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2021年08月19日12:10
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空前絶後！ 土佐長平の無人島からの脱出！ 『江戸時代のロビンソン』を読む
※画像は同書
憲さん実は遭難マニアである。
といっても、自分が遭難するのは真っ平御免蒙りたい。
というか、「遭難」するのが好きな人は世の中広しと言えどもいないのではないだろうか？
憲さんが遭難マニアなのは、遭難譚(たん)を読むことである。
それは、山岳遭難であれ海洋遭難であれ、航空遭難であれ生身の人間が自然の中に裸同然で叩き込まれ、絶望的な中で必死になってもがき苦しんでいくなかで、ある人は力尽きて果ててしまうが、ある人は壮絶かつ超人的力を発揮し、その苦難から奇跡的に脱出するのである。
そして、その多くの「遭難譚」は当然ながらそこから生還した者の口から人口に膾炙(かいしゃ)して今に伝わるのである。
その物語はまさに「事実は小説より奇なり」を地でいく冒険物語であり、またそれが事実故に迫力を持って私たちに感動を与えるのだろう。
憲さんが今までで一番衝撃を受けた遭難譚は北海道の知床半島で起きたいわゆる『ひかりごけ事件』である。
これは、この事件を題材とした武田泰淳の短編小説『ひかりごけ』にその事件名は由来する。
戦時中の1944年（昭和19年）5月に日本の北海道羅臼町で発覚した遭難者による死体損壊(人肉食)事件である。日本陸軍の徴用船が難破し、真冬の知床岬で危機状態に置かれた船長が、船員の遺体を食べて生き延びた。という事件である。
参考
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【ひかりごけ事件】https:/
これは、武田泰淳の小説よりも事実をリポートしたこちらの本にその経緯が詳しく紹介されている。
合田一道著『裂けた岬―「ひかりごけ」事件の真相』
http://
憲さん、10年以上前にこの本を読んで衝撃を受けた。
遭難から人肉食という極限を超えた行為により生還した船長を誰が裁けるのか？という哲学的、宗教的領域にまで踏み込んで考えさせられる「遭難譚」である。
また、人肉食絡みで言うと南米のアンデス山中での航空機遭難事故「アンデスの聖餐」事件なども壮絶である。
これは、映画「生きてこそ」を観た記憶がある。
参考
↓
【アンデスの聖餐】
https:/
【映画『生きてこそ』】
https:/
また、憲さん数多(あまた)の山岳遭難や海洋遭難のルポルタージュを渉猟(しょうりょう)していた時期があった。
それほど「遭難マニア」なのである。
と、同時に皆さん知っての通り憲さん「江戸時代マニア」である。
では、江戸時代の遭難譚はあるのか？
遭難マニアと江戸時代マニアのクロッシングである。
これについては、今まで憲さんが読んだものは吉村昭氏の短編『島抜け』くらいしかない。
参考
↓
【吉村昭著『島抜け』】
https:/
しかし、これは「島流し」という極限的刑罰から逃れるために自らの意志で「遭難状態」となる話であり、厳密な意味では「遭難譚」ではなく「冒険譚」に近い。
では、何か「江戸時代の遭難譚」を扱った資料はないかと、探していたらあった！
ありましたよ！
ドンピシャの本が！
それがこちら！
岩尾龍太郎著『江戸時代のロビンソン 七つの漂流譚』です！
参考
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版元サイト
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書評
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以下書評より引用
大黒屋光太夫、土佐の長平、尾張の重吉―鎖国下の江戸時代に不慮の海難事故に遭って漂流しながら、旺盛な生命力で、奇跡の生還を果たした船乗りたちがいる。『ロビンソン・クルーソー』研究で知られる著者が、彼らの肉声をもとにした詳細な記録を読み解き、それら漂流譚から七人を選んで、江戸時代の漂流者たちの壮絶なサバイバル物語と異文化体験を紹介する。
