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2022年10月02日13:00

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『ちむどんどん』終わる

 『ちむどんどん』が終わった。ネットではあまりいい評判を聞かなかったけれど、あそこもけっこう偏ったところだし、見るとはなしに見てしまったテキストを読む限りでは、未熟な書き手にありがちなとにかく読み手を意識しすぎて妙にうがった極論へ走る傾向が強く、そちらもあまり感心しなかった。
 とはいえ、自分は楽しめたかといえばそうでもなく、ネット上のメジャーな論調とは別に自分には合わないドラマでもあった。

 ネットの指摘で自分も同感できるのは、エピソードのちぐはぐさである。第一週のラストに父親が過労で倒れてしまい、次週の冒頭で亡くなってしまう。もとから豊かではない一家はさらに困窮し、4人いる子どものうちの1人を引き取ってもいいという東京にいる遠縁の親戚の申し出を受けて、ヒロインが行くことになるのだけど、結局、彼女は送り出されたバスから降りて帰ってきてしまい、家族みんなで泣きながら抱き合って養子縁組をキャンセルしてしまう。
 つまり、ここでこれは家族の絆についてのドラマである、彼らにとって最も大切なものは家族である、ということが宣言されている。朝ドラなのだから、そんなことはわざわざ言わなくても自明のことなのだけど、そこは律儀なものである。そして、このエピソード自体は少なくとも近松門左衛門に似た話があるし、もっとたどれば旧約聖書ぐらいまで遡れるぐらい一般的なものでもある。

 ドラマにおいてなにに重きが置かれているかを描くにあたり、それと引き換えに失ったものの大きさを対比させることで、価値をわかりやすく見せるというのはよくある手法といえる。しかし、ここで養子縁組のキャンセルによって家族が負ったペナルティというのは明確でなく、これがネットでは「自分たちの都合でまわりをひっかきまわした挙句、損はすべてそちらにつけまわす最低な家族」ということになっていた。
 とはいえ、現状において、主人公たちが延々とペナルティの返済を迫られるようなシビアな状況の続くドラマが支持されるかは微妙なところで、実際には代償の大きさで価値を描く方法そのものが、実は朝ドラにそぐわなかったのかもしれない。

 また、ヒロインが東京に出てきたから務めたレストランの先輩は、急にライバル店に引き抜かれてシフトに穴をあけ、独立して失敗してからは店の権利書を盗み出すという無茶苦茶なことをしでかす。改心してオーナーに店へ招待されるも、かつての同僚たちの態度は冷たく、彼に出されたのはとても食べられないような干からびた肉だった。
 そんな仕返しをされながらも耐えたことで、彼の更生の意思は本物だと周囲が認める流れなのだけれど、にしても、食べ物に細工するのは悪質すぎてドン引きである。しかも、その店はヒロインが師と仰ぐオーナーのレストランで、ドラマの中では絶対的に正しいとされる存在なので、ドラマ全体の価値観の軸そのものが揺らぎかねないエピソードといえる。
 これなども、言わんとすることはわかるけれど、副作用が強烈すぎてそのままでは飲みこみずらくなってしまっている例である。

 最終週、沖縄に戻ったヒロインはここでもレストランを開くことにして、オープニングでは特産品を練りこんだ麺を提供することにする。ここで、ご当地の製麺業者が登場し、他のみんなにも賑々しく紹介されながら、寸前になって電話一本でやっぱり納入できませんと言ってくるのだった。
 この後、みんなで頑張って麺を手作りして間に合わせるサスペンスフルな展開になるけど、自分で作った障害に自ら突っこみながら必死に回避しているようなもので、そもそもなぜあの製麺業者を登場させたのかわからなくて白けたのだった。
 なにかしら登場させなくてはいけないしがらみとかあったのかもしれないけど、にしても嫌な出方で誰のための演出なのかよくわからなかった。

 というわけで、言わんとすることはわかるけれど、往々にして制作サイドがアピールしたいであろうこととは別のところが気になって、素直に受けとれないというケースが頻出していた。
 現在、世間における沖縄についてのイメージは『ちゅらさん』によるところが大きいと思う。同一のモチーフを扱うにあたって、差異化を図ろうとした痕跡も認められる。また、エピソードを長いスパンでつなげることで、放送期間が半年であることを活用しようともしていた。とはいえ、回ごとや週ごとのエピソードで視聴者の興味のひくことができたその先に、ロングスパンの鑑賞に話題が移ってくるわけで、ここでも送り手と受け手の間のずれが気になるのだった。

 見るきっかけになった、鶴見の沖縄人社会の描写はまあまあだったと思う。鶴見ロケとかはなかったけど。

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