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2023年03月15日07:30
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墨だし職人・大工必読！ “墨壷”は偉い！ 東アジアの“墨壷文化圏”が作り出した最高の大工道具だ！
※画像は坪静鶴亀スミ坪240mm
ケヤキを使用した手彫りの墨壺。39,800円 欲しい！
西伊豆の大瀬崎にある、伊豆の七不思議に数えられる神池から南に少し下ると戸田(へだ)という小さな漁村がある。
参考
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【伊豆の七不思議】
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【大瀬明神の神池】
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御浜岬と戸田の街
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ここは戸田温泉がある温泉地でもあり、もちろん憲さん行ったことがある。
ここの公共浴場の「壱の湯」にも入湯している。
参考
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【戸田温泉】
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【壱の湯】
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ここは、以前は戸田村といった独立した自治体であったが、現在は「平成の大合併」により沼津市に編入されてしまった。
【戸田村】
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この戸田村で、幕末において日本の産業の発展に寄与する大きな出来事があったのは今では忘れ去られている･･･。
1854年（嘉永7年）日本との国交樹立交渉のためプチャーチン率いるロシア海軍のディアナ号は下田に停泊していたが、安政東海地震による津波により大破してしまった。
参考
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【エフィム・プチャーチン】
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ディアナ号は破損した船体を修復すべく、幕府の許しを得て、戸田村へ向かった。
何故幕末期のロシア船の修復を西伊豆の寒村の戸田で行うことになったかという理由は･･･
�．妊�アナ号は既に損傷していてあまり遠くには回航できない。
��当時ロシアはクリミア戦争の最中で英仏連合軍と戦っていたため、海上往復の頻繁な港で修理を行うのは危険と判断した
�３姐駟�行で露使応接掛の川路聖謨(としあきら)がディアナ号が長く下田に留まるのを快く思わなかった
参考
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【川路聖謨】
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�じ妖弔稜談�(御浜岬)内側は遠浅の砂浜で潮の干満を利用して船底を修繕すれば船渠と同様の状態になり、特に11〜12月は西風の時にも荒波がたたず大型の船の修理にはもってこいであった
参考
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【御浜岬】
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�ペ薫弌�開港の喧しい折に四面開放の場所で異国人を多数滞留せしめ、船の修理を行うのは甚だ取締上大変であるが、戸田は三方が山で囲まれ自然の城廓をなし、この時下における異国船の修理にはもってこいであった。
※参考『黒船』1981年出版「ヂアナ号は何故戸田で修理する事になったか」森斧水
このようにロシア船ディアナ号が戸田の港に廻されて修理をすることになった経緯から西伊豆の寒村戸田とそこに住む人々のそれからが少なからず変化することになっていったのである。
そして、下田における簡易な修理で戸田に向かったディアナ号は航行中に強風と大波にあい1855年1月15日（安政元年11月27日）に田子の浦沖で座礁し、1月19日（12月2日）に沈没してしまった。
幸いにプチャーチンと乗組員は、安政の大地震の被災者でもあった地元の人々の協力により救助され、宮島村（現静岡県富士市）に上陸した。
※このとき宮島村の人々は遭難したプチャーチン一行を異国人にも関わらず手厚く救助している。
参考
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日露友好とディアナ号
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このように幕末期のおいては日本とロシアは隣国同士友好な関係を築いていたのである！
その後、日露和親条約締結を終えるとプチャーチンは帰国ための船の建造を幕府に願い出る。
その申し出は許可され、ディアナ号を修理するはずであった戸田村・牛ケ洞にて帆船の建造が始まる。