以上、引用終わり。
大黒屋光太夫の漂流譚は井上靖原作で緒形拳主演の映画『おろしや国酔夢譚』を憲さん観ている。
参考
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【おろしや国酔夢譚】
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この遭難譚は伊勢から当時はロシア帝国の属領だったアリューシャン列島のアムチトカ島に漂着するまでの漂流譚もることながら、そこからカムチャッカ半島経由でオホーツク海を渡りオホーツクに行き、シベリア大陸を渡りロシアの帝都ペテルブルクで女帝エカチェリーナ2世に謁見し帰国願いを出し、そして日本に帰国するまでを描いている。それは、まさに命がけの冒険譚である。
この中でも大黒屋光太夫とその帰国を手助けするキリル・ラクスマンとの国境や人種を越えた友情は人間の普遍的な愛を感じずにはいられない感動的な話である。
参考
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【キリル・ラクスマン】
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この『江戸時代のロビンソン 七つの漂流譚』は表題通り江戸期における７つの海洋遭難譚から構成されている。
著者の岩尾龍太郎氏は50代と若くして亡くなってしまった故人であるが、イギリスの小説家ダニエル・デフォーの小説『ロビンソン・クルーソー』の研究者であるらしい。
ちなみに、『ロビンソン・クルーソー』は実在のモデルが存在する。4年4ヶ月もの間、無人島で生活したスコットランドのアレキサンダー・セルカークがそれである。
参考
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【ロビンソン・クルーソー】
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本書では、無人島でサバイバルして帰還するパターン（ロビンソン・クルーソー型）と異文化（異国）へ漂流して帰還するパターン（ガリヴァー型）に分けて分析している。
そして、前者の「ロビンソン・クルーソー型」のパターンが全て同じ島への漂着であるというのが大変興味深い。
その島が「鳥島」である。
参考
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【鳥島】
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鳥島は東京の南582km、伊豆諸島に位置する無人島である。
現在の有人島で言うと青ヶ島と小笠原諸島の間、無人島や岩礁を含めると須美寿島と孀婦岩の間にあり、まさに絶海の孤島である。
明治時代から戦前にかけて人が住んでいた時期もあったが少なくとも江戸時代と現在においては無人島である。
本書では、鳥島での漂流パターンを６つ紹介している。どれも鳥島に生息するアホウドリを補食することにより長年の無人島生活が維持できたのだ。
アホウドリはその名の如くいとも簡単に捕殺することができるのである。
参考
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【アホウドリ】
https:/
これが、不毛な無人島でも長期間サバイバルを続けることができ、漂流記を生む島に鳥島がなる理由でもある。鳥島にアホウドリがいなければ、本書に登場する漂流者はすべて無数の行方不明者と同じ運命になっていた。
なので、漂流者の中には無事に本国に帰ったら「此鳥(アホウドリ)ヘノ報恩ニ生涯鳥ハ食フマジと志願シ、数珠ヲ拵(こし)ラヘ一日ツツ精進ニテ念仏トナヘ候也」と言ってそれを実践した者もいるぐらいだ。
では、本書に記載された鳥島における歴代の漂流者を挙げる。
��1696年 志布志船の漂流 〈第一話〉（鳥島滞在79日）
��1719年 遠州新居船の漂流 〈第二話〉（鳥島滞在約20年）
��1738年 江戸宮本善八船の漂流 〈第二話〉（鳥島滞在数日）
��1785年 土佐儀七船・長平の漂流 〈第三話〉（鳥島滞在約12年）
