鎌倉幕府創立期の内部抗争については永井路子の小説をいくらか読んでいて、いずれもおもしろかったので、もっとこの時代を取り上げてほしいと思っていた。2022年の大河ドラマが三谷幸喜脚本で扱うというので初回放送を録画してやっとこさ見たけど、期待にたがわない出来映えで、今年一年を通して大いに楽しませてもらえそうだった。
なんとなく三代将軍実朝が亡くなってから始まるのかと思いこんでいて、それなのに木曽義仲や源義経の配役が発表されていたのが謎だったけど、初回の時期はふつうに頼朝の挙兵前だった。特に歴史上の大事件ではないながら、そこにつながる史実を題材として、一族のごたごたを取り上げることで、登場人物たちの位置づけや関係性を説明していく手際はいかにも三谷幸喜らしかった。
山本耕史演じる三浦義村は北条家の懐具合にも気を配りつつ、しかし、時勢を大きく見据えてしたたかに保身を図る冷徹な戦略家といったところだろうか。ちょっとネタバレになってしまうけど、鎌倉幕府の主導権をめぐる抗争で最終的に生き残って北条義時と対峙するのがこの人だったりする。実朝暗殺の黒幕とされることもあるが、承久の変で後鳥羽上皇が義時を名指しして鎌倉御家人の対立に乗じようとした際、あくまで御家人同士の団結を重んじて追討の宣旨を義時に手渡してもいる。主人公とは、時に盟友として助け合い、時にライバルとして競い合い、最終的には対立して雌雄を決することになる、物語の一方の軸になる存在だと思う。それだけに、山本耕史というキャスティングも納得といえる。
『真田丸』は見なかったけど、そこでも石田三成としてキーパーソンだったらしい。というか、そもそも『新選組!』で土方歳三だったのだから、三谷大河における切り札といっていい存在だと思う。
伊東祐親を演じるのは浅野和之という俳優さん。かつて三谷幸喜が脚本を担当する鹿賀丈史と市村正親の二人芝居の企画があったのだけど、鹿賀丈史が降板して代わりを務めたのがこの人だった。おそらく演劇の世界では大ベテランだけど、テレビにはあまり出ない人だと思う。祐親は北条と三浦の両家に娘を嫁がせている。知らなかったのだけど、北条義時と三浦義村はともに祐親を母方の祖父とするいとこ同士だった。劇中、二人が祐親を「爺さま」と呼んでいるのはそういうことだったりする。かなり濃い縁戚関係の中で物語が進んでいくのだとあらためて気づかされる。
源頼朝は大泉洋。『真田丸』では真田信幸を演じていた。もっとも、さらにその前に三谷幸喜脚本監督の『清須会議』にて秀吉役で主演している。コミカルでありながら、腹に一物ある役を好演していた。いまや俳優として引く手あまたの存在ではなかろうか。この大河では、主人公にとって政争の場における師匠となるらしいから、ただの神輿でなくて、かなり重要な役になると思う。
主人公の兄、北条宗時を演じるのは片岡愛之助だった。藤原紀香の夫である。『新選組!』の本編では榎本武揚役で草��剛が顔見せ程度に出演していたけど、後日譚のドラマではその榎本武揚をこの人が演じていた。だからどうってわけでもないけど。
北条政子は小池栄子。政子はこの大河のクライマックスになると思われる承久の変のきわどい状況で御家人相手に一席ぶって情勢をひっくり返す役だから、迫力のない人には務まらない。そういう意味では納得の配役だと思う。あと、妙に中央志向が強いのもおかしかった。この人は2005年の大河『義経』では、巴御前だった。ちなみに、『鎌倉殿の十三人』での巴御前は秋元才加。『義経』の政子は財前直見。
それから、妙にうらぶれた工藤祐経も印象的だった。この人は後で曽我兄弟の仇討ちのもとになるエピソードに関わってくるはず。後半の出来事になると思うけど、初回から伏線を張るということはかなり重要なイベントになるのだろうか。
冒頭、主人公は赤い打掛を頭からすっぽりかぶった人物を背にのせ、馬を駆って追手から逃れている。なんとなく政子の駆け落ちのことが念頭にあるので、この人物を政子かと思いかけるが、それにしては身内に「姫」という呼びかけが不自然である。その後、新垣結衣演じる八重という女性が登場するので、そちらかとも思いかける。
「馬の準備はしてありますか」
「馬は準備しておりません」
「では、輿の準備はありますか」
「輿も準備しておりません」
という噛み合ってない会話がおかしい。しかし、八重でもない。そんなに引っ張るネタでもないけど、冒頭とラストにこのシーンを置き、第一回全体を挟む構成はなかなか大胆だと思った。
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