このプロジェクトにあたっては日本人は官民合同で300人と、ロシア人500人の計800人に上り、日本史上初ともいえる日露合同の造船が行われたのだ。
日本人とロシア人の言葉の壁や、西洋式の帆船であるための資材の調達や専門技術者の不在など、数々の問題はあったが、日露双方が一丸になって取り組み、着工から3ヶ月という短期間で、2本のマストを備えた小さな帆船が竣工した。
プチャーチンは、村民への感謝をこめてこれを「ヘダ号」と名付けた。「ヘダ号」は無事、ロシアのニコライエフスクまで航行し、プチャーチンたちは3年ぶりに祖国に帰還した。
参考
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【ヘダ号】
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その後、戸田村では、ヘダ号の同型船である君沢形(君沢形の名前は戸田村が属した君沢郡に由来する)の量産が行われ、日本の造船技術の発展に大きく寄与したのだ。
参考
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【君沢形】
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このように、西伊豆の戸田は日本の近代造船技術発祥の地であり、実際戸田村の船大工だった上田寅吉らは洋式造船技術を学び日本各地にその技術を広めていったのである。
参考
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【上田寅吉】
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幕末に洋式造船の技術でヘダ号を造船したことを記念してこの戸田の御浜岬には現在「洋式帆船建造地跡」の石碑が建っている。
参考
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【洋式帆船建造地跡】
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そして、さらに岬を先端に向かって進むとそこに「ヘダ号」の事績を記念した戸田造船郷土資料博物館がある。
参考
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【沼津市戸田造船郷土資料博物館】
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戸田造船郷土資料博物館・駿河湾深海生物館(公式サイト)
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と、ここまで長いマクラになってしまったが、今回の主役はこの博物館に陳列されているものである。
この造船記念館、憲さんは2003年の5月2日に訪れている。
もう20年も前のことである。
当時はそれほど幕末史にも興味なく、温泉ツーリングの立ち寄り先として入館料も安いので何気なく入ったのだが、ある展示物に憲さんの目が釘付けになった。
それが、当時の船大工たちの使った大工道具のコーナーにあった“墨壷”である！
現在の博物館の公式サイトにもその画像がアップされている！
こちら
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近代化産業遺産
大工道具
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そこにはこう書かれている。
「大工道具の中でも、ロシア人が特に興味を示したのは墨壺でした。ロシア人はまっすぐな線を引くのに長い棒を用いていましたが、紐を引っ張ってぴんとはじくときれいな直線が引ける墨壺に大変感心したそうです」
Σ(￣□￣;)ハッ！
これは憲さんが仕事で毎日使っている墨壷とほとんど同じ形ではないか！
憲さん、その時とても驚いた！
憲さんの仕事は「墨だし」である。
その仕事はこの墨壷を使って墨汁による“線”を現場に描き出す仕事であり、まさに“墨壷命！”の仕事なのである！
参考
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【墨壺】
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墨だし潜入調査
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このときもう“墨だし屋”になって10年以上が経っていたが、何たって、憲さんが毎日使っている墨壷とほとんど同じ形状の墨壷が博物館のガラスケースの中に陳列されているのだから！
その時の感想はこうだ。
「墨壷って、すごいんだな！」
今から思うとこの陳列されているのはどの船大工のかはよくわからないが、当時の戸田の宮大工の棟梁、上田寅吉も同じ様な墨壷を持ち、墨を弾きながら、声を張り上げて大工衆の指揮をとっていたに違いない！
歴史のロマンを感じる！
ということで、今回は憲さんの“飯の種”でもあり商売道具である愛すべき「墨壷」について語ろうと思う。
墨壷といっても、一般の人はそれこそいまや博物館でしかお目にかかることはないかもしれない。
