本心かわかりませんが、少なくとも外向きにはそう振舞っています。そして「息子のために選挙事務所の仕事は断ろうと思う。ワシントンには行かない」と言ったヒュー様に、「そんなことをわざわざ言いに来たのか。自分は私と違っていい父親だと言いに来たのか」と責め立てます。家庭に冷たかった父親を責めるヒュー様に「そうさ。俺は家庭をちっとも顧みなかった悪い父親さ。だから、なんなんだ」と言い放ちます。「50歳にもなって、10代の頃の恨みをまだ持っているのか。乗り越えろ!過去の事実は変わらない。しっかりしろ」と、そんな意味のことを言います。誤解を恐れずに言うと、私はここで「なるほど」と思いました。家庭を顧みない父親は数あれど、ここまで認識を持ち、なおかつ信念の変わらない人って、ある意味すごいと思いました。ちゃんと成功してるわけだし。確かに、恨んだところで過去は変わらないし。もちろん、自分の人生を振り返って「ここに傷があるのだな」とか、そういうことを認識するのは大事だと思いますが。そのうえでよかったところや自分ができてきたことを認識して、乗り越えるすべになり得ると思うので。でもともかく、私はここでアンソニー・ホプキンズに感心したわけです。
しかし、優秀に育ったヒュー様と違い、息子は繊細です。時代背景にもよるのかもしれません。ともかく、多分優秀だろうし、いい子なんですが、大人たちが一生懸命になればなるほど、追い詰められ、壊れていってしまいます。とにかく、一時的に精神病院に入ることになりました。そして、少しして約束の退院の日。「もう少し治療を」と言う主治医と「もう大丈夫。これ以上薬を飲むのもいやだし、ここから抜け出せなくなるのもいや。ママ、ダディ、連れて帰って、お願いだから」という息子。「賢くするから」って。未成年ですから、親の意志ですべてが決められます。息子の切実な目と、専門家のアドバイスの板挟みになるヒュー様とローラ・ダーン。
<ここからネタバレ>
二人は帰りたがる息子が不憫でなりません。主治医の言うこともわかるのですが、息子の主張は真っ当です。とうとう連れ帰ることにしました。私たちがついてるわ、絶対に守ってみせる、親ならそう思いますよね。でも、精神病は愛情では治せない。家に帰れて喜び、両親にお茶を淹れてくれた優しい息子は、次の瞬間、バスルームで猟銃自殺します。もう、取り返しはつきません。
新妻との生活に戻ったヒュー様ですが、息子の幻を見ては悲嘆にくれ(しかし、その幻すら、息子は成功した作家だったり、素敵なガールフレンドと住むという話だったり、どこまでも親が望む理想だったりする)、泣き崩れてしまうことも。そんな時は、ヴァネッサ・カービー演じる新妻が駆け寄り、しっかりと抱きしめてくれます。「私やセオ(赤ちゃん)のことを考えて」と言いながら。自殺の場面より、個人的にはここの方が怖かったかも。結局、どの人も自分のことしか見えてない、そういうことね、と思った私は、ひねくれもの?うがった見方ですみません。
<ネタバレ終わり>
辛すぎました。いろいろ考えてしまいました。
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