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2022年06月10日22:36

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ウクライナ戦争の軍事費は1ヶ月で尽きる(1)

対露経済制裁の効果を徹底検証:戦費負担で国庫はまもなく払底
あと1か月に賭けるプーチン、ハイパーインフレの危険性高まる
杉浦 敏広 2022/06/10 06:00

ロシア軍のウクライナ侵攻後の油価上昇

 ロシア軍は2022年2月24日、ウクライナに全面侵攻開始。ロシア軍侵攻後、油価は上昇しています。

 しかし、大幅上昇しているのはロシア(露)の代表的輸出原油ウラル原油以外の原油です。

 石油と原油は内容が異なります。しかしこの点を理解していないマスコミ報道が多いので、本稿では石油とは何か、ロシア産ウラル原油とは何か、油価とロシア産石油・ガス輸出の現状を考察したいと思います。

 地下数千メートルから採取される原油は鉱区別に性状・品質が異なるので、油価は異なります。

 比重で大別すると、重質油・中質油・軽質油になり、コンデンセート類(天然ガス液など)のように超軽質油(別名「天然ガソリン」)の品種も存在し、通常の原油より高値で取引されています。

 露ウラル原油は中質・サワー原油(硫黄分含有量1%以上)なので、軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)よりも安くなります。

 従来の値差は1バレル3〜4ドル程度でしたが、今では値差10倍以上になりました。

 直近の露ウラル原油と北海Brentの値差は1バレル41ドルになっており、これは露ウラル原油が世界市場で敬遠されていることを示しています(後述)。

 2022年のロシア国家予算案想定油価(ウラル原油)は1バレル62.2ドルですから、この油価を割るとロシア国庫財政問題が表面化するでしょう。

 仮に欧米諸国がロシア産石油・ガスの輸入を従来通り継続すれば、ロシア国庫には石油・ガス税収が入り続けることになります。

 しかし、欧米諸国はロシア産石油・天然ガスの全面禁輸を検討しており、欧州諸国は今年末までにロシア産石油輸入を9割削減する方針です。

 この構想が実現すれば、ロシア国庫に入る石油・ガス税収は激減します。

 この場合、ロシア軍が現在の大規模軍事作戦を継続すれば早晩国庫(貯蓄分)は払底し、あとはルーブル輪転機を回すことになるでしょう。

 その結果、ロシアではハイパーインフレが発生して、ロシア国民の不満が高まり、国内が流動化することも予見されます。

 ロシアの金・外貨準備高は約6000億ドルありますが、資産凍結されており、実際の流動性資産は2000億ドル程度と言われています。

 ロシア国民福祉基金資産残高も減少しており、早晩、戦費補填も困難になるでしょう。

 ウクライナ問題を巡り、最近は「対露経済制裁は余り効果がない」という見解が多いのですが、これは事実と異なります。

 実務の世界では、欧米による対露経済制裁は大いなる効果が出ています。

 もちろん、対露経済制裁措置強化が直ちにロシア軍の停戦・撤退をもたらすものではありませんが、ロシア経済に対してボディーブローのように効いています。

 ロシア大統領は毎年大統領年次教書を発表することになっていますが、2021年の年次教書は未発表です。

 毎年6月恒例の「国民との直接対話」も延期されました。健康問題が背景にあると推測されますが、実態は「国民との対話」どころではない深い事情があるのでしょう。

 6月12日の「ロシア国家主権宣言の日」の大統領演説内容も注目されます。付言すれば、よく誤解されるのですが、この日は「ロシア独立宣言日」ではありません。

 プーチン大統領の命運と今後のロシア経済を考える上での重要なポイントは油価です。

 結論を先に書きます。露ウラル原油の油価低迷はV.プーチン大統領失脚の引き金になり、旧ソ連邦崩壊と同様、ロシア連邦崩壊も視野に入ってくることでしょう。

第1部:石油と原油は同じ・異なる?
原油と石油製品と石油は異なる

 最初に、原油と石油と石油製品は内容が異なる点を明記したいと思います。

 日系マスコミ報道はこの点を理解していない報道が多く、大分混乱している様子です。また、ロシアを語る評論家も、この点を理解していない人が見受けられるます。