��1788年 大阪肥前船の漂流 〈第三話〉（鳥島滞在約９年）
��1790年 志布志船住吉丸の漂流 〈第三話〉（鳥島滞在約７年）
である。
興味深いのは�，話影箸任竜�還であったが、�△鉢�、�い鉢イ鉢Δ蓮�鳥島で漂流者同士として出会い、一緒に帰還していることである。�△留鷭�新居船の漂流から生き残った３人は、鳥島で20年もサバイバル生活をしており、��の江戸宮本善八船が漂着しなければ、だれにも知られずに鳥島で朽ちただろうことを考えると感慨深い。�い療攤患啓形イ寮犬�残りである長平は、無人島長平としても有名であり、�イ梁膾緘鄙袷イ�漂着するまでの１年以上は他の漂流者を無くして１人で鳥島でサバイバルしていた。またその時に、�△鉢�の漂流者たちが50年前に鳥島に残したものやメッセージなどを発見していて、運命の不思議さを感じずにはいられない。
ここで憲さんが一番印象に残ったのが�ぁ銑Α∨椽颪埜世Δ搬荵囲叩崚攤瓦離蹈咼鵐愁鵝殘疑妖臘絞拭廚任△襦�
このサバイバルは「長平日記」という密度の濃い日記に記されている。
土佐を出港した長平はじめ4人が乗った小型船が1785年(天明５年)１月の「大西風」により遭難し鳥島に漂着する。
島にはアホウドリ意外、水場もなければ火山も休止しており火もない。水は雨水を溜めて確保するしかないのだ。
そんな中長平はアホウドリが渡り鳥であることを察知し、食料の備蓄までする。
鳥の肉を干物にするのだ。
しかし、栄養の偏りにより脚気にかかり次々と仲間が死んでしまい、ついに長平一人になってしまうのである。
そこから長平の天涯孤独なサバイバルが始まるのだ。
何度も自殺の誘惑に駆られたが、長平は島で死んだ3人の遺族への報告を自身を生き長らえる支えとしたのである。
そんな中で1788年に�イ梁膾簇鄙袷イ両菫醗�11人が鳥島に漂着するのだ。
長平と11人との出会いは感動的である。
ここから12人のサバイバルが始まる。
しかし、この11人の肥前船の乗組員の内９人が生還するのはさらにその10年後となる。
そして、この12人の島内サバイバルで�△�1719年遠州新居船の漂流者たちが暮らしていた洞穴を発見するのである。
これも感動的な場面だと著者は言う。
何よりもそれは、先達が後着のロビンソンたちに「ここで生き抜くことができる」といったメッセージが残されていたのである。
そして、その２年後の1790年�Δ了嵒杙崛ソ撒抜櫃裡郷佑�鳥島に漂着したのである。
これで、３グループの18人が一堂が鳥島に会したのである。
しかし、鳥島からの脱出はそれから７年を要するのである。
そこから７年間漂流者はあらゆる手段を使いサバイバルと脱出を試みる。
そして、数人が死ぬ中でついに彼らは脱出のために船を作ることを決意するのである。
特に�Δ了�摩の民は造船の技術に長けていた。
素材の木材は全て漂着ものである。
布帆の材料は着ていた衣服。
そして、肝心なのはその材木をつなげる鉄製の釘である。
彼らはまずやはり漂着物で風箱(鞴・ふいご)を作り、そして気長に待つこと数年、ついに海辺に錨の残骸を発見するのである！
そして、これを使い大量の釘を生産するのである！
こうして160の流木からつぎはぎの船を作り上げ、貝殻を焼いて灰として漆喰を作り船体に塗り、これまた、漂着した青竹で水桶を作り、この船に「伊勢丸」と名付けさらにご丁寧に後の漂着者のために、そのサバイバル法を書き残し、ふいごや火打ち石まで洞窟内に残し島を出港したのである。
そして、彼らは数日後無事に青ヶ島に漂着した！
しかし、青ヶ島には９人の住民がいたが、彼らも実は噴火で島民が避難した後に島には戻ったが、島に取り残されサバイバル状態であったのだ。
そこでさらに伊勢丸は青ヶ島の二人を水先案内人として同乗させ、有人島の八丈島に無事到着したのである。
何とも人間の生に対する執念とはすごいものか改めて思い知らされると同時に、やはりこのような場においては「職人」としての生産技術、いわゆる手に職を持つことがどれだけ有用であるか思い知らされる話である。
まさに感動的な話である。
この、土佐の長平の漂着譚は吉村昭氏の『漂流』という題で小説になっており、北大路欣也主演の映画にもなっている。
参考
