ネタバレ全開なので未見の方注意
物語とは「過去の不幸のせいで、間違った思い込みに囚われた登場人物」が「冒険を通じて成長し、真実に気づく」旅である。
「シン・仮面ライダー」においては、主要人物、本郷猛、緑川ルリ子、イチローが、過去に理不尽な不幸で家族や仲間を失った為、「絶望を乗り越えるには、強大な力が必要である」という間違った思い込みに囚われている。
【変化】
コミュ障の改造人間だった本郷猛は、ルリ子との旅を続けるうちに、バイカーとしての経験を活かすなど人間味を取り戻していく。
逆に本郷を威圧気味だった緑川ルリ子は、改造人間としての悲哀と弱さを曝け出す様になり、次第に本郷猛は、ルリ子の守護者となっていく
【決定打】
ルリ子はショッカー時代の唯一の理解者とも言えたハチオーグのひろみと対峙し、そのクソデカ感情をぶつけられる。
自身の守護者である本郷によって、ひろみを殺す事なく制圧できるかと思えたが、政府の男によってひろみは殺され、ルリ子の硬質なマインドは砕かれる。
さらに兄、イチローの蝶オーグへの覚醒により、ルリ子は追い詰められる。
【硬質なマインドと、しなやかなマインド】
ルリ子も本郷も、成長と変化をするが、基本的に硬質なマインドの持ち主なので、変化を阻害される。
本郷は他人を殺したくない為、仮面ライダーになってもオーグに対して手加減をする為、ヒーローとしては中途半端である。
【しなやかなマインドを持つ一文字隼人】
硬質で不器用な「シン・仮面ライダー」の登場人物の中で、一文字隼人だけが、しなやかなマインドを持っている。
登場時こそ洗脳されているものの「好きか嫌いかが俺の全てだ」と言い、「これからは、好きになろう」と自分を変えられる一文字隼人は、硬直化した世界観の中で、唯一の希望となる。
かつて仮面ライダーの放送の危機を、同じ名の男が救った様に
【内包され続ける悲劇】
本郷とルリ子は、相手こそが、「自分が求めていた存在」だと気づくが、その時、全ては手遅れになっている。
かつてと同じ様に、大切な人は、どんどん理不尽な運命で消えていく。
これだと通常は「悲劇」になるが、本作には一文字隼人がいる。
本作は「緑川ルリ子の悲劇」を内包した「本郷猛の悲劇」を、更に内包した一文字隼人が、希望に向かって戦い始める物語であり、それは巨大なクソデカ感情を観客にぶつけ、深い感動を呼ぶ。
【変わり続ける一文字隼人】
敵も味方も不器用で硬直な心の持ち主ばかりの中。
変わる事を躊躇わない、しなやかな心を持つ一文字は、物語終盤の鍵になる。
最終決戦も、物語の結末も、能動的に動いているのは本郷だが、それは、しなやかな心を持つ一文字の同行があってこそで、まさに「俺とお前の2人でダブルライダー」なのだ。
一文字は「改良型バッタオーグ」から「仮面ライダー第2号」に、そして「ショッカーの敵、人類の味方」へと変わり続け、本郷猛のドラマを内包して、物語を締めくくる。
ログインしてコメントを確認・投稿する