※画像はアフガニスタンの大統領府に入ったタリバンの戦闘員ら=カブールで2021年8月15日
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンが今月15日、首都カブールに進攻して大統領府を掌握、ガニ大統領は国外脱出した。これにより政権は事実上崩壊し、タリバンは全34州都をほぼ制圧し「全土が支配下に入った」との声明を発表した。
参考
↓
「タリバンがアフガン全土をほぼ制圧、20年ぶり政権奪還 ガニ大統領は国外脱出」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/124717
2001年3・11以降続いた、アフガニスタンのアメリカ傀儡政権が崩壊したのだ。
その一点については喜ばしいことだ。
これを受けて、休刊あけの新聞社は各社そろってアフガニスタン情勢の社説を掲載した。
これについてはほぼ濃淡の違いはありながらも各社だいたい同じことを言っている。
しかし、この中で我が東京新聞だけは異色の論調の社説を載せて憲さんを唸らせてくれた。
久しぶりに各社社説比較をしてみる。
各社の主張の要点を箇条書きで抽出する。
産経新聞
【主張】アフガン首都陥落 バイデン政権の責任重い
https://www.sankei.com/article/20210817-EVD7ITADV5KTFH4F6T45ICXF2A/?outputType=amp&__twitter_impression=true
・タリバンの軍事攻撃による権力奪取はあってはならない。
・国際社会は「タリバン政権」を認めるな。
・タリバンの動きを見誤り、攻勢を止められなかったバイデン米政権の責任は重い。
・アフガンの国造りにおいて、日本は主要な支援国となった。インフラ整備を進め、警察の訓練など人材育成にも尽力した。
・米国はじめ、国連安全保障理事会の協議や、日本を含む支援国などで意見を出し合い、今後のアフガニスタンの道筋を示せ。
産経新聞、以上
読売新聞
タリバン復権 アフガンを見捨ててはならぬ
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210816-OYT1T50272/amp/?__twitter_impression=true
・バイデン米政権が「米史上最長の戦争」の終結を急いだ代償は、あまりにも大きい。
・アフガニスタンの混迷の収拾へ、国際社会は迅速に動くべきだ。
・暴力的に力と恐怖で支配を広げてきたタリバンの正統性は疑わしい。
・タリバンは過去政権を握っていた時、民主主義の否定や女性への教育禁止など反民主的な政策だった。
・指導部は今回、タリバンが住民に対して安全確保を指示したというが、末端の戦闘員まで浸透させられるかどうかは疑問だ。既に略奪の横行が伝えられている。
・アフガニスタンの国民の多くは世界から見捨てられた思いのはずだ。
・タリバンの電撃的な攻勢の背景にはアフガン駐留米軍の拙速な撤収があったのは明白だ。
・バイデン米大統領は先月の段階で、アフガン政府軍がカブールを防衛できるという楽観的な見方を示していたが、それは見誤りだった。
・戦闘能力を実際に支えていたのは、米軍の空爆や情報提供だった。
・米国世論に配慮し、8月撤収に固執したバイデン氏の責任は重い。「出口戦略」が甘すぎた。
・01年の米同時テロの後、米国はテロ首謀者をかくまっていたタリバン政権を崩壊させ、民主国家の建設を主導してきたのは正しい。
・日欧も多くの国も巨額の資金と人員を投じて復興を支えた。
・タリバンの権力奪還はアフガンが非民主的な体制に逆戻りし、再びテロリストや過激派の温床となることだ。
・それは20年間の国際社会の努力は無に帰すことだ。
・国連を中心に、関係国がタリバンに暴力の自制と安定を求め、アフガンへの関与を話し合う枠組みを構築しろ。
・中国とロシアはタリバン支持に傾くのではなく、日米欧と足並みをそろえろ。
読売新聞、以上。
日経新聞(さわりのみ)
[社説]アフガンの混乱回避へ最大限の圧力を
