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2022年05月27日03:35

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『しろばんば』と『次郎物語』

 伊藤整や北杜夫や辻邦生などに出会う前に読んでいた日本の小説ではこの二作品が思い出深いものでした。とくに『しろばんば』の主人公の洪作がおぬい婆さんに「洪ちゃ、洪ちゃ」と甘やかされるダメダメぶりがとてもうらやましかったです。自分の母は5歳くらいまでは甘やかし放題だったのに、それ以降はやたらと邪険なのに干渉っぷりがすごかったのでそう思ったのでしょう。作者・井上靖の伊豆・湯ヶ島の描写も田舎を持たない身としてこれもうらやましかったものです。だいぶ大人になってから続編の『夏草冬濤』『北の海』も読みましたが、前者の文学に熱中するあまりにどんどん成績が落ちていくという設定に心ひかれました。現実では許されないことが小説だからこそ可能だったのですが。後者で高専柔道の寝技に熱中するところは体育会系とはほど遠い自分には疎外感でいっぱいになりました。文学作品の効用のひとつとして自分をそこに投影できるということが今になってもつくづく実感させられます。戦前の旧制中学の学生生活には、北杜夫のエッセイとともに強く影響を受けました。だから入学した私立高校の受験と偏差値を説く以外にまったく人間的教養が欠如していた教師たちには違和感がいっぱいになったものです。

 『次郎物語』。こちらは下村湖人による作品。教科書などで取り上げられるのは第一部がもっぱらでしたが、五部までありました。第二部以降は教養小説のカラーが大きく、かなりの影響を受けました。次郎の旧制中学は自由な気風で、交流のある中学がとにかく統制を重視した軍国主義的な校風だったので、自分はやはりサラリーマンのような組織には向かないなと思っていました。それが20年以上も勤め人生活をすることになるとは…。
 井上康とは違って下村湖人については系統的に他の作品には手を出しておりません。著作には『佐藤信淵』のような江戸期の思想家についてのものもありますのでこれくらいは読んでみたかったのですが、今は絶版になっているようです。残念。

 これらの二作品の幼少期を描いた部粉では家庭環境をめぐっての複雑さなど共通した部粉もあったので読み比べなどしたものです。
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