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2020年11月30日19:43

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【映画】『ヒトラーに盗られたうさぎ』

1933年2月。ベルリンで両親や兄と暮らす9歳のアンナ(リーバ・クリマロフスキ御嬢様)は、ある朝突然、「家族でスイスに逃げる」と母ドロテア(カーラ・ジュリ姐さん)から告げられる。新聞やラジオでヒトラーへの痛烈な批判を展開していた演劇批評家でユダヤ人でもある父アルトゥア(オリバー・マスッチさま)は、次の選挙でのヒトラーの勝利が現実味を帯びてきたことに身の危険を感じ、密かに亡命の準備を進めていたのだ。持ち物は1つだけと言われたアンナは大好きなピンクのうさぎのぬいぐるみに別れを告げ、過酷な逃亡生活へと踏み出していく。

衝撃のデビュー作である『ビヨンド・サイレンス』から自分が知る限り駄作・凡作の類を一切出していない名匠カロリーヌ・リンク監督の間違いない最新作でして良くぞ買い付けて下さったと感謝しきりであります。
今回の映画で驚いたのは、1933年の時点でドイツを離れることが出来た事でして、警察官の中にも協力者の方が居て事前に情報を掴めた事と、亡命出来るだけの資金力と語学力と言うスキルがあったから出来た事でして、ベルリンにあったケンパー家では、後にナチスによって「退廃芸術」の烙印を押されてしまったパウル・クレーやカンディンスキー、キルヒナーの作品があって「反権力」を示すための巧みな美術品の使い方だと唸ってしまったのと、最初はスイスに亡命し、次はパリにて食うや食わずやの耐貧生活を送るのでありますが、このアパートメントも良く見つけてきたなぁと唸ってしまう程、アール・ヌーヴォー様式にて統一されていて目の保養にもなる嬉しい配置でありました。

この作品で凄いのはたった9歳の少女のアンナのメンタル面での強さでありまして、何があっても挫けない。家政婦さんのハインピー(ウルスラ・ヴェルナー姐さん)と別れてしまうときや、動物園に勤めていてベルリンから絵葉書を送ってくれるユリウスおじさん(ユストゥス・フォン・ドホナーニさま)との一件の時は心が折れそうになりますが、健気に前を向いて歩いていく姿は、文部科学省特別選定(青年、成人、家庭向け)他を初めとしてこの生きにくい世の中だからこそ観て欲しい真摯なメッセージに溢れております。

ユリウス叔父さんがベルリンから送った絵葉書の柄がアルブレヒト・デューラー作『野うさぎ』(ウィーン・アルベルティーナ美術館蔵)であることも泣けて参りますが、これは亡命した先でももいろうさぎのぬいぐるみを手放さざるを得なかったアンナへのメッセージと彼が送らざるを得なかった哀しい末路に重ね合わせてのことでしょう。

書きたいことは山ほどありますが、兎に角観て欲しい一本でありまして、観終わったあと少しだけ息をするのが楽になる映画であります。


https://pinkrabbit.ayapro.ne.jp/
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