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2022年09月14日06:10

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最近観た映画

 また、感想が全然追いつかない……とりあえず、出来た分から。

 まず、先週金曜、シネマジャック&ベティで、
 「時代革命」。
 
 これは、2019年の香港で起きた民主化を求める大規模デモの最前線を中心に、民主化運動の約180日を捉えたドキュメンタリー。
 監督は「十年」のキウィ・チョウ。他の制作スタッフの名は安全上の理由のため、明かされていない。

 2019年、香港の大規模な民主化運動の発端となったのは、犯罪容疑者の中国本土引き渡しを可能にする逃亡犯条例改正案が立法会に提出されたことだった。市民は「逃亡犯条例改正案の完全撤回」「普通選挙の導入」などを五大要求として掲げ、抗議デモ参加者は、香港の人口の約3割を占める約200万人に膨れ上がった。
 参加者の中心を占める若者らは「光復香港、時代革命」「香港人、加油」と声を上げる。中核となる組織やリーダー不在の運動だが、SNSを駆使し、機動的に統制されている実態も描かれる。
 その運動は大きなうねりを巻き起こして行くが……

 香港の民主化運動は、これまでも幾つか映像作品を観たが、当事者が最前線で撮影した本作はやはり生々しい。
 そして、心打つシーンも多い――2019年7月の立法会突入では、占拠を続けようとする強硬派に、穏健派の女子学生が「警察に検挙されるのは怖いけど、明日、あなたたちに会えなくなるのはもっと怖い」と説得して退去させるシーンや、逃げるデモ隊の殿を守り、警官隊を「子供たちを殴るな」と押し止める老人達の姿――200万人もの市民の、そうした互いを思いやる繋がり……それこそが自由な香港市民の真の姿であり、それを破壊しようとする香港行政府と、その背後にある中国共産党の残酷さに胸を抉られる。

 また、上空から見る、デモ隊が水のように警官隊から逃れていく様子や、自発的に構築された民主化活動組織など、興味深い描写も多い。

 映画は、民主化活動の最前線、正に力と力がぶつかる場を中心に、国家権力に倒され、踏みつけられても延々と抵抗する市民の姿を150分に渡って描き続ける。
 彼らは語る。
 「権威主義はいずれは破綻する。大事なのは国でも土地でもない、人だ」
 時代こそが、その正しさを証す――時代革命、そう信じる彼らには最早言葉がない。本作は出来るだけ多くの人に観て欲しい、と思う。


PS
 この映画、最早、香港では上映が許されない。それどころか、「時代革命」と口にする事さえ許されない状況で、未だ香港に留まるキウィ・チョウ監督……大丈夫なのだろうか?


 次は、翌土曜、これもシネマジャック&ベティで、
 「島守の塔」。
  
 これは、太平洋戦争末期、日本国土で唯一、住民を巻き込んだ地上戦となった沖縄戦を、県民の命を守ろうと尽力した沖縄県知事・島田叡と警察部長の荒井退造の2人に焦点を当てて描く戦争映画。
 監督は、「地雷を踏んだらサヨウナラ」「二宮金次郎」の五十嵐匠。島田知事を萩原聖人が、荒井警察部長を村上淳が演じる。

 太平洋戦争中の沖縄。戦火の迫る中、住民の疎開を進めていた荒井警察部長だったが、疎開船・対馬丸が米軍の攻撃に遭うなど思わぬ悲劇も生まれて、住民の避難は思うように進まない。
 そこへ、本土より兵庫県出身の知事・島田叡が赴任して来る。島田は内務官僚として、県民を守る為に職務を全うしようとするが、その一方で、島田は、県政の責任者として軍の命令を受け、鉄血勤皇隊やひめゆり学徒隊として多くの青少年を戦場へと向かわせていた。
 そんな十字架を背負う二人は、戦禍が一層激しくなる中、命がけで県民の疎開に力を尽くすが……

