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2021年01月17日05:58

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憲さん随筆アーカイブス 憲さんシネマ倶楽部−映画『男はつらいよ』への最高のオマージュ映画『舟を編む』を観て

フォト


※画像は映画『舟を編む』のポスター

※この随筆は2019年12月15日に執筆したものに加筆修正しました。

『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』は寅さんシリーズ第30作品である。

参考

【はつらいよ 花も嵐も寅次郎】
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B7%E3%81%AF%E3%81%A4%E3%82%89%E3%81%84%E3%82%88_%E8%8A%B1%E3%82%82%E5%B5%90%E3%82%82%E5%AF%85%E6%AC%A1%E9%83%8E

シリーズ48作(随筆執筆当時)の中でも憲さんが最も好きな作品の一つである。

寅さんのライバルは今やすっかり太ってしまい面影は薄いが、あの若かりしころのジュリーこと沢田研二。もうこの段階で寅さんに勝ち目がない。

マドンナは「タコが言うのよ」で一世を風靡した田中裕子。後に二人はプライベートで結婚することになる。

この作品、なにがいいかというと、憲さんの育った船橋が映画の舞台だからである。

田中裕子演じる蛍子が船橋に両親と弟と住んでいるデパートガールという設定。

片や寅さんのライバル、沢田研二演じる三郎青年は九州からでてきて、今はなき憲さんの幼きころ思い出の遊園地、「谷津遊園」のチンパンジーの飼育係という設定。

参考

【谷津遊園】
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E8%B0%B7%E6%B4%A5%E9%81%8A%E5%9C%92

そして、この映画のクライマックスが奥手の三郎青年が蛍子に告白するシーンである。

場所は谷津遊園の当時東洋一といわれた観覧車の中である。

観覧車係の桜井センリ演じるおじさんに促されて観覧車で横並びに座る二人。

観覧車は徐々に高度をあげていく。

観覧車の中で、相変わらず三郎青年はチンパンジーのまどろっこしい話をして、蛍子は少しうんざり気味。

以下、『男はつらいよ覚え書き』より抜粋する。

三郎青年「それまではべべのこと、動物というよりもまるで自分の子供のように思ってたんやけど、蛍子さんにおうてからは、もうただの動物でしかないんや…」

蛍子さん、三郎青年のほうをゆっくり向く。

三郎青年「だから…」

蛍子さん「だから何?」

と真剣な眼差しになる。

三郎青年遠くを見ながら

三郎青年「結婚してくれないかなぁ…」

蛍子さん、呆然としてその言葉を聞いている。

蛍子さん「…」

蛍子のテーマが流れる。

三郎青年「それが僕の用事なんや」

蛍子さん「私を…好きなの?」

三郎青年振り向き、蛍子さんを見つめ、頷く。

蛍子さん「口で言って…」

三郎青年、蛍子さんを見つめ

三郎青年「好きや…」

二人キスをする。

高まる蛍子のテーマ

ゆっくり大きく回る大観覧車。

三郎青年の肩に顔をうずめる蛍子さん。

三郎青年「蛍子さんの用事は?」

蛍子さん「もういいの」

三郎青年「大事なこととちゃう?」

蛍子さん「うん。でももういい…」

蛍子さんの肩を抱きしめる三郎青年。

観覧車がゆっくり回っていく。

バラ園のバラが赤く咲いている。

以上、抜粋終わり。

覚え書きを読んでいるだけでも興奮してくる!

詳しくはこちらで。

第30作 男はつらいよ 花も嵐も寅次郎
http://www.yoshikawatakaaki.com/lang-jap/30sakuhonpen2014.html

日本映画史上燦然と輝く、この名シーンに対し、そして山田洋次監督に対する熱烈なるオマージュをこめた映画を今回は紹介しよう。

今回紹介するその映画は…。

『舟を編む』
2013年製作
監督 石井祐也
原作 三浦しをん
製作 製作委員会

予告編

https://youtu.be/0kwCc-1o1lc?si=J0az11eO8iOkNXLY

ではその、シーンをみてみよう。

主人公馬締(まじめ・松田龍平)は出版社に勤務する会社員。彼は無口で他人とコミュニケーションをとるのが苦手だが、大学院時代から言語学を研究していたことを買われ辞書編集の部署に配属される。

そして、その彼が心寄せるかぐや(宮崎あおい)が彼に詰問するのだ。

馬締は、「戦国武将の文(ふみ)」がごとし毛書した恋文、というよりは「書状」をかぐやに渡していた。

かぐやはそれが読めず、職場の大将に代読してもらう羽目に。

「こういうのって自分だけが読みたい」

「手紙じゃなくて言葉で聞きたい」

「みっちゃん(馬締)の口から聞きたい」

「はっきり言って」

馬締「はい。」

「好きです。」

かぐや「私も」

Σ( ̄□ ̄;)ハッ!

