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2020年10月08日15:59

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夏目漱石「こころ」


 高2現代文の定番教材に、夏目漱石「こころ」がある。既に10回以上は扱っているが、教材研究もそれ位はしていることになる。現役の頃と違って真面目な昨今、授業ノートにまとめたりしている。2〜3年毎に書き直したりしているが、今回はその一部「Kの人物像」に焦点を当てて、手を加えてみた。以下に長々とそのコピーを貼り付けた。
読んで下さった方で、もしここは違うという解釈などがあれば、是非ともお教え下さい。
〈鑑賞…Kの位置づけ・人物像〉
(1)天涯孤独なK
「私」と同郷の幼馴染であるKは、真宗の寺の次男であった。医者の家に養子にやられたが、勝手に別の科に進んで養家から離縁され、実家からも勘当されて、天涯孤独の身であった。
ここにKの原点の全てがある。誰も頼らず強く生きて行こうとしたのだろう。窮乏して、夜学の教師などをして過労・神経衰弱だったが、「私」の援助で下宿に同居することになった。「私」が畏敬の念を抱くほど意思強固な勉強家のKは、他人に無関心で頑なに孤独に生きようとしていた。唯一の友「私」を通してのみ外界とつながっている有様だった。
(2)「道」という自分だけの世界
Kは、「道」のために全てを犠牲にして「精進」することを第一信条としていた。自分が精神的に向上して天に達するような道を究める、ということだろうか。欲を離れた恋も道の妨げになるというものであった。厳しく自分を律して精進する日々を積み上げて行き、尊い過去を振り返ってはその指し示す道を将来も歩み続けようとするのだ。
そんな過去から未来につながる自分だけの閉塞的で観念的な世界に一人生きるKは、自分のことだけを考えている利己主義者と言えよう。
また度胸と勇気、強情と我慢がある果断に富んだ性格でもあった。それに対し、叔父に裏切られてから人間不信に陥り、他人の心ばかり気にしながら生きている「私」は対照的で、Kは強くて何をしても及ばないというような屈折した思い を抱いていた。
(3)人の心とKの人間らしさ
しかし、天涯孤独な身で全てを犠牲にして求道に精進して生きることは、人間として可能だろうか。恋愛も友情も妨げとなる生き方など有り得ないはずだ。Kも人の心や愛と全く無縁に生きることはできなかった。
下宿での「私」の存在、奥さんやお嬢さんの家族同様の