グレート小鹿

　全日本プロレスに去来したレスラーシリーズ。

　本来の読みは「こじか」ではなく「こしか」。各界から転向して日本プロレスに入門。相撲組としてはアンコ型ではありません。若手時代は小鹿雷三。1967年に大熊元司とともに米国遠征。テネシーで同地区版のNWA世界タッグ王座を奪取。大熊と別れてからはシングルプレイヤーに。LAでは絶対的スターだったミル・マスカラスと抗争を繰り広げました。これを金網デスマッチで破り、NWAアメリカス・ヘビー級王座に君臨。この時期に知り合ったアブドーラ・ザ・ブッチャーに日本行きを決断させたのも小鹿なのだそうです。
　1970年に帰国するも、メインエベントには登場すれどもアメリカと違って中堅扱い。ただし極悪殺法だけは健在でした。やがて馬場・猪木・坂口らスター選手のいなくなった日本プロレスでは運営面も含めて現場を取り仕切っていたようです。日プロ乗っ取りを画策したとされる猪木とはアメリカでこんな会話をしていました。
「1970年、5月だったかな。猪木さんとロサンゼルスのリトルトーキョーで夜8時から翌朝5時までずっと飲んでいた。トイレに行くのが面倒くさいから、オレの車を背にして2人で立ちションして。『小鹿、お前早く帰ってこいよ』って。そのくらい猪木さんと気が合ったんですよ。『日本プロレスは大の男がこれだけいて、ビルのひとつも持っていない。だれかがポッポ（懐）に入れちゃっているか、使っているんだろう。会社を改革しよう』って。オレも賛成しているんですよ。金井克子、岸ユキ、由美かおるがいた西野バレエ団は、女の子たちだけで青山通りにビルを持っていた。そんなふうに日プロの改革の話で盛り上がった。あの話がその通りに進んでいたら、日本のプロレスは違ったものになっていただろうね」
　しかし猪木が行動に移すと小鹿は決別。ミツ・平井などと共に猪木排斥の急先鋒として日本刀まで帯びていました。
　後年、小鹿はニチプロについてこう振り返っています。
「裏で絵を描いている人間がいるんですよ。猪木さんも少しは悪いのかもしれないけど、周りにだまされていたんだろうね。猪木さんは真面目で麻雀もやらない。吉村道明、ジャイアント馬場、芳の里、九州男児（坂口征二）は巡業先で麻雀をやっていたなあ。猪木さんはそばにいた参謀というか、人間が悪すぎたんだろうね。それも猪木さんの人柄なのかな。ロサンゼルスで話したことをそのまま行動に移して改革が順調に進んだら、日本のプロレスは変わっただろうね。世の中ってこんなものかなと思う部分もあるけれど、残念だった。あれは心残りだよね」
　その小鹿は末期の日プロで1973年3月3日に松岡巌鉄と組んでアジアタッグ王座を獲得するも、団体崩壊によりこの王座は一度封印されました。
　その後は大木金太郎や高千穂明久らとともに全日本プロレスに合流。気を見るに敏な彼は馬場の懐刀としてボディーガード役を買ってでることになります。また一時期は運転手も務めていました。ここで大熊元司とも再開しました。
　1973年、テキサス州アマリロ地区へ再度遠征。日本での中堅以下の扱いが嘘のようにヒールとして大活躍。テリー・ファンクからNWAウエスタン・ステーツ・ヘビー級王座を奪取するなど、カン・フー・リーの名で極悪殺法が大爆発。ダラス地区ではグレート・カンフーと改名。典型的なアメリカ向けのレスラーでした。
　帰国後は大熊とのコンビを再結成して、「極道コンビ」としてアジアタッグ選手権王者に復帰して中堅戦線でそれなりの活躍をしていました。やがて引退するも、勧告してきたのが社長である馬場自身からではなく、元子夫人からだったことを「いつもそうなんだよな。汚いことはみんなヒトにやらせるんだからさ」とボヤいていました。
　故郷の函館に帰って別の仕事に就きながらプロモーター業をしていたところに、天龍源一郎から乞われてSWS(メガネスーパー)の営業部長に就任しました。これで馬場の死後のお別れの会に出席したことを別にすれば全日本との縁は切れました。
　その後、横浜に大日本プロレスを設立するとともに現役にも復帰。『料理の鉄人』や『ゴルゴ13』などのコスプレをして一部から注目を集めました。同団体と新日本プロレスの対抗戦が行われるとマサ斎藤と対戦しました(負け)。プロレス以外にも飲食店を経営するなど事業へも意欲を見せています。
　昭和プロレスやプロレスリングFREEDOMS、DDT、新潟プロレスなどのリングにも上がり、80歳にしてなお現役の日本人最長記録のレスラーです。