歯石をとる

　川崎市の場合、きりのいい年齢になると「歯科検診を受けろよ。金はちょっともってやるからさ」という通知がきます。歯医者にいいイメージをもっている人は少ないと思いますが、私もその一人です。穏やかに暮らしたいなら、歯科医と警察にはできるだけ関わらない方が無難でしょう。
　そういうわけで、大昔にカツ丼を食べていてものすごく歯が痛くなって以来、たまに前を通りすぎるだけの付き合いでした。ちなみに、その時は、結局、奥歯の神経を抜いてもらいましたが、それがどういうことのかは、よくわからずじまいだったりします。

　そんなこんなでやりすごしてきましたが、当然ながら、絶対に大丈夫という確信があって距離をおいていたわけではありません。素人なのだから、そんなことはわかりません。ひょっとすると、とんでもないことになっていて、いざとなってから、「せめて、あと少し早く診察していれば……」と歯科医が力なくうなだれることがないともいえません。

　そういうわけなので、これもいいきっかけだと思って、近所の歯医者に予約をとって診てもらいました。結果、「まあ、いいけど、歯石が相当たまってるね」と言われました。「そりゃ、たまってるでしょう」と思いつつ、そこで頑張るのも大人げない気がして、流れで次の予約をして歯石をとってもらうことにしました。

　翌週、2度の小休止を挟みつつ45分間ほぼぶっ通しで口の中をウィンウィンされて歯石をとってもらいました。「1時間はかからないけれど、30分はかかりますよ」みたいなことを言われていたので、その見通しの確かさに感心しました。
　終わってみると、口の中の地形が変わったような感じがしたので、そう言うと、「それが本来の形ですよ」とのことでした。
「これからは、半年に一度ぐらいは検診を受けてください」
　と言われました。来た!と思いました。営業トークをすべりこませてきたなと身構えました。

　いったい、他の人はどれぐらいの頻度で通ってるんでしょうか。よほどのことがない限り、歯科医院の敷居はできるだけまたぎたくないというのが主流派ではないかと、いまだに疑っているのですが。

　歯石というのはどうしてもたまってしまうものらしいので、そもそも人間の体というものは歯石がたまる前提でできているのではないかという疑問が、まずはあります。もっとも、そのあたりの話になると人間の体なんて寿命30年ぐらいしか想定してないけどな、なんて切り返されかねません。

　あと、これは耳鼻科で耳垢をとってもらった時にも思ったことなのですが、たくさんたまっているものをごっそり取り除くのは、それなりに愉快な作業ではないかと思うのです。耳鼻科の女医さんもなんか楽しそうでしたし。
　となると、その日は私が治療費を払いましたけど、実はこっちがもらってもよかったのではないでしょうか。
「仕事なんだから、別に楽しくはないよ。どれだけ削っても点数はいっしょだし」
　と返されてしまうのでしょうか。たしかに、「なんか面倒くさいから、今日はもうやめとく」とかはできませんが。

　そういえば、昔は本当に削っていたけど、今は超音波をあてて砕く感じらしいのですが、甲高い音が昔の記憶といっしょで相変わらず削られていると思いこんでいたので、昔は本当にいろいろきつかったな、今はこれでもずっとマシなんだなとしみじみ感慨にひたりました。

　結局、また役所から通知がきたタイミングで行くと思います。それぐらいでもないと、なかなか足が向きませんよね、歯医者。