 沖縄戦は、岡本喜八監督の「沖縄決戦」など、多く映画になっているが、この映画の特色は、軍人ではなく文官を主人公としている事。その意味で、これは異色の視点に立っていると言えるだろう。
 戦うのではなく、どのように生きるかを描く物語は、沖縄戦を新たな切り口で描くものになり得るものではあるのだが、この映画、惜しむべきは予算規模があまりに小さい。それなのに、沖縄戦をその始まる前から終焉まで描こうとするが故に、却って薄っぺらで物足りないものになってしまっているのだ。現在の日本映画で、それをやるならアニメにする他はなく、そうでなければ、もっと焦点を絞って描くべきだろう。
 実際、死地に赴いて尚、ひとりでも多くの市民を救おうと葛藤する島田知事を、萩原聖人が巧みに演じているのだ。その島田知事と、知事付に任命された戦時下日本の偏った愛国心に固執する女性職員を対比させ、彼女が、お国の為に死ぬ事ではなく、未来の為に生きる事に転回するのをクライマックスにすれば、物語としては成立するように思うのだが……

 あと、気になったのは、これも予算の都合だろうか、ひめゆり学徒隊が勤務する野戦病院が、米軍のガス弾で全滅する描写……実際、窒息性の毒ガスは国際法で使用は禁止されており、米軍は非致死性の催涙ガスしか使っていない筈で、これはおかしい……洞穴陣地への攻撃であれば火炎放射が通常で、火だるまになる描写はスタントや特撮でも大事になるので、毒ガス攻撃としたのだろうが、こうした嘘は拙いと思う。
 勿論、映画はフィクションであり、そこに描かれるのが真実であるとは限らない……この映画でも、ラスト、島田知事と荒井警察部長が「野球をしよう」と壕を出るのは完全な創作だろう。(2人は行方不明となっており、最後を知る者はいない)
 それでも、本作を、沖縄戦を語り継ぐ、その一翼としたいのであれば、その史実を曲げてはいけないように思う。 
 
 さらに日曜、これまたシネマジャック&ベティで、
 「山歌」。
 
 これは、ドキュメンタリーなど製作していた映像作家・笹谷遼平の伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞受賞作を自ら映画化したもの。
 かつて日本の山に実在した戸籍も財産も持たない放浪の民・山窩(サンカ)をモチーフにした意欲作だ。
 主演は、「半世界」の杉田雷麟。ヒロインの小向なるは、野山を駆ける山窩の少女を演じるに当たり、トレイルランニングで鍛えて撮影に臨んだと言う。

 昭和40年。中学生の則夫は受験勉強に集中する為、山奥の祖母の家で夏休みを過ごす事になる。そこで則夫は、山から山へ渡り歩く生活をしているサンカの家族と出会う。
 高度経済成長只中の競争社会に生きづらさを抱えていた則夫は、自然と共生するサンカたちに惹かれていくが……

 この映画、山窩(サンカ)を描こうとする意欲は買えるし、実際、映画公開後、山を下りた山窩の子、と言う人から連絡があったそうで、昭和の時代ならギリギリ山窩が残存していた、と言うのにもリアリティはある。そんな消えゆく山窩と、古いものを捨てながら成長していた高度経済成長期の日本を対比させて描く、と言う内容に惹かれて劇場に足を運んだのだが、これはいささか残念な出来だ。
 確かに、限られた予算で、経験も少ない中、笹谷監督ら苦心して作り上げているのは判るが、内容が余りに中途半端だ。
 ドキュメンタリー作家にありがちな事だが、笹谷監督、映像を映せばよい、と思っている節があるが、それはノンフィクションだから許される事。フィクションならば、説得力を持たせる為の説明が必要なのだが、この映画、肝心の山窩について、ほとんど何も語らず、彼らに惹かれる則夫の心境もまた語られる事がない。確かに、渋川清彦は、相変わらずの巧みさで、その存在感にリアリティを出してはいるが、それだけ、と言うのも淋しい限りだ。

 物語の方もリアリティに欠けるので、入り込めないし、終盤の展開も独りよがりで、理解と感情移入を削ぐものだろう。
 シナリオ大賞受賞作とは言うものの、映画仕上がりは残念なものだったと思う。 
 
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