夜道歩いて今夜、
しばし後ろより絹摺れの音が聞こえて来ました。
妖のいたずらであれば恐るに足りませぬが、
妖は皆大人しく、
既に今夜は寝入っていました。
憑きのものも気に掛けてくれてましたが、
「気配は有れど姿は無い」とのことでした。
昔、旅の道中わらじの妖と出くわしたとき、
「名乗れ」と問うたら「名は無い」と答えられました。
まだわたしに憑きのものが無い頃で、
道中妖がわたしを見守ってくれたのでした。
今夜は問うにも姿無く、
どうにも解せぬ限りでした。
家に着いて再びそれを思えば、
あれはいわゆる「虫」であったと気が付きました。
不吉に先立ち、
ときに虫が知らせてくれると、
聞いたことが有ります。
そう言えば今夜は道中幾度か、
煙りのにおいを確かめました。
もし現人の出刃に出合えば、
憑きのものの力は現世に及びませぬから、
わたしは己が力を以って、
出刃を排せねばなりません。
決して出来ぬことでは有りませんが、
出来ることなら出くわしたく無いものです。
わたしはいつもの道を変え、
早々家路に就きました。
・
ログインしてコメントを確認・投稿する