な、な、なんと!

これは、まさしく「花も嵐も寅次郎」の作中で、青年と蛍子が観覧車内にてかわした、言葉そのものではないか!

まさしく!

そのあと、馬締が語釈を任された「こい【恋】」は「ある人を好きになってしまい、寝ても覚めてもその人が頭から離れず、他のことが手につかなくなり、身悶えしたくなるような心の状態。/成就すれば、天にものぼる気持ちになる」である。

どうです?

この【恋】の語釈?

これは、まさしく寅さんが全シリーズにおいて、主張している「恋」の定義そのものではないのか!?

こんなロマンチックな【恋】の語釈が載っている辞書を私も手にしたいものである。

さらに驚いたことに、この映画『舟を編む』の告白シーンから遡ると、馬締とかぐやが合羽橋で、デートするシーンが出てくる。その後かぐやが馬締を遊園地に誘い、なんと!観覧車に乗るのだ!

これが、「男はつらいよ 花も嵐も寅次郎」に対するオマージュでなくて、なんなのか!?

憲さんはそのことを力説したい!

これは原作にあるのか、映画だけなのか。原作者がそうなのか、監督がそうなのか、わからないが間違いなくどちらかが、寅さんフリークであろう。

間違いない!

彼ら二人はまだその仲の進展具合を表すかのように三郎青年と蛍子のように観覧車内で隣同士では座らない。相対して座る。しかし、観覧車に男女が二人で同席するというのは、男女の仲が、間違いなく一つ踏み込んだ仲であることを表しているのだ。

観覧車とはそういう装置として開発者は製作したのであろう。

この観覧車、合羽橋から行ける近くの遊園地で、箱の中からジェットコースターのレールが見えるのを考えるとおそらく後楽園遊園地の観覧車と想像できる。

惜しむらくは、合羽橋から歩いていける浅草花やしきに本格的観覧車がないことである。

他にも、「寅さん」に対するオマージュは、加藤剛演じる辞書編集主幹の奥さんに八千草薫をキャスティングしていることにも表れている。

八千草薫は言わずと知れた、第10作「男はつらいよ 寅次郎夢枕」のマドンナ、「お千代坊」である。

参考

【男はつらいよ 寅次郎夢枕】
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B7%E3%81%AF%E3%81%A4%E3%82%89%E3%81%84%E3%82%88_%E5%AF%85%E6%AC%A1%E9%83%8E%E5%A4%A2%E6%9E%95

これは小説にはない、映画におけるキャスティングなので、寅さんフリークはやはり監督か?

あと、これは憲さんレベルの「寅さんフリーク」でないと、気がつかないかもしれないが、この第10作「寅次郎夢枕」での寅次郎の恋敵を演じたのが今は亡き米倉斉加年で、彼は東大理学部の物理学の助教授という設定。彼が柴又はとらやの2階に下宿するのだが、彼は食事中でも本を読んでいる。そして、とらやの食卓でイモの煮転がしを箸でつまみそこねるのだが、この『舟を編む』の冒頭で主人公馬締が登場したシーンでも、彼は社員食堂でやはり本を読みながら食事しているのだが、おかずを箸でとりそこねている。

これは、後に出てくる八千草薫オマージュの伏線をなす米倉斉加年オマージュ以外のなにものでもないのだ。

しかし、不吉なことに、米倉斉加年は八千草薫にはフラれるのであった。

(´艸`)くすくす

・・・・・・・・・

憲さん、辞書は二冊持っている。

子供の頃から使っている三省堂版『広辞林』と数年前ブックオフで入手した、岩波版『広辞苑』。

『広辞林』は現在の三省堂版『大辞林』の前身である。

これが、日本の中型辞書のツートップである。

この映画の中にも天下の大辞典『広辞苑』は要所要所に脇役としてでてくる。やはり、辞書の王様としてのオマージュなのだろう。

そして、この映画『舟を編む』で編集されるのが架空の辞書、『大渡海(だいとかい)』。広い言葉の海原を渡っていく舟としての辞書として名付けられ、そしてこの映画のタイトルはその舟を編集する行為であるから『舟を編む』である。

この辞書編集映画の中でも現実にある岩波版『広辞苑』と三省堂版『大辞林』が比較対象となる。

映画の中で、馬締の上司となる小林薫演ずる荒木が辞書編纂に携わる者をリクルートするために、『右』の意味をたずね回る。

みぎ【右】

憲さんも調べてみる。

広辞苑→北を向いた時、東にあたる方

広辞林→南に向いたとき西にあたる方

お互い、真似はしたくないようだ。

ちなみに、

ひだり【左】

北を向いたとき西にあたる方(広辞苑)

きた【北】

日の出に向かって左の方向(広辞林)

じゃ、東西南北、右左の概念を知らない人にはどうやって説明するのよ?