 石油と原油は異なる点を理解しないと欧米の対露禁油措置の実態が見えてきませんので、本稿では具体例を挙げて考察したいと思います。

 某TV番組は米国がロシア産石油禁輸措置を発表したとき、「アメリカはロシア産石油を3%輸入しています」と報じていました。

 別のTV番組の生放送では、「アメリカはロシア産原油を禁輸。アメリカが輸入している原油のうち、ロシア産原油シェアは8%です」と報じていました。

 両方とも間違いです。なぜ間違いなのか、どうしてこの様な間違いが生じるのか、理由は簡単です。

 それは石油と原油と石油製品が異なることを理解していないからです。

 原油と石油製品と石油は異なる概念で、内容が異なります。原油は英語で「crude oil 」、石油製品は「oil products」、石油は「petroleum」で、石油は(原油+石油製品)になります。

 原油をトッパ―(常圧蒸留装置)にかけて精製すると、石油製品が産出されます。石油製品の主要品目はガソリン・軽油・重油に大別されます。

 ロシア産原油の代表油種はウラル原油、ロシア産石油製品の主要輸出品種は重油と軽油です。

 米国は2019年からロシア産原油(ウラル原油)と重油の輸入を拡大しました。これは、従来輸入していたベネズエラ産重質油の代替油です。

 米国が輸入しているロシア産石油製品のほぼ全量が重油で、米国が輸入している重油の6割以上がロシア産重油になっています。

 この点は米EIA(エネルギー情報局)の統計資料で検証可能です(後述)。

ロシア産原油と石油製品の輸出関税は異なる

 最近TVで、「ロシアは石油・ガスを輸出して、十分な収入がある。ロシアの石油・ガス収入はむしろ増えている。ゆえに、戦費の問題もない」と発言している評論家がいたので、筆者は驚きました。

 ロシアの政治家もそのような趣旨で発言していますが、これはプロパガンダの類です。

 ロシアの石油・ガス輸出収入とは輸出金額であり、輸出企業に入る売上金です。国庫税収ではありません。

 石油・ガス輸出金額に占める輸出関税は、原油・石油製品・天然ガスにより異なります。

 原油輸出関税は毎月異なります。石油製品輸出関税も毎月異なりますが、油種により細かく規定されています。

 天然ガス輸出に関しては、パイプライン(P/L)ガス(気体)輸出の場合、FOB輸出金額の30%、LNG輸出関税はゼロです。

 ですから、ロシアがLNGを輸出しても、国庫には輸出関税は入りません。

 原油輸出関税は、油価(露ウラル原油)の前々月15日〜前月14日までのウラル原油の平均輸出油価($/bbl)から算出されます。
(中略)
 ロシアが原油を輸出して国庫に入る関税収入は今月6月の場合、原油百万トン輸出に対し、44.8百万ドルです。LNGをどれだけ輸出しても、LNG輸出関税収入はゼロです。

 今年7月度の露原油輸出関税は、5月15日〜6月14日のウラル原油平均油価から算出され、6月15日に発表される予定です。

第2部:ロシア国家予算案
2022年ロシア国家予算案概観

 次に、2022年のロシア国家予算案を概観します。予算規模が意外に小さいことに驚かれるかもしれません。

 V.プーチン大統領が2021年12月7日に署名・発効したロシアの2022年国家予算案概要は以下の通りにて、政府想定油価(ウラル原油)は1バレル62.2ドル、国防費は3.51兆ルーブルです。

 予算案想定為替レートは1ドル=72.1ルーブルなので、ドル換算すると国防費は約480億ドルになります。

ロシア国家予算案と石油ガス税収概観

 ロシア財務省は国庫歳入に占める石油ガス税収を発表しています。
(中略)
油価と政府歳入に強い正の相関関係があることがお分かりいただけると思います。

 ただし、逆もまた真なり。油価下落はロシアの国庫と経済に大きな打撃を与えることになります。

 ソ連邦が崩壊した背景も、1985年から続いた油価下落・低迷でした。ですから、油価下落・低迷はロシアのV.プーチン大統領にとり悪夢となります。

ロシア国家予算案と戦費概観

 欧米の対露経済制裁は効果を発揮しています。これが何を意味するのかと申せば、ロシアの戦費も早晩払底することになるでしょう。

 ロシアの2022年国家予算案の国防費は3.51兆ルーブルです。ロシア軍の戦費は早晩枯渇して、戦費を補填すべくルーブル輪転機を回せば、露経済はハイパーインフレになると予測します。

