今年の年明けまで放送していたスーパー戦隊シリーズ第46作めの『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』はなにかと型破りな作品だった。そうなった最大の理由はおそらく新型コロナが猛威をふるったことにある。
コロナのパンデミックは前々作『キラメイジャー』のころに本格化して、主演が陽性になったりしつつ、すでに放送したシーンにスタジオ撮影の追加分を足した再編集版でなんとかやりくりしながら、どうにか1年の放送を完了させた。
その次の『機界戦隊ゼンカイジャー』は、戦隊でありながら人間の戦士が1人だけで、他は着ぐるみだった。若手俳優の登竜門としての位置づけをかなぐり捨ててまでのコロナ対策といえる。ひょっとして、すでにオーディションも終わってメンバーも決まっていたのに、駒木根葵汰以外はキャンセルになっていた可能性もある。だとすれば、そういう仕事とはいえ、残酷なものである。
その後を受けた本作では、戦士はすべて人間に戻したものの、敵が現れると強制的に呼び出されて戦うだけで、日常の生活では接点がないというか、互いが味方だと知らないまま微妙に活動が交錯していき、「ひょっとして?」と疑心暗鬼を生じさせながら、接近していくというのが序盤の展開だった。
戦隊ものにありがちな、メンバー全員がひとつところに集まって親しく過ごす、あるいは時に衝突したりするということもなく、とにかく別々に撮影して誰かが陽性になっても残りだけで制作が続行できる体制が優先されていた。オープニングですら、キャスト別々に撮って合成するという徹底ぶりで（というか、すでにそこからこうした撮影が実際に可能なのか試行されていた）、それまでの戦隊を見慣れた目にはかなり異質な作り方がなされていた。
本作のチーフプロデューサーは白倉紳一郎、メインライターは井上敏樹である。いずれも業界の大ベテランであり、平成仮面ライダーを定着させたコンビともいえ、現行のメイン世代からは2つぐらい遡る存在となる。白倉紳一郎は東映の執行役員だし、撮影所の所長でもあるから、次の社長だと思う。
この二人が起用されたというか、おそらく自らかって出たあたりに、コロナの対応へ本腰を入れた東映の姿勢が出ているといえる。同時にこの特撮ものというジャンルが、会社にとってきわめて重要なセクションだともわかる。昔語りに属するとはいえ、時代劇とヤクザものが看板だったころとは隔世の感がある。
余談になるが、東映にとってこのコンビが切り札であることが明確なケースとして、2005年の『仮面ライダー響鬼』の製作を途中から引き継いだ件が挙げられる。いわゆる平成ライダーの第1作は2000年の『仮面ライダークウガ』で、チーフプロデューサーは�盪�成紀だった。そういう意味では、彼こそ平成ライダーの生みの親なのだけれど、妙に現場へのめりこむ癖があったらしく、予算やスケジュールの管理が甘くなりがちだったらしい。そして、この�盪�成紀が再びライダー・シリーズのチーフプロデューサーを務めたのが『響鬼』だった。
もちろん、撮影する以上はいいものを視聴者に届けたいという気持ちは大切だろうけれども、さりとてお金と時間の制約はある。プロデューサーの最大の職務はそこの管理のはずで、そのために現場と対立することはあるだろうけれども、それが仕事なのだから仕方がない。
ところが、この人は率先してそこに目途を立てず突き進むものだから、『響鬼』は中盤で撮って編集してはすぐ放送という惨状に陥ったという。なにかアクシデントがあれば、すぐに放送へ穴が開きかねない危険な状況である。
さすがに会社が痺れを切らして降板させ、そこへ投入したのがこの二人だった。『響鬼』は作品としてはたしかにファンが多かったから、ネットで見ていると引き継ぎに関する変更については否定的な評価が多かったけれど、とにかく大事に至らせることなく終わらせた仕事ぶりを会社は評価したものと思われる。
コロナのパンデミックを受けて登板した二人が持ちこんだ手法はかなり大胆で、賛否は分かれたはずである。とはいえ、現行の世代がこれまでの方法の延長から発想したであろうことから一線を画しているのはたしかで、ビッグネームゆえに思い切った変更が可能だったことは間違いない。
事実、振り返ってみると、戦隊シリーズが洗練の度を加える一方、ややマンネリの兆しが生じつつあったのも事実で、タイミングとしてそろそろ大規模な再構築が必要だったことは納得できる。パンデミックを逆手にとり、あえて攻めの一手に出た果敢さは評価できよう。
主要キャストの人選の基準も、ガラリと変わったように見えた。この枠から注目されて大成した俳優も多いから、大手プロダクションが若手の有望株を充ててくることも多いらしく、容姿が優れ華もあって演技もこなせる面々がずらりと並ぶことが続いたけれど、本作にあっては割とクセの強いキャストを揃えた観がある。
白倉伸一郎という人はとにかく現状に飽き足らない気持ちが強いらしく、順調にシリーズを重ねているように見える仮面ライダーについても、このままでいいのかという危機感を吐露しつつ、Amazonと組んで『仮面ライダー・アマゾンズ』を製作したりしている。これはかなりカットされたバージョンが深夜で放送されていて（基本的にはAmazon独占配信のはずで、ものすごく長尺の予告編という扱いでしか放送できなかったと思われる）、たしかにダークでひりつくような感触は日曜朝の子ども向け番組では出せないテイストだった。
と、ここまで書いておいてナンだけれど、個人的にこのコンビの作品はあまり自分には合わない。現状を打破することで前に進もうという姿勢はたしかに尊重すべきではあるけれど、往々にしてそこだけが目的化してしまい、ただ奇を衒うことになりがちな印象がある。
なにか訴えたいこと、表現したいことがあって、それと現行の方法論が衝突するゆえに、そこから新しい方法論を編み出して進んでいるようには見えないのである。
風呂敷を広げるだけ広げて畳まずぶん投げるのも相変わらずで、それでいいのだったらどうとでもやればいいだけの話だから、見ていて既存のパターンを外れた展開になったとしても、なぜそうなったのか、どこへ収束していくのかを考えるだけ時間の無駄であることを知ってしまっているため、結局、流し見してしまう。そして、本作もだいたいそうだった。
だから、そんなにちゃんと見なかったのだけれど、主演の樋口幸平の演技はおもしろかった。彼は桃太郎に擬される存在なのだけれど、あまり協調性とか気にしない人物で（実は人間であるかどうかする判然としていない）、他のメンバーを「お供ども」と呼んで憚らないオレ様キャラなのである。
しかし、おそらく樋口幸平自身は典型的な現代の若者で、あくまで優しい物腰の穏やかな青年なのだと思われ、そんな彼が無理くりオレ様を演じている時に垣間見えるほのかな破綻は、中田ヤスタカがアイドルの魅力として語るところの「完璧さの中に見える綻び」に通じるものがあったと思う。
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