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【漂流】
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憲さんは小説も読んでなく、映画も見ていないが是非手にしたいものである。
また、この著作の前段では「漂流記を原文で読むための予備知識を二節にわたって述べておく」として「『鎖国』という固定観念」と「『封建制』という固定観念」として述べていてこれは憲さんの歴史観にも通じるところがあり参考になる。
彼の説によると、「鎖国」観念は19世紀の産物であり、いわゆる「鎖国」の当初の目的は貿易統制にあった。しかし、島原の乱の後、禁教の目的が強くなった。
なので、「鎖国」の本質は「国を閉ざすこと」ではなく、幕藩体制化の一連の統制と連動した貿易・交通・情報の幕府によるコントロールであったのだ。
また、「封建制」という概念についても著者は述べている。
江戸時代の幕藩体制の「封建制」は鎌倉幕府の御家人体制とは異なるという。
御家人体制時代の武士は荘園における自給自足的農業生産に従事するなど、平時は農耕に従事し戦時にのみ山城に籠ったのである。
これに対して江戸時代の武士は士農分離により、生産現場から切り離され、理念として「武士」道を押し付けられ、城下町に集められ、かつ商業に依存するようになったのである。
このようにして武士という非生産者層が百万人も集積する江戸の存在と、その江戸へ全国の物資を集める流通網は、タテマエとしての「封建制」、すなわち封土における自給自足体制を堀り崩してゆく。
というのである。
なるほど！
これは目から鱗である！
そして、筆者は江戸時代の封建制についてこうまとめる。
以下引用。
日本資本主義論争において、江戸時代の経済体制は絶対王制と重商主義の結合に近いものであり、明治維新＝市民革命寸前であったとする「労農派」の見解は、明治以降の天皇制の前近代的性格(「講座派」の論点)を過小評価するという誤りはあったが、江戸期の農業の停滞と商工業発展の必然性を捉えていたとは言えるだろう。商業を前提としながらその発達を否定した幕藩体制の基本矛盾は、内海や河川交通にとどまらぬ海運を必要としながらその発達を抑制した江戸期の交通の基本矛盾として現れる。
以上引用終わり。
Σ(￣□￣;)ハッ！
江戸時代の漂流譚を読むにあたって、労農派と講座派の「日本資本主義論争」にまで予備知識を持たねばならないというのは恐れ入った！
参考
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【日本資本主義論争】
https:/
この筆者のいう「鎖国」の概念や「封建制」の概念ほ今まで憲さんが抱いていた概念とほぼ同じである。
ただし、「明治維新＝市民革命寸前であったとする『労農派』の見解は、江戸期の農業の停滞と商工業発展の必然性を捉えていたとは言えるだろう。」というくだりは「？」である。
憲さんは「明治維新」＝市民(ブルジョア)革命ではないと考えている。
参考
↓
「講座派か労農派かそれが問題だ！『希望の資本論』を読んで」
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「明治維新」＝ブルジョア革命の見解がなぜ「江戸期の農業の停滞と商工業発展の必然性を捉えていた」といえるのかは甚だ疑問である。
「明治維新」がブルジョア革命であろうとなかろうと、「江戸期の農業の停滞と商工業発展」は必然ではなかったのだろうか？
と。
これは、著者にその見解を尋ねたいがもう存命しないので無理な話である。
しかし、この本は思いがけずに色々な意味で憲さんの知的好奇心を刺激してくれる良書であった。
さらに欲を言えば、古文書である日記等の原文の現代語訳を付けていただけるとありがたかったが、贅沢な要望と言うものだろう。
今度は是非とも吉村昭氏の『漂流』を読んでみたいものある。
いや〜！
読書って最高！
＼(~o~)／
どーよっ！
どーなのよっ？
※付記
本書の冒頭にある「漂流経路」の図と巻末にある「江戸時代漂流年表」は大変参考になります。
(￣ー￣)ムフフ
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