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2021年09月12日21:07

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幸福な監視国家・中国

梶谷懐、高口康太『幸福な監視国家・中国』NHK出版、2019年

中国がテクノロジーを駆使しつつ俄かに監視社会化していることは多くの方がぼんやりなりにも認識していると思いますが、著者達はそれが日本の将来にも関わってくると見据え、東浩紀の情報自由論やユヴァル・ノア・ハラリ、ユルゲン・ハーバーマスなども参照しつつ新たな公共性と市民社会の行方に踏み込んで議論展開しているのが面白いです。監視社会とその為に従来的な自由を一部制限されることを多くの市民が受け入れるようになってきたこと自体は911の時から指摘されてきたと思いますが、それを人種・民族対立と国家による統制の文脈ではなく専ら情報化社会の行き着く所として分析していく所に良さがあると思いました。そして著者達はそこにアジア社会論までも絡めて論じていきます。

情報コントロールと言えば検閲が古典的な手法で、本書でも特に習近平政権以降の大胆かつ巧妙な手段による監視システムが紹介されていますが、著者達が注目しているのは「ハイパーパノプティコン」つまり万人による万人の相互監視社会です。万人の万人によると言えばホッブズのリヴァイアサンを連想しますが、著者達が強調しているのは中国のような権威主義的な体制下では多くの人々が自主的自発的に相互監視に迎合してそのメリットを得ようとしてしまうという点です。信用スコアというシステムがその例として詳しく紹介されています。

AI画像認識を利用した監視カメラやブロックチェーンなど、監視と統制のテクノロジー動向は大まかにながらニュース記事などで把握しているつもりでしたが、本書はその先の新しい公共性と市民社会のあり方まで射程に入れていて、とても読み応えありました。2年前に出版されたもので、その後の変化を追いきれていない部分があるかもしれませんが、情報化社会の行末を考えるという意味でも参考になりました。各論レベルでは「心の二重過程理論」とGDPR、AIに道徳判断は可能か、なども興味深かったです。

最終章の前半は新疆ウイグル自治区についてで、情報化社会の最先端を行く国とは思えないような酷い民族弾圧の様子が簡潔に紹介されています。ここでも最新の監視テクノロジーを駆使して「再教育キャンプ」という名の事実上の強制収容所での徹底した自由剥奪と管理が行われています。人権軽視の下で治安強化の為に監視テクノロジーを駆使して管理主義を徹底するとここまで行き着くのかと言葉を失う思いでした。


https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000885952019.html

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