実際その後、憲さんはいくつかの郷土資料館や博物館で墨壷の展示をみている。
それらは実際に当時使われていたシンプルな物が多かったと記憶している。
そして昔ながらの墨壷がいまや見られなくなったのは、現代の墨壷はプラスチック製の自動巻きとなり姿形も戸田の造船博物館に陳列されているような形状ではなくなってしまったからである。
このような形である
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パーフェクト墨つぼ10
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しかし、江戸時代に普及していた大工道具としての墨壷とはどのような形状かというと当随筆にアップした画像のような墨壷であり、また以下のようなものである。
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【壷豊銘墨壷2点】
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見ての通りそもそも木製で、前方が壺状(墨池)になっておりそこに墨汁を含ませた綿を入れておく。
そして、後方は糸車がついていて糸を出し入れすることができるのである。
糸の先にはカルコがついていて、糸が全て糸車の中に入るのを防いでくれ、またカルコの先は鋲のように尖っており、それを材木などに突き刺して使うことも出来るのだ。
参考
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カルコってご存知ですか
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※現在残っている古来からの形状を踏襲している数少ない墨壷はほとんどがプラスチック製にとってかわっているが、その意匠が墨池の前方に“鶴”後方に“亀”をあしらっており、大変お目出度い形になっており、それらを私たち墨だし屋は“鶴亀墨壷”と呼んでいる。
厳密には“源氏型墨壷”というそうである。これは壺車が源氏車の形をしていることから名がついたそうだ。
参考
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【墨壺】
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【源氏車】
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こちらがプラスチック製の安価な現代の“鶴亀墨壷”
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源氏鶴亀 プラスチック製墨壷
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憲さんが一貫して使っているのはこれである！
墨壷の具体的な使い方はこうである
墨壷の使い方
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このように、現在の墨壷と古来からの墨壷はその形状からして似ても似つかず、現在はほとんどが自動巻きてプラスチック製の「パーフェクト墨壷」にとってかわってしまい、現在建築現場ではほとんど見ることができなくなっている。
そして、それら古来からの木製の墨壷は今や「骨董品」「趣味の置物」「民芸品」「工芸品」などの「美術品」「芸術品」としてのコレクションにまでなり、しかし現実には大工の手には触れられなくなり一部は歴史史料として博物館へとその存在が追いやられてしまったのである。
(´Д`)=*ハァ〜
しかーしっ！
日本全国広し、大工・墨だし職人たくさんいれど、いまやこの古来からの意匠を保つ「鶴亀墨壷」を使っている職人はもはや数えるくらいしかいないのではないだろうか？
そして、その一人が何を隠そうこの憲さんなのである！
先日も新しい鶴亀墨壷をおろしたばかりである！(もちろんプラスチック製だが･･･トホホ！)
何故か？
パーフェクト墨壷に対して、鶴亀墨壷は墨池の口が広く、墨さし(部材や躯体にマーキングする竹べら)を入れやすい。
参考
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墨付け ー 墨差しを使う
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それに、構造が単純で壊れにくく、糸が絡んだり切れた時の処理が極めて簡単なのである！
これに対してパーフェクト墨壷の利点はただただ「自動巻き」という点のみなのである！
これで、古来からの伝統ある意匠を保つ鶴亀墨壷を捨ててしまっていいのであろうか？
憲さんは甚だ疑問である！
それに現在はプラスチック製ながら古来の意匠を継承する自動巻きの墨壷も存在する。
百歩譲ってこれでしょう！
これだ
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ハンディ墨つぼ 墨技 自動巻 ブラウン
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これなら憲さんまだ許せる。
しかし、やはり自動巻き故に故障や糸切れの時が大変だろう。
(´Д`)=*ハァ〜
