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2022年10月22日23:32

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『鎌倉殿の13人』第39回「穏やかな日々」

 冒頭、義時とすれ違った侍女が長澤まさみで、時政追放の後、小康状態を得た鎌倉の4年間を1日に凝縮してお伝えしますと口上を述べる。長澤まさみが本編に登場するのはありえる演出だったと思うけど、それと前回がトークスペシャルだったこと、長い期間をまとめて扱うと先に言及したことを考え合わせると、キャストやスタッフにコロナ陽性が出てスケジュールを維持できずに一回とばしたのかなあという気はする。
 とはいえ、別に駆け足でエピソードが詰めこまれた感じはなくて、たしかに派手な展開こそなかったものの、かなりいろんなことが煮詰まっていよいよクライマックスの近づいてきたことを実感する回だった。

 この時期、源実朝は天然痘にかかって回復したが顔にあばたが残ってしまった。自分が死んでいたら誰が次の鎌倉殿だったのかとさりげなく尋ねる実朝の淡白さも気を引くが、それにあっさり「公暁どのです」と答える北条義時の無神経さもちょっとすごい。
 ただし、実朝にとって甥である公暁はこの時点で養子にもなっていたし、頼朝の血を引く二人しかいない男子のもう一方だから、実は鎌倉殿にきわめて近い人物だったことにあらためて気づかされる。ある意味で、実朝にとってきわめて危険で脅威となる存在といえた。

 幼少のまま鎌倉殿になって病床から復帰しても、評定の実権は義時が握ったまま離さない。しかも、御家人が北条に刃向かう目を事前に摘んでおくため、一門のみを要職につけ、他家は排斥するので反発がかなり強まっているのだが、それをわかった上で強行しようとしている。時政はある意味で頼られると断れない性格が仇になったような描かれ方だったけれど、義時は明らかに権力を独占することで反対派を抑えこもうとしているから、政治ということについて明らかに自覚的で意図的といえる。

 ふだんから親しく付き合っている和田義盛から上総介をねだられ、断り切れなかった実朝が政子に諭されるのは当然として、義盛を呼び出して実朝へじかに頼みこむのはやめろと釘を刺した義時が、自分の郎党を御家人にしようとしたのは確かに理屈に合わない。
 当然、そこを実朝に指摘されるけれど、義時は不貞腐れて「じゃあもう執権もやめます。あとはご自由に」と捨て台詞を吐いて牽制する。ほぼ昔のヤクザのやり口なのだけれど、ここで力関係の圧倒的な優越を誇示するのは本当にわかりやすく悪役っぽくて、ついにここまできたのだなと感慨深い。
 その後に二人が息をあわせてすぐ茶番芝居に移行するあたりは、なかなかに実朝の役者ぶりも達者で、かならずしも義時が一方的に優勢ではないらしく、この後にまたいくつか波乱を挟みそうなのを予感させる。

 ちなみに郎党から御家人に引き上げられた鶴丸は平盛綱を名乗るけれど、これは内管領という得宗家の番犬のような存在になって、御家人と対立していく。2001年の大河ドラマ『北条時宗』で北村一輝が演じた平頼綱はその子孫だと思う。
 『北条時宗』は北村一輝が登場する前に見るのをやめてしまったけれど、今になってみれば時代的にちょうどこの『鎌倉殿の13人』と『太平記』の間をつなぐ作品なので、もったいなかった。当時は人物の描かれ方が類型的な気がして受け付けなかった。
 さらに『太平記』でフランキー堺が演じた長崎円喜と西岡徳馬が演じた長崎高資はその子孫になる。ぶっちゃけ、ずっと悪役の系譜である。新垣結衣じゃなくて八重が自分の命と引き換えに救った鶴丸と泰時の関係はさぞやうるわしいものかと思いきや、ちょっと生臭いまである代物なのだった。

 この鶴丸のエピソードの裏にまたちょっと別のストーリーが流れていて、見事に的を射貫いて喜び抱き合う泰時と鶴丸の様子を見る実朝の表情が妙に暗い。実はこの後、らしくなく鶴丸を御家人にする件に彼が感情的に反発するのも、このことを引きずっている。

春霞
龍田の山の
桜花
覚束なき世を
知る人のなさ

 この前に実朝が泰時に渡し返歌を期待したこの歌が、実は恋の歌だと後に判明する。そして、子どもができないことを妻に責められた実朝が「自分はどうしてもそういう気持ちになれない」と答えて、ゲイのカミングアウトをするのだった。つまり、本命は泰時なのである。いきなり、BL展開である。腐女子の方々は大喜びではなかろうか。というか、そういう人たちはどの時点でこのことをに気づいたのだろうか。ああいう人たちには独特のセンサーがあるらしいのだけど、三谷幸喜はいつからそれを匂わせていたのだろうか。
 近親者にも言えなかったことを妻に打ち明ける実朝と、それを受け入れる彼女の関係は、欲得づくのつながりばかり目につくこのドラマの中ではひときわ美しく見える。
 思えば、この回では実朝に本当に心を許せる人がいるのかという問いかけが幾度もあったけれど、それがようやく見つかった時でもあった。そして、同じことは兄で先代の鎌倉殿の頼家についてもいえたのだけど、彼の唯一の理解者も比企から嫁いできた妻だけだった。頼朝が流人だったから仕方ないとはいえ、心の許せる親族が少ない源家の心許なさが思いやられる。

 残念ながら、泰時に実朝の気持ちは通じない。通じないながらも返歌があれば、彼なりに納得したかもしれないけれど、「歌が間違っていませんか」と返される始末である。そこで代わりに渡したのが、この回の最初に引用された歌だった。

大海の
磯もとどろに
寄する波
破れ砕けて
裂けて散るかも

 厳しく激しい風景が詠まれている。破れかぶれ、ヤケクソとも思える。失恋のブチ切れソングであろう。

 それから、今回は泰時の異母弟の北条朝時も登場していた。彼が名越にあった時政の館を引き継いで、名越氏を名乗っていく。母はおそらく泰時の母より家格が高く、むしろ、自分たちこそが北条の嫡流という意識があって得宗家ともたびたび張り合ったらしいけれど、一度、完膚なきまでに叩きのめされてその後はおとなしくなったらしい。彼がちゃらんぽらんな遊び人で、どうやら女性問題をこじらせていて、これがまた後で事件につながってくる予兆はある。

 最後に和田と三浦が反北条の謀議をこらしていて、次回予告ではいよいよ表立った対立に発展するらしい。そこには巴御前の姿もある。木曾義仲が亡くなった後の巴についてはいくつかの言い伝えが残されていて、その中の一つには和田の妻になったというものがあって、このドラマではそれに沿っている。
 ふつう、その後のことはいっさい触れられないものだけど、ここでは和田といっしょにちょくちょくドラマに登場して、楽しそうに暮しているのでなによりと思っていたけど、だんだんのんびりとも見ていられなくなったのは、ずっと和田といっしょにいたならそのまま平穏ではすまないことに気づいたからだった。三谷幸喜の底意地の悪さをあらためて思い知りもした。

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