まず吉野の山奥で静御前(石橋静河)を保護したのは金峰山の執事でした。このへんが大河ドラマではうやむやになっています。最終的に京の北条時政(坂東彌十郎)のところへ連れていかれるのですが、。静は義経(菅田将暉)と別れるとき、雑色(ぞうしき.下人)を供に付けられ、当分暮らしに困らないだけの金を渡されたのですが、こともあろうにこの雑色たちはその金を奪い、静をほっぽりだして逃走してしまったのです。そして困っているところを保護されたのでした。ちなみに私は歌舞伎の世界で坂東彌十郎が北条時政を演じてくれないものか、とやきもきしましたが、なんとすでに演じているのだそうです。
一方の義経のほうはどうしていたかと言うと、まず京の周辺の寺社に匿われていたようです。そのあたり、『吾妻鑑』には記載されていませんが。義経は彼らに人気がありました。と言うのも、義経は配下の軍勢に寺社で略奪などしないように、厳しく申し付けていたからです。木曽義仲(青木崇高)の二の舞は避けたのでした。『吾妻鑑』では表れた足取りは伊勢、そして美濃への逃走です。しかしその後の行方は知れていません。想像するに、関東を避けて北陸から平泉を目指したのではないでしょうか。この北陸経由の逃走劇は後世に脚色され、能の『愛宕』や『勧進帳』といった作品に結実されました。どちらも武蔵坊弁慶(佳久創)が大活躍する物語です。
この弁慶の実在性が疑わしいとされますが、じつは『吾妻鑑』には二カ所出てきていることからすると、やはり実在はしていたのでしょう。『義経記』では熊野別当の子で、紀伊国出身だと言われています。こちらであまりに超人的に描いているので存在も疑われることになってしまったのです。
鎌倉に引き出された静御前ですが、舞を所望(しょもう)されます。最初は気が進みませんでしたが、やがて応じます。大河ドラマでははじめは本物かどうか疑われるほど稚拙に舞うも、やがて自分で口ずさみながら見事な舞を披露します。「♪しずやしず しずのおだまき 繰り返し むかしを今になすよしもがな」。頼朝(大泉洋)への反発もあり、あろうことか義経恋唄を唄い上げたことに『吾妻鑑』では頼朝が怒ったと記されていますが、大河ドラマではそれほどでもないようでした。静御前が見せた毅然とした態度と、これを受けとめた政子(小池栄子)の心が、人々を感動させ後世にまで語り継がれる事となったのです。やがて静は身ごもっていた義経の子を産みますが、男の子だったので殺されてしまいました。静は解き放たれ、行方不明となりました。
この静の舞に際して、畠山重忠(中川大志)が音曲をたしなんでいるということで、立ち会わされましたが、その時、同じく伴奏を命じられた三浦義村 (山本耕史）が「決まってるだろ。静御前を間近で見たいからよ。(銅拍子などは)適当に叩いていればいいんだろ」と言い放ったのに対し、「音曲を侮るな！（ため息）私がこの域に達するまで、どれだけの年数がかかったとお思いか」と怒りを露わにしました。畠山重忠は大河ドラマの主人公にしたいくらい文武両道に優れた武将です。残念ながら頼朝死後に彼は退場する羽目になってしまいます。
義経を匿っていた奥州藤原氏ですが、秀衡(田中泯)の死後、遺された息子たちの思惑や感情はさまざまでした。長男の国衛(平山祐介)は義経に心を寄せていました。だから鎌倉と一戦を交えてもよいくらいの気持ちでした。一方、嫡男の泰衡(山本浩司)は冷静で大局的なものの見方ができる人でした。平泉の将来と義経の命を天秤にかけました。ただ、彼にしても頼朝の執念までは思い至らなかったのですが。そうして義経は自決させられました。もちろんその直前まで北条義時が義経の館にいたというのもフィクションです。弁慶も立ち往生までは描かれませんでしたが、義経の実況だけにせよ、大活躍したとされました。
それから新垣結衣演ずる八重ですが、名前そのものは創作です。しかしモデルはいます。義時の最初の妻で阿波局。三浦義村(山本耕史)がドラマでは八重の入水の際にいたというのは、義時の妻を救えなかったという罪悪感から義時と行動を共にしたという動機づけになっています。八重が15人も孤児を引き取っていたのは、千鶴丸という子どもを失っているからもうこれ以上子どもたちを失いたくないと解釈していると、新垣結衣はインタビューで語っています。孤児を助けるために溺死したというのは、ドラマの次回から義時の正妻となる比奈(堀田真由)という女性が登場するからでしょう。つくづく哀れな女性です。
あ、それから初めの頃の放送で義経が片手逆立ちで馬に乗っていたシーンがあったそうですが、それはスタント(吹き替え)なしだそうです。そのため菅田将暉は一年かけて特訓を積んだのだそうです。
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