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK166KJ0W1A810C2000000/
・タリバンの武力による強引な政権奪取は許されない。
・8月末の米軍撤収を控え、タリバンはアフガン政府との対話を約束したはずだ。これは約束違反だ。
・国際社会はタリバンに対する圧力を強めろ。
日経新聞、以上
朝日新聞
(社説)アフガンと米国 「最長の戦争」何だった
https://www.asahi.com/sp/articles/DA3S15012160.html
・タリバン権力奪還は米国が主導して支えてきた文民政権の崩壊であり、軍閥が争う「失敗国家」状態への逆戻りだ。
・国際社会は一致してタリバンに自制を求めよ。
・国連安保理は穏当な統治体制を生み出すため(タリバン政権打倒)に行動を急げ。
・米国の責任は重大である。20年間、アフガン政府の後ろ盾として影響力をふるいながら、このような無秩序な形で米軍の撤退を急いだのは、大国のご都合主義だ。
・同時テロの直後の国際社会は米国の武力行使に一定の理解を示した。テロ組織をかくまうタリバンを政権から追うとともに、国民に人道援助をするという米の主張を認めたからだ。
・しかしアフガニスタンの民主政治は定着することなく、汚職も蔓延した。
・バイデン米大統領は「国を守るのは彼ら(アフガニスタン人)の仕事だ」「米本土への攻撃の拠点にさせない目的は達した」というが、説得力は乏しい
・米国が世界規模で進めてきた対テロ戦争の限界は明らかだ。
・テロの根源は、各地に広がる紛争や格差、貧困であり、この根本の原因を絶たねばならない。軍事偏重の行動に走り続けた結果、疲れ果てたのが今の米国の姿。
・人権と平等を認めない統治をまた許せば、米国が唱える自由と民主の価値を誰も信用しなくなる。
・それこそが、米国にとっての「敗北」だ。
朝日新聞、以上
毎日新聞
アフガン民主化の崩壊 米国の過信が招いた敗北
https://mainichi.jp/articles/20210817/ddm/005/070/128000c
・今回の事態は米同時多発テロから20年に及ぶ戦争の無残な終幕と言うべきだ。
・1975年のベトナム戦争の「サイゴン陥落」に重ね、「カブール陥落」とでも言う事態。米国にとって屈辱の光景だ。
・タリバン支配の復活を許すきっかけとなったのが、バイデン米大統領が進めた駐留米軍の撤収だ。
・米の歴代政権による対テロ戦争は迷走し、戦争にかまけアフガンの国家再建に目を向けなかった。
・トランプ政権は国内のえん戦気分を背景にアフガンの人々の失望を顧みず米軍撤収を急ぎ、タリバンの力を軽視したバイデン政権はそれを踏襲した。
・アフガン政府の責任も重い。国際社会からつぎ込まれた巨額の復興資金を私的に流用し、高まる政治不信の声に耳を貸さなかった。
・対テロ戦争で優位に立っているとおごる米国、米軍の保護に頼って自立しないアフガン。それぞれの慢心や過信が情勢をより混迷させてきた。
・この20年でアフガン社会には民主化が少しずつ広がり、女子教育も保障された。今回、女性の就労が禁止された地域があるという。タリバンが圧政を復活させるのは論外だ。
・国連安保理は「タリバン政権の復活は支持しない」との報道声明を発表した。国際社会の監視が欠かせないことは言うまでもない。
・最も懸念されるのが、アフガンが再びテロの温床となることだ。米軍は2年以内にアルカイダがアフガンで本格的に復活する恐れがあるとみている。
・「カブール陥落」は、国際社会における米国の威信低下を加速させる。米国主導の民主化は失敗した。しかしテロとの戦いは終わったわけではない。
・テロは国際社会共通の脅威だ。米中やロシアを含め、世界的な対テロネットワークの再構築を急ぐ必要がある。
毎日新聞、以上
以上が「アフガニスタンカブール陥落」についての各社社説の要旨である。
簡単に言えば、
・米軍が撤退してカブールがタリバンによって陥落した。
・バイデンの米軍撤退方針の読み誤りであり、バイデン政権の失政だ!
・タリバンは非民主的でありテロ支援組織だ!
・タリバンの政権奪取は認められない
・国際的包囲網と国連の力でタリバンを打倒せよ!
