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2022年09月10日22:46

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『鎌倉殿の13人』第34回「理想の結婚」

 というわけで、比企を討ち頼家を押しこめて殺した北条時政はめでたく鎌倉幕府評定衆の首座におさまったのだけれど、これがどうもうまくない。賄賂をもらって裁決に手心を加えるなど、いささか執権としては好ましくない振る舞いが目立つのだった。
 思えば、いよいよ比企を討つという時に息子の義時から覚悟の念押しをされ、「わしにとって大切なものは三つある。伊豆の領地と妻のりくとおまえら息子と娘たちよ」と答えていて、いかにも頼りがいのある親父といった体だったけれど、それはいかにも地方の中小企業のワンマン社長の言い草であって、たとえば商工会議所の会頭のような業界の取りまとめができる人間の物言いではない。実を言えば、あの時点ですでに怪しかったのである。

 案の定というべきか、比企が滅んで空きができた武蔵に手を出そうとして、畠山重忠の反発を買ってしまう。重忠を武蔵の国主に任じようとするが、それは畠山家が累代に担ってきた官職から棚上げにしようとしていると勘ぐられてしまうのだった。しかも、それはどうやら図星らしい。畠山は時政の娘の婿で、比企との戦いでは頼もしい味方だった。それをわざわざ敵にまわしてしまうのは愚かとしかいいようがない。
 せめて反応が芳しくなかった時点でひっこめて和解の道を探ればよかったのだろうけれど、今度は頼朝挙兵の際に大庭景親方についた重忠が近親者を討った三浦義村を焚きつけ、味方に引き入れようとしている。わざわざ身内を分かつような真似をしてまで武蔵を手に入れようとする彼の真意はなんなのか、気になるところではある。

 北条と比企が対立したのは、ともに頼朝の外戚という関係からしても、避けられなかった部分はある。関東に地盤のない頼朝としては、北条と比企の均衡の上に自分の権力を据えるつもりだったのだろうけれど、当の本人がうっかり死んでしまった以上、当時の関東の雰囲気からしてもどちらかが他方を潰す以外に安定した状況を作りえなかったことは察せられる。
 しかし、その後、北条が抜きんでて強くなった後からは北条自身の判断次第でその後の抗争を収める術もあったはずで、やはり、まだまだ東国の武士団の政治的な未熟さということを考えずにはおられない。

 京からりくを妻に迎えた時政政権は中央志向も強い。婿の平賀朝雅を朝廷とのパイプ役として京に置いているし、時政とりくの間の息子の政範をさらに派遣している。
 ところが、朝廷は朝廷で鎌倉になんとか影響を及ぼそうと暗躍している。作中では朝廷が朝雅を取りこんで、政範を殺させていた。現実に鎌倉内部での抗争は、土着派と中央派の主導権争いという側面もあったのかもしれない。結果、土着派の義時が政権を掌握し、万策尽きた朝廷がいよいよ追討令を発して承久の乱へとなだれこんでいったようにも見える。
 余談ながら、『愚管抄』の著者である慈円が九条兼実の実弟だとは知らなかった。かなり権力と近いところにいた人ということになるので、距離をおいた第三者からの観察というよりは、実は当事者の動向を近くから眺めたドキュメントなのは意外だった。

 主人公の義時に関する動向でいえば、三度目の嫁とりがあった。作中で本人の言によれば、北条一強となった鎌倉の状況に応じ、実務派の文官たちが北条との伝手を求めて持ちこんできた縁談ということになる。実際、情勢としてはありそうな設定といえる。
 義時という人は評定を主導するというより、場所の準備や出席者のスケジュールのすり合わせといった、裏方仕事が多くそこから文官とのつながりが強かった印象がある。比奈と離縁して今度の婚姻という流れは、北条と比企の対立が決着し実務レベルのやりとりがクローズアップされてくるという鎌倉におけるメインストリームを反映したものともいえる。

 さて、その相手は菊地凛子演じるのえ。正直なところ、「新垣結衣、堀田真由ときて、菊地凛子かよ」と思わなかったといえばウソになる。菊地凛子といえば、最も印象に残っているのがドラマ『モテキ』の元ヤンのシングルマザーである。あれが最もしっくりくる。『ノルウェイの森』からの変わりようは未だに同一人物とは思えないほどだし、『パシフィック・リム』も欧米人の日本人女性観がさっぱりわからんと思いながら見ていた。
 しかし、菊地凛子は初登場にして義時の肩の枯葉をとったり、息子たちとあっさり打ち解けたり、「人生って一人だけで背負うのは重すぎるのじゃないかしら」と言ったりして(その割に三谷幸喜は離婚しているけれど/それゆえの台詞かもしれないにせよ)、着々とドラマ中に侵食してくるというか、地歩を固めてくるのである。決定的なのは、八重(新垣結衣)も比奈(堀田真由)も微妙な顔をしていたキノコを大喜びしているのだった。
「終盤は内ゲバが本格化して、家庭の事情はそんなに触れないだろうし、こんな感じですかねえ」
 というこちらがなんとなく自分に押しつけた納得はラスト数分で完全に裏切られる。なんとのえは、それまでのおとなしく慎ましい振る舞いがまったくの演技で、実はとんでもなく雑で粗暴な女だったのである。当然、キノコも本当は大嫌いだった。結局、このドラマにおけるキノコというのは、男が女に押しつける身勝手な理想のようなものなのだろう。

 そして、義時がのえについて義村ではなく八田知家に相談した作劇上の理由も明らかとなる。義村なら、のえの正体を見破ったはずだから、話が先に進まないのである。
 つまり、知家は女性経験が豊富そうに見えながら、女を見る目は義時とどっこいどっこいだということも露呈してしまったのだった。そう思って見返してみると、のえをめぐる二人のやや冗長とも思えたやりとりが、政権中枢に座すいい歳をしたおっさん同士の、しかし、内実としては童貞中学生の女についての妄想話からさして進歩してなさが趣深い。

 それから、最後の「鎌倉殿の13人紀行」ではその回のエピソードとゆかりのある史跡を紹介しつつ、少し補足的なコメントを付け加えるのが通例なのだけれど、今回は平賀朝雅についてがっつりネタバレしていて驚いた。

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