 ロシアにとり最大の武器は油価高騰にて、露経済は油価依存型経済構造です。

 油価が高くなれば露国庫財政は潤い、油価が低迷すれば露国庫財政は逼迫して、露経済は縮小再生産の悪魔のサイクルに入ります。

 油価低迷が続いた結果、ソ連邦は崩壊しました。油価低迷が続けば、ロシア連邦崩壊の可能性もゼロではありません。

 もちろん、その前にプーチン失脚は不可避となりましょう。

 ここで注目すべきは、露油価(ウラル原油)の大幅下落と北海Brentとの値差拡大です。

 今年2月下旬から値差は拡大しました。すなわち、ロシア軍のウクライナ侵攻後、ウラル油価と北海Brent(米WTI)との油価が大幅に拡大。

 これは、露ウラル原油が世界の石油市場で敬遠されていることを意味します。

 露ウラル原油は中質・サワー原油(硫黄分1%以上)、BrentやWTIは軽質・スウィート原油(同0.5%以下)なので値差あって当然ですが、通常は1バレル3〜4ドル程度です。

 ところが、今ではその10倍以上に値差が拡大しています。

 今年の露国家予算案想定油価は$62.2ですから、油価(ウラル原油)がこの水準以下になると、露国家予算歳入案は期首想定案よりも減少することになります。

 国家予算が赤字になると露国民福祉基金から赤字補填されることになりますが、その国民福祉基金資産残高が昨年11月以降、毎月減少しています。

 2021年の国家予算案想定油価は$45.3に対し実績は$69.0ですから、本来ならば増えるはずの基金残高が減少しています。

 筆者はこの基金が戦費に流用されているのではないかと推測していましたが、そのとおりでした。

 最近、英米筋の情報として露軍費が報じられるようになり、すぐにでも戦費が払底するかのごとき報道がTVで流れています。

 しかし、この種の報道では一つの共通した間違いがあるように思えます。

 これはソ連邦の時代にもあったことですが、米CIA(中央情報局)はソ連軍の戦費を計算しました。

 この時の計算根拠は欧米軍費でした。

 すなわち、ソ連軍戦費と現在のロシア軍想定戦費の共通した間違いは、欧米の軍隊費用に基づきソ連軍・ロシア軍の軍費を計算していることだと思います。

 しかし、ロシア軍の将兵の給与はルーブルです。ある意味、紙きれであり、輪転機を回せばルーブル札が出てきます。

 ですから、ロシア軍将兵の給与をドル換算して軍費を計算しても無意味です。

 外国から輸入する兵器や部品はドル建てですから外貨が必要ですが、国内軍需産業が製造する国産兵器はルーブル建て・ルーブル払いです。

 上記より、実際のロシア軍戦費は米英が計算する数字より大幅に少なくなります。

 開戦当初、1日のロシア軍戦費は150億ドルと報じられました。しかしそれは、「欧米の軍隊がこの規模で動員されて戦闘すれば、1日150億ドル程度必要になるだろう」いう意味と理解すべきです。