である。
ここには、アメリカの軍事力によるアフガニスタン国家の軍事的蹂躙に対する怒りや追及は全くない。
簡単に言えば・・・
「あ〜!アフガニスタンからアメリカ軍が撤退しちゃうからタリバンに政権をとられちゃうのよ!アメリカが悪い!また、アメリカの軍事力でタリバンを追い出してよ!」という、まさにジャイアンの威を借るスネ夫のような言いぶりである。
そこには、アメリカが世界で最悪、最凶のテロ国家であると言う認識がすっぽりと抜け落ちてしまっている。
その後のテレビ報道では国外脱出を求めて空港に群がる住民の騒乱を映し出している。
参考
↓
https://youtu.be/TO-iskSwvGI
これらに対して、我らが東京新聞の社説は異色である。
せっかくだから全文引用する。
東京新聞
<社説>タリバンの復権 対話の門戸を閉ざすな
https://www.tokyo-np.co.jp/amp/article/124873?rct=editorial&__twitter_impression=true
アフガニスタンで反政府武装勢力タリバンが首都に入り、政権を掌握した。かねて人権侵害の非難が絶えないタリバンだが、国際社会での共存を訴えている。実相を見極めるためにも対話を拒むべきではない。
急速な展開だった。米国防当局者は先週、「首都はあと三カ月、持ちこたえる」と言明したが、実際には一週間ともたなかった。
タリバンは今年五月から農村部での支配領域を拡大。今月六日から一週間で十三の州都を占拠し、首都についても無血入城だった。
このスピードは武力だけでは説明できない。むしろ、兵力や装備では政府軍が圧倒していた。
ただ、その士気は低かった。アフガン政府の腐敗は著しく、巨額の海外援助の使途も不明。タリバンからの和平提案にも当初は消極的だった。一方、タリバンは旧政権時代から一変し、多くの部族に根を張り、地域の自警団を取り込むなど柔軟さを身に付けた。
民衆の多数派が政府を見限ったことがタリバン急伸の理由だ。
タリバンは十五日の声明で、政府職員らへの恩赦と新政府への協力を訴えた。指導部は暴走しがちな下部戦闘員に報復や虐殺の禁止を徹底しなくてはならない。新憲法制定などに向けて、最高意思決定機関であるロヤ・ジルガ(国民大会議)の開催も急ぐべきだ。
欧米ではタリバンは人権侵害の象徴と見なされている。最近も戦闘員が十二歳の少女と結婚するよう強いたと報じられた。タリバンは事実無根と否定している。
アフガンで人道活動に従事した故中村哲医師は、タリバンを農村の慣習を重んじる保守派集団と評し、欧米の評価に疑問を呈した。
実相は見えにくいが、タリバンが自らのイメージについて神経質になっているのは事実だ。かつては政敵の遺体を信号機にぶら下げたこともあったが、今回は首都の入り口で戦闘員を止め、政府に平和的な政権移譲を求めた。
中国はタリバン政権承認に傾いている。国際的な平和共存を望むタリバンの真意や人権状況を見極めるためにも、国際社会は対話の門戸を閉ざすべきではない。.
以上、東京新聞。
簡単に言えば、タリバンは旧政権時代から一変し、多くの部族に根を張り、地域の自警団を取り込むなど柔軟さを身に付けた。
今月六日から一週間で十三の州都を占拠し、首都についても無血入城だった。このスピードは武力だけでは説明できない。
アフガニスタン民衆の圧倒的支持があるからできたはずである。
なので、国際社会はアフガニスタンのタリバン政権を認め、軍事ではなく対話による問題解決を目指せ。である。
どの社説とも一線を画す慧眼に溢れる内容である。
その、ポイントの一つが故中村哲医師である。
参考
↓
【中村哲】
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%9D%91%E5%93%B2_(%E5%8C%BB%E5%B8%AB)
これについては、今日の東京新聞「本音のコラム」で斉藤美奈子さんも言及している。
これも短いので全文引用する。
以下
「ほんとの姿は?」
十五日、米軍が撤退しアフガニスタンの首都カブールをタリバンが制圧した。日本のメディアは悪夢が復活するといわんばかりの書きようだ。
みなが恐れるタリバンとはどんな組織なのか。参照すべきは現地で長く活動してきた故・中村哲さんの言葉だろう。
二〇〇一年、米国がアフガニスタンを爆撃した直後のインタビューで中村さんは答えている。
「日本の論調では、ひと握りの悪の権化タリバンが力をもって罪のない民衆を抑圧するという図式が成り立っていたわけですけど、それはちょっと違うんです」
タリバンはソ連撤退後のアフガニスタンに平和と秩序をもたらした地域集団の集合で、人々は歓迎していた。そこに英米軍が侵攻してきてグチャグチャにされた。それが現地の庶民の感覚で、女性に教育を受けさせないといってもカブールには何十もの女学校があって「かなり規制は緩んでいたんです」。西側の報道がいかに一面的か、目が覚める思いがする。
〇二年一月号から九回に渡って行われたこのインタビュー記事は、現在ロッキング・オンのウェブサイトで公開されている(「中村哲が14年に渡り雑誌『SIGHT』に語った6万字」)。
二十年後のいまもワシントン発の情報だけで判断はできない。平和を乱したのは誰だったのか。いまこそ考えるべきだろう。(文芸評論家)
以上、引用終わり。
憲さんも斉藤美奈子さんの意見に賛成です。
日本の主要メディアがいかにワシントンに尻尾をふっていて、いかに一方的でいかにいい加減かを思い知らされる内容であった。
東京新聞の社説にもあるように、アフガニスタンの民衆の圧倒的支持がなければ、あのような電撃的なカブールの無血開城などあり得ないだろう。
空港に逃げ惑う連中はガニのように札束を持って国外逃亡した無責任な連中や米軍の提灯持ちなのだろう。
因果応報である。
憲さんはそう思う。
どーよっ!
どーなのよっ?
※参考
「中村哲が14年に渡り雑誌『SIGHT』に語った6万字」
https://www.rockinon.co.jp/sight/nakamura-tetsu/
「故・中村哲医師が語ったアフガン『恐怖政治は虚、真の支援を』」
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00059/120400219/
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