大工道具はほとんどが金属製でさしがね、鋸など直線的な意匠のものが多い中で、そのほとんどが木製で(以前は･･･)そして形状が丸みを帯びている特異な大工道具「墨壷」はいつ、どこから来たのであろうか？
そしてこれは世界的に普遍的な道具なのであろうか？
このような疑問が憲さん、この仕事に就いてからずっと持っていた！
そして、職歴30年以上も過ぎたこの時点で、真面目に「墨壷」と向き合っていこうと思うのである！
以下、研究結果の発表である！
●墨壷の歴史
建築部材に長い直線をしるす道具(これはまだ墨壷とは言えない建築道具であり、一般的に「墨掛道具」と呼ばれている)は、洋の東西において、異なる変遷をたどっている。
この墨掛道具の原初はアフリカ大陸の古代エジプトであったようだ。
今から4600年前に赤色で墨掛した線が残っているようである。
また、3500年前のギリシャの文献にも建築用の墨掛道具の記述があるらしい。
これに対してユーラシア大陸の東の中国では、紀元前16〜11世紀の殷の時代に墨掛道具の記述があるらしい。
しかしこれはあくまでも、着色容器と紐が分離したままの墨掛道具であり、墨壷ではない。
そして中国では紀元前3世紀から紀元後3世紀くらいにそれらが一体化した墨壷ができたのではないかと推測されてお、また、11世紀の宗の時代には文献に「墨斗(ぼくと)」との記述があらわれ、これが墨壷のようなものであると言われている。
参考
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【墨壺・墨斗】
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これに対して西洋においては一貫して一体型の墨壷的道具は出来なかったらしい。
そして、中国の墨壷が日本に伝来したのが6世紀の後半に仏教寺院建築の様式と技術が導入された時期ではないかと言われている。
その頃のは原始的な尻割れ型の壊れやすい墨壷であった。
このような形
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【忘れ物の墨壷】
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↑
ちなみにこの墨壷は、東大寺の南大門の修復時に梁の上に置かれていたのを発見したもの。それは、南大門を建てた大工が忘れたのだろうと「忘れ物の墨壷」と呼ばれたが、大工が大切な大工道具の墨壷を忘れるはずもなく、それを建てた大工の棟梁が一世一代の大仕事で建てた証として、またその建物の繁栄を願ってあえて置いたのであると考える方がシックリくる。
それが大工の手によって使われていくうちに改良され、壊れにくい「尻閉じ型」の現在のような形に18世紀になって作られたらしい。
確かにこちらの形の方が極めて合理的である。
これによって墨だし作業の精度と効率化の向上がもたらされたと考えられる。
このように考えると、東洋でのみにいわゆる「墨壷文化圏」が形成され、西洋においてはついぞ「墨壷」は発明されなかったということになる。
これは、西洋合理主義も発明出来なかった東洋の大発明ではないだろうか？
すごいぞっ！
墨壷！
そして、この仮説を補強するのが前述した戸田の造船博物館の説明である。
繰り返しになるが、そこにこうある。
「大工道具の中でも、ロシア人が特に興味を示したのは墨壺でした。ロシア人はまっすぐな線を引くのに長い棒を用いていましたが、紐を引っ張ってぴんとはじくときれいな直線が引ける墨壺に大変感心したそうです」
ロシアでは“墨掛け道具”さえなかったというのだ！
(´艸`)くすくす
また、さらにもうひとつこの説を補強する事実が大森貝塚の発見で有名なアメリカ人のモースのコレクションにある。
参考
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【エドワード・S・モース】
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彼は日本の建築技術と大工道具に大変興味をもち、それをコレクションしており、その中に墨壷がある。
そして、モースは墨壷について日記にこう書いている。
「大工は木製の墨をひたした綿を入れておく容器と紐を巻き付けた輪からなる道具を持っている。紐を延ばしたり巻き込んだりすると、それが綿の中を通るようになっている。紐の先端には錐(きり)がついており、大工は紐を引き出し、錐を板にとめて、その紐をピンとはじいて板の上に墨の線をつける。わが国の大工は白墨の線をひくが、この日本の道具ははっきりとした、黒い、耐久性のある線をつけるので、わが国の大工もこれを使用したらよいだろう」
(石川欣一訳『日本その日その日』より)
参考
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【『日本その日その日』】
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いかがだろうか？
当時のアメリカにおいては当然ながら墨壷はなかった。
なぜならそもそも「墨」がないからである。
なのでチョークの粉で線を引くのである。
これである
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【アンティーク チョーク ライン】