 ロシア軍は緒戦では在庫兵器・弾薬を使用しているので、在庫減少が現在の姿と推測します。

 換言すれば、新規に戦費が必要になったわけではなく、倉庫保管在庫が減少している段階と思料します。

 当方の推測に過ぎませんが、恐らくロシア軍が実際に現金支払いとして必要な戦費はこの10分の1程度ではないでしょうか。

 この場合、1か月の必要戦費は450億ドル程度になります。

 ちなみに、露国民福祉基金資産残高は昨年11月1日(1978億ドル)から今年3月1日(1548億ドル)まで430億ドルも減少しました。

 本来ならば油価上昇により国民福祉基金資産残高は増えるはずですから、往復で1000億ドル程度減少したとも考えられます。

 金・外貨準備鷹は6000億ドルありますが、経済制裁で凍結されており、実際に使える資金は2000億ドル程度とも言われています。

 この仮定が正しければ、ロシア軍が戦闘できる期間はあと1か月程度となり、プーチン大統領としては早急に何らかの勝利宣言をして、停戦・終戦としたいはず。

 さもなくば、国内情勢が流動化して、本人の失脚もあり得るでしょう。

 換言すれば、今後1か月間の戦闘はますます激化することが予見されます。

 ロシア軍戦費に影響を与える最大の要因は油価です。6月30日には次回OPEC+原油協調減産会議が予定されており、この会議の行方が注目されます(後述)。

第3部:油価動静とウラル原油
 本稿では、2021年1月から22年5月末までの油価動静を概観します。

 現在の世界最大の産油国・産ガス国は米国であり、米国は石油(原油+石油製品)とガスの純輸出国です。

 米国は2018年から天然ガスの純輸出国に、2020年から石油の純輸出国になりました。 

 原油の性状(比重や硫黄分含有量など)は採取される油田鉱区毎に異なり、油価に反映されます。

 ロシアの代表的油種ウラル原油は西シベリア産軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)とヴォルガ流域の重質・サワー原油(同1%以上)のブレント原油で、中質・サワー原油(同1.5%程度)です。

 英語ではURALsと複数形のsが付きます。

 露ウラル原油の輸出ブランド名は「REBCO(Russian Export Blend Crude Oil)」で、2006年10月にNYMEX(ニューヨーク・マーカンタイル取引所)に登録されました。

 一方、日本が輸入しているロシア産原油は「S-1ソーコル(鷹)」原油・「S-2サハリンブレンド」「ESPO」原油は軽質・スウィート原油で、日本はウラル原油を輸入しておりません。

露ウラル原油・北海ブレント・米WTI

週間油価推移概観 (US$ / bbl)

 2022年2月24日のロシア軍のウクライナ全面侵攻を受け急騰した油価は、その後急落。5月30〜6月3日の週間平均油価は北海ブレント$124.11/bbl(前週比+$6.45/スポット価格)、米WTI $116.37(同+$2.99)、露ウラル原油(露黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)$83.35(同+$3.95)となりました。

 北海ブレントと露ウラル原油の価格差はロシア軍のウクライナ侵攻前の1バレル3〜4ドルから10倍以上の41ドルに拡大。露ウラル原油はバナナの叩き売り状態となりました。

 これは露ウラル原油が欧米市場から敬遠されていることを意味示します。

 この安くなったウラル原油を積極的に買い増ししているのがインドにて、中国も買い増しを検討している模様です。

 ただし、ウラル原油はサワー原油のため、製油所脱硫装置の能力が隘路になります。しかし、転売目的で購入している可能性も否定できません。

ウラル原油と北海ブレントの価格差拡大

 露ウラル原油は経済制裁の影響を受け、北海ブレントと露ウラル原油の値差は2月24日のロシア軍のウクライナ全面侵攻以前は1バレル約3〜4ドルでしたが、上記グラフのとおり現在では値差10倍以上になっています。

 すなわち、油価上昇で最も恩恵を受けているのは露ウラル原油以外の原油ということになります。

 ロシアの主要輸出原油はウラル原油(中質・サワー原油)ですが、ウラル原油以外にESPO原油やS-1ソーコル原油、S-2サハリンブレンドも輸出されており、この3種類の原油は軽質・スウィート原油です。

 ロシアのラブロフ外相は「石油・ガスの利益は大きいので、制裁の影響はない」と述べていますが、これは単なる詭弁にすぎません。

 2022年1〜4月度のウラル原油平均油価は$84.68です。露財務省速報値によれば同期間の石油・ガス税収は49%になり、実態は上記グラフの通り、露国庫税収は油価に依存していることが再確認されたにすぎません。

 ラブロフ外相が言う「欧米がダメなら、他の市場があるさ」のような状況ではありません。

 既に、欧米向け石油(原油と石油製品)や露の欧州向け天然ガス輸出は減少開始。今後、影響は徐々に表面化するでしょう。
(続く)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/70496
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