ちなみに、この映画で右の定義を加藤剛演じる辞書編集主幹はこう言っている「数字の『10』の『0』のほう」

明快である。

しかし、このように「木で鼻を括る」ような語釈を辞書編集者は日々真剣に考えていることがこの映画でよくわかった。

この『大渡海』、「日々変化を遂げる日本語を解説する『今を生きる辞書』を目指す」のが編集方針である。私もこれには大いに賛成である。

映画の中で「ら抜き言葉」についての辞書編集部の考え方と、「憮然」の意味が語られるシーンがあるが、大変興味深い。

「ら抜き言葉」については、この映画でも肯定的に語られるが私もそれには賛成である。

「音便」が日本語の歴史の中で発音の便宜上、変化していったのと同じ?ように、「ら抜き言葉」も多様な意味から「ら」をぬくことにより、「可能」の意味のみを抽出したと考えればきわめて合理的ではないだろうか?

では「憮然」はというと、これはデジタル大辞泉から引用しよう。

ぶ‐ぜん【×憮然】

[ト・タル][文][形動タリ]失望・落胆してどうすることもできないでいるさま。また、意外なことに驚きあきれているさま。「―としてため息をつく」「―たる面持ちで成り行きを見る」

[補説]近年、「憮然たる面持ちで」とした場合、「腹を立てているような顔つき」の意味で使われることが多くなっているが、本来は誤り。文化庁が発表した平成19年度「国語に関する世論調査」で、「憮然として立ち去った」の例では、本来の意味とされる「失望してぼんやりとしている様子」で使う人が17.1パーセント、本来の意味ではない「腹を立てている様子」で使う人が70.8パーセントという逆転した結果が出ている。

と、補説で誤用を解説してくれて、有難い。

ちなみに憲さんも70.8パーセントの一人でしたが、あまりピンとこない。

さらに、誤用が定着した例としては

「気が置けない(きがおけない)」

「流れに棹さす(ながれにさおさす)」

「情けは人の為ならず(なさけはひとのためならず)」

「役不足(やくぶそく)」

など、枚挙に暇がありませんな。

憲さんは基本、言葉はそれを作り出した先人の意向を尊重して本来の意味で使いたいのですが、それを誤用したのも多くの先人であり、それが定着したらそれもまたやむ無しとは思います。

しかし、本来の知識というのはそれが誤用であると理解した上で使うのが本当のインテリジェンスと考えます。

と、ここまでが数年前TSUTAYAでこの映画を借りて観たあとに興奮ぎみに一気呵成書いた感想文。

しかし、ここで長い間筆を折って放置していました。

最近再びこの映画を図書館でかりて、観直しました。

もう、加藤剛も八千草薫も鬼籍に入りました。

諸行無常を感じ、観ていて泣けてきました。

それでも、この映画、私にとって邦画として傑作の部類に入ります。(『寅さん』は別格として)

そもそも、この主人公に感情移入してしまいます。

何がいいって、この愛すべき同胞である日本人とその利用する言語のために辞書を編纂するという、途方もなく労力のかかる事業に、並々ならぬプロ意識をもって立ち向かう主人公に敬意を表せずにはいられません。

そして、彼をサポートする配偶者はじめ周りの登場人物もまた、自分の仕事に真剣でプロ意識をもってあたっていることです。

本当に心が洗われ、魂が揺さぶられ観ていて泣けますね。

なんのアクションシーンもなく、また、派手な登場人物の内面描写もないのですが、なぜかぐっとくる映画です。

主役の松田龍平の演技も秀逸です。

是非みなさんも鑑賞することをお勧めします。

最後に、この映画が『男はつらいよ』に対する最高のオマージュであることの決定的証拠を紹介します。

この映画の前半にでてくる主人公の愛猫の孫猫が後半にでてくるのですが、その猫をこの主人公がなんと!

「トラジロウ」

と名付けるのです。

(画像左端参照)

間違いありません。

信じるか信じないかはあなた次第です。

今日も私の枕元には岩波の『広辞苑』と三省堂の『広辞林』が無造作に転がっています。

どーよっ!

どーなのよっ?

参考

映画『舟を編む』のあらすじ。(wikiより。ネタバレ注意)
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E8%88%9F%E3%82%92%E7%B7%A8%E3%82%80

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原作
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