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現在のアメリカでこの日本の墨壷に類する大工道具はこのようなチョーク・ライン・リールであるが、モースが、日本に来た当時は現在のような形にまで整っていなかったのではいかと推察される。
これまた東洋の「墨壷文化圏」の勝利である！
ちなみに、朝鮮半島にも当然ながら墨壷は存在している。
参考
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朝鮮古美術 李朝 古無垢 玉咥 木彫獅子墨壺
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このように墨壷とは、東アジアにおいて独自の発展を遂げた世界に誇るべき大工道具であることを理解してもらえただろうか？
(￣ー￣)ムフフ
それでは最後にこの墨壷に関わる「トリビア」をいくつか紹介して今日の随筆の筆を措きたいと思う。
以下である。
墨壷トリビア��
現在のプラスチック製のパーフェクト墨壷はタジマ(田島製作所)が1983年に20代の社員が開発した！
これにより伝統の形をした鶴亀墨壷は現在に至ってはほぼ駆逐され、特に木製の墨壷は最早骨董品か美術品、民芸品のカテゴリーへと追いやられてしまっている。
墨壷トリビア��
木製の墨壷を現在日本で作っているのは新潟県三条市内3か所だけ！
参考
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「なくなりゆく道具」との向き合い方
大工の三種の神器、墨つぼの終焉を見つめる
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墨壷トリビア��
「墨壷」とは女性の秘部を指す隠語である！
“姉こ木登り下から見れば、大工墨壷下げたよだ”
この民謡の歌詞は全国的にみられるようである。
参考
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天津「木遣り唄」を考えてみる
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この中の「粋なお色気を詠ったもの」にこの歌詞が紹介されている。
(￣ー￣)ムフフ
墨壷トリビア��
墨壷の糸の先についているカルコは「軽子」という悲劇の娘の名前である！(諸説あり)
むかしむかし、ある棟梁に“軽子”という名の利発な娘がおった。お屋敷の仕事をしているとき、弟子に寝込まれて墨打作業に困っている棟梁を見た軽子は、母が着物を縫う仕草・留針にヒントを得て「父さん、針を付ければいいのに」と教えた。
(中略)
棟梁は殿様からお褒め頂いたが、娘に教えられたことが発覚するのを恐れて軽子を殺してしまった。その霊を祀るため建前の儀式には鏡や紅白粉など化粧道具を入れるのだいう。これは気仙大工の伝説である。
墨壷トリビア��
日光東照宮には国宝の墨壷がある！
大工道具の中で唯一国宝に指定されているのが墨壷である。寛永11年（1634年）日光東照宮宮本殿の釿始め（起工式）の儀式に使われ、金メッキした銅板製で波と雲型模様の蒔絵、葵紋つきの絢爛豪華な尻割れ型のものがそれである。
参考
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大工道具三種の神器、墨壷
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墨壷についての“トリビア”はまだまだ尽きないがこのぐらいにしておこう。
いかがだっただろうか？
憲さんの“飯の種”墨壷がどれだけ偉大であるか理解していただけただろうか？
このように墨壷は東アジアにおいて独自の発展を遂げ、今や美術品にまで昇華された世界に誇るべき文物なのである！
なので、憲さんはこの世界に誇るべき“源氏鶴亀墨壷”を仕事を辞めるまで使い続けていこうと思う。
どーよっ！
どーなのよっ？
憲さん、木製の墨壷コレクターになろうかしら！
そのうち『お宝鑑定団』に出るよっ！
(￣ー￣)ムフフ
※参考文献
吉田良太著『―道具の文化史−墨壼の履歴書』
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『鋸・墨壺大全―ノコギリと墨壷の使いこなしを網羅した決定版』
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※以下、墨壷にまつわるサイトをいくつか紹介しておく。
鍛冶の技「墨壺」
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宮大工のよもやま話
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八郷の日々
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墨壺と清水組大工道具箱
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坪源と墨壺の歴史
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以上
(￣ー￣)ムフフ
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