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2022年05月04日14:01

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「戦争は女の顔をしていない」その10

「あれは私じゃないわ」の章

歩兵中隊(衛生指導員)
「母は私がいっしょに疎開することを望んでいました。
私が前線に行きたがっていることを知っていたんです。
私たちの荷物を積んだ荷馬車に私を紐でつないだ、でもほどいて逃げてしまいました。
どこへ行ったらいいのかわからない。
途中で女の子の一団に会って「近くにお母さんがいるからおいでよ」と言ってくれた。
夜中に家について扉をたたいたらその子のお母さんがあけてくれた。
ぼろぼろの服で薄汚くなっている私たちを見て「そこで待っていなさい」と命じました。
大きな鉄鍋をもってきて私たちの服を洗い、私たちは灰で頭を洗いました。
それからペチカの上によじのぼってぐっすり眠りました。
野菜スープとジャガイモの入ったふすまのパン、どんなにおいしかったことか。
5日目になってそのお母さんがこういいました「出発しなさい」。
夜中に私たちを起こして食べ物の包みを渡して、一人ずつ抱きしめて言ったんです。」
「長いこと汽車に揺られて軍病院に落ち着いたんです。
長い飢餓状態のあとで病院はよかった、すっかり太ってしまったほど。
16歳になったとき、他の看護婦や医者たちのように献血してよいと言われました。
私はいつも500ミリずつ取られました。500ずつ、月2回。
献血者には手当に食料がもらえました。エネルギーを取り戻すために。
砂糖1キロ、ひきわり麦1キロ、サラミソーセージ1キロ。
仲良しのおばさんのこどもが食料配給券をなくしてしまったとき、あげました。」
「あるとき医者が「君の血を輸血された人が来るかもしれない」と言って
瓶に私の住所を書いたメモをつけておきました。
2か月後くらいにたたき起こされて「兄弟が面会に来ている」と言われました。
私には兄弟なんかいないのに。ハンサムな若い中尉が待っていました。
「私はあんたに血をもらった兄弟だ」と言ってリンゴとチョコレートをくれました。
本当においしかった。「兄が来ました」と外出許可をもらって劇場に行きました。」
「一か月後、手紙が来ました。
あなたの友、機関銃中隊長は勇敢な戦死をとげました、って。
彼は孤児院育ちで、もっていた唯一の住所がわたしのものでした。
私はどうしても前線に出て復讐をしたかった。私の血が流されたのだから。」
「戦闘は激しいものでした。白兵戦です…これは本当に恐ろしい…
殴りつけ、銃剣を腹や目に突き刺し、喉元をつかみあって首を絞める。
頭蓋骨にひびが入るのが聞こえる、割れるのが。」
「砲弾が火薬庫に命中して、火がぱっと燃えあがったんです。
火薬庫の警備をしていた兵士がそばに立っていた。その兵士が燃え上がった。
黒い肉切れがその場で跳ねているんです。誰もその場を動かなかった。ぼうぜんとして。
私はシーツをひっつかんで駆けつけるとその兵士の上に覆いかぶさって伏せた。
地面に押し付けたの、土は冷たかったから。
その兵士はピクピクしていましたが、心臓が破裂して、静かになりました…」
「その日私は負傷者とその兵器をいっしょに運んでいました。
最後に残っていた負傷兵は手を撃ち抜かれて血管でぶらぶら下がっているだけ。
すぐにでも手を切断して包帯を巻いておかなければならない。
でも私はナイフもハサミももっていなくて、自分の歯でその人の肉をかみ切りました。」
「戦争から戻ってきて私は重い病気になりました。あちこちの病院を回り、
ついに年老いた教授のもとにたどり着きました。その人が説明してくれた。
あなたは16歳で前線に出た、まだまだ若くて身体がひどいトラウマを受けてしまった。
結婚してできるだけたくさん子供を持つことだ。
子供をひとり産むたびに回復していく。」
「結婚はしました。そして5人の息子を産んで育て上げた。
私が一番驚いたのは、すさまじい経験をしたあとでかわいい子供たちを産めたこと。
そしてよいお母さんに、よいおばあちゃんになれたことです。」
「今、すべてを思い返して、あれは自分じゃなかった、
誰か他の女の子だったんだという気がします。」

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