mixiユーザー(id:8729247)

2022年07月09日17:17

238 view

映画「エルヴィス」薬物中毒

前回に引き続き、中島らも「今夜、すべてのバーで」の引用。
本当は実際に読んでほしいんだが、すでに中古本しか存在しないし、
小説としてはあまりいい「でき」ではない。
ただし、薬物中毒についての記述には、さすがに迫ってくるものがある。
前も書いたと思うが、自分は大学で博士論文を書いているとき明らかにアル中だった。
気づいたときぞっとして、やめた。やめられてよかった。
この本を読んだのはずっと後になってからだが、ああそうだね、と思う。
特に最後のほうの「失うものはない」「不必要なのだ」のところ。

(以下引用)

何よりもこの記事(注;前回引用したエルヴィスの記事)に嫌悪を覚えるのは、読者の涙を誘うために、作者がプレスリーを何とか人間っぽくでっち上げようとしているところだ。悪妻と悪徳マネージャーとファンとマスコミに限りなく簒奪された孤独なヒーロー。なんという月並みな表現だろう。
「みじめな状態でいるよりは意識を失っているほうがマシ」
…か。
みじめな人間がすべてジャンキーになるのだったら、世界中にシラフの人間は一人もいなくなるだろう。同じ苦痛を引き受けて生きていても、中毒になる人間とならない人間がいる。幸か不幸か、何かの依存症になってしまった人間が、一番言うべきでないのが、プレスリーの台詞なのではないか。中毒におちいった原因を自分の中で分析するのはけっこうだが、”みじめだから中毒になりました”というのを他人さまに泣き言のように言ったって、それは通らない。”私のことをわかってくれ”という権利など、この世の誰にもないのだ。
おれは自分が中毒者であるだけに、プレスリーに同情はしない。もちろん自分に対しても同情やあわれみを持たない。さやか(注;酒に酔って轢死した親友、の妹)がおれに言ったように、”勝手に死ねばいい”のである。
同じジャンキーでも、湿けた甘えを自分から叩き出した人間には、さらさらした砂のような、あるいは白く輝く骨のような美しさがある。地上の肉を脱ぎ捨てた美しさ。たとえばウィリアム・バロウズがそうだ。
バロウズは四十代までの15年間、麻薬に浸りきった生活を送っていた。その期間に書いた名作『裸のランチ』など書いたことさえ覚えていないと告白している。
彼は、ジャンキー時代に自分の妻を誤って射殺している。夫婦でラリっていて、ドラッグがもたらす万能感の中で「ウィリアム・テルごっこ」をやったのだ。妻の頭の上にリンゴをのせ、それをバロウズはライフルで撃った。弾丸は妻の胸に命中した。
バロウズは、アメリカでも屈指の名家の出身だが、そうしてドラッグに関わる中で、失うべきものはすべて失った人間だと言っていい。それでも彼はプレスリーのような泣き言は一度として述べていない。どうして麻薬を常用するのか、という問いに対してバロウズは、
「それは麻薬以外のことに強い動機を持たないようにするためだ」
もしくは
「朝起きて、ヒゲを剃り、朝食を摂るためにそれが必要だからだ」
あるいは
「麻薬は一つの「生き方だからだ」
と答えている。
バロウズはとどの詰まり、「麻薬という生き方」と訣別し、四十代以降は中毒から立ち直っている。1960年に「エヴァーグリーン・レビュー」誌上で発表された文章、「剥離、ある病気に関する証言」を、おれはかつて連続飲酒のまっただ中で、反吐をつきながら読んだ。その乾いて美しい文章は、おれの胸を突き刺した。貫いた刃には「もどり」がついていて、まだ胸から抜けていない。
(注;以下はエヴァーグリーン・レビューからの引用)

私は十五年間常用者(アディクト)だった。ここで常用者というのはジャンク(これは阿片やデメロールからパルフィームにいたる合成化学薬品をすべて含む派生物を示す属名だが)の常用者を指している。ジャンクという語をわたしは多くの形のもの、すなわちモルヒネ、ヘロイン、ディローディット、ユーコダル、パンタポン、ディオコディット、ディオセーン、阿片、デメロール、ドロフィーネ、パルフィームを指して使ってきていた。私はジャンクを喫い、食べ、また血管、皮ふ、筋肉に注射してきたし、座薬として肛門に挿入してきた。注射といってもそれほどオーバーに受け取ることはない。嗅ごうが、喫おうが、食べようが、尻の穴に突っ込もうが結果は似たりよったりで、中毒になる。(略)
私は当時、タンジールの現地人居住区のアパートのワンルームで暮らしていて、一年間風呂に入らず着替えもせず、中毒の末期症状を呈している繊維質の木肌のような肉に1時間ごとに針を突き刺すときのほか、身に着けた衣服を脱いだことさえなかったのである。室内の整理はおろか、ほこりをぬぐったこともなかった。からのアンプル箱やごみ屑が天井まで積み上げられていた。光熱費を払わなかったために電気も水道もとうのむかしに止められていた。私は何ひとつしようとせず、ただひたすら靴のつま先を8時間ながめることしかできなかった。行動を起こすといえば、1時間ごとにジャンクの砂時計が流れ尽きたときだけだった。友人が訪れてきてー訪れそうな者はこの地には残っていなかったのでほとんど訪れてくることはなかったがー私の視野に入ってきてもぼんやりと座っているだけで、灰色のスクリーンはいつも空白でかすみ、彼が去っても気にならなかった。彼がよしんばその場で息を引き取っても彼のポケットをまさぐる機会を待って靴のつま先に視線を向けたまま座っていただろう。あなたもそうするのではなかろうか?なぜかといえば私はジャンクを充分持っていなかったからだー誰だってそうなのだ。(略)
ジャンキーは「寒さ」ー彼はそう呼んでいるがーがどうのこうのといつもぶつくさつぶやき、黒いコートの襟を立て、しぼんだ首根っこをぐいとつかむ…まさにこれがジャンクのどうしようもない状況だ。ジャンキーは体を温めたいとは思わない。「寒い、より寒い状態」を欲するーなんらいいことのない外部にではなく、内部に求めるのだ。背骨を水圧ジャッキのようにして無為に時を過ごす…彼の新陳代謝は絶対零度に近づく。末期の常用者は往々にして二か月以上糞便をたれることなく、腸全体はまったく固着したまま…そうだろう?だから例えばリンゴの芯抜器を使うとか外科手術を行わねば…。こういうのが「アイスハウス」での暮らしの有様なのだ。なぜうろついて時間を浪費する?
もう一人中に入れますよ、と悪魔はささやく。(略)
私はそんなテントの中に十五年いて、出て来た。入ったり、出たり、入ったり、出たりと、そして出て来た。(略)
世界のドラッグ常用者よ、団結せよ。われわれには、われわれの売人しか失うものはない。売人は不必要なのだ。
あなたがジャンクの道へ行き、よからぬ組織集団と交わる前にジャンクの道をじっくりと見下せ、見下すんだ…

7 4

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2022年07月>
日 月 火 水 木 金 土
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      

最近の日記

もっと見る