『川崎市政だより』より

　こちらは少し前の『川崎市政だより』の表紙です。「川崎市民が思う『川崎市に当てはまるイメージ』、1位は便利、2位は産業が盛ん、3位はごちゃごちゃしている、5位は活気がある、では、4位は?」となってまして、こんなものどうせ建前しか並ばないようなものですけど（3位が少し不穏ですが）、これがなかなか攻めた内容でした。



　ずばり、"治安が悪い"。市役所が市民にアンケートをとったからこの結果なのであって、ネットでならこれが断然にトップだったでしょう。もちろん、市政だよりで取り上げているわけですから、その後は「実際はそんなことないですよ」と続きます。曰く、「あくまでイメージですよ」と。たしかに住んでいる身としては、実際にこわい経験をしたり、間近に犯罪を目にしたことはありません。それは他のところに住んでいた時と同じです。ぶっちゃけ日本に住んでいる限りは、どこでもそんなものだと思います。
　アメリカには事件や事故の現場にかけつけて映像や動画を撮影し、それをテレビ局に売るストリンガーという職業があって、そのために暗号化されている警察無線の傍受までするそうですけど（日本では違法）、ロサンゼルスではただの発砲ぐらいだとどこも買わないそうです。



　さらに細かく区ごとに見ていくと、当然ながら、問題は市の東端、川崎区に集中していることが判明します。実際、中原区のタワーマンションの住民は、自分が住んでいるのはあくまで武蔵小杉であって、そこが川崎市であることはなかなか認めたがらないんじゃないでしょうか。川崎区についていえば競馬場も競輪場も、江戸時代の宿場町からの伝統を受け継ぎ、戦前までは赤線地帯だった由緒正しい風俗街の堀之内が市役所の裏手にあるわけで、このイメージの払拭は容易ではありません。

　もう一つのデータは、実は刑法犯罪認知数が東京都区部と政令指定都市の中で最低というもの。右肩下がりなのは日本全体の傾向なのでそんなものだとして、ネットで槍玉に上がりそうなのは、あくまで「刑法犯罪認知数」というところでしょうか。実際の犯罪があったかどうかを厳密にカウントすることなどできないわけで、認知数をベースにするのは仕方ないともいえますが、なんせ神奈川県警といえばやらかしのイメージがこれまた根強いので、失笑されそうな根拠でもあります
　もっとも、個人的にはここにもう一つカラクリがあると思っていて、そもそも東京と神奈川は相当に行き来が多くてどちらの管轄か判然としないケースが多いのに関わらず、警視庁も神奈川県警も所詮はお役所で融通の利かないところでしょうから、もとから軋轢が多くそんなに友好的ではない関係がずっと続いていると思われます。実際、神奈川県警にいた人に警視庁のことを聞いたら、ふつうに「あいつら」呼ばわりでした。
　でもって、マスコミ各社はほぼ東京に集中していますから、神奈川県警のやらかしは警視庁経由でそちらにダダ漏れだけど、身内の恥についてはたいていダンマリなのではないかと。

　実際にはどこの警察もだいたい同じぐらいやらかしているはずで、地方によってそんなに差はないと思います。でもって、川崎市といっても、ほとんど川崎区のことで、他はまずまず南関東の首都の近郊というだけで、そんなに特別なこともないでしょう。
　川崎がどうこうというより、東京都大田区蒲田と川崎市川崎区と横浜市鶴見区は京浜工業地帯として、戦後とにかく若年男性が単身でやってきて工場や港湾施設で働いていたところなので、なにかと荒っぽいことが多かったのは事実だと思います。
　付け加えるなら、横浜市の中区から南区にかけて、福富町や日ノ出町や黄金町のあたりが、なんとなくみなとみらいや関内や中華街あたりのイメージの陰にひっそり忍びこんでいるのが解せません。このあたりだって、上記の一帯とさして変わらないはずなのに。

　とはいえ、今や東京都と神奈川県の最低時給は1000円を超過して、工場はどんどん北関東に移転しており、大田区は羽田イノベーションシティに、川崎市はキングスカイフロントに研究施設を誘致するといった動きを見せています。横浜市がみなとみらいにカジノを誘致しようとしたのも、同様の試みだったといえるでしょう。
　結局、時給の高騰がこのあたりを変えつつあると思います。横浜より東京に近い川崎には、大きなマンションがどんどん建設され、従来のイメージをあまり持たない若いファミリー層がそこに入ってきていて、この国では珍しい人口の増えている自治体となっています。
　いったんついた風評はなかなか変わりませんが、中身はかなり変容しつつあるというのが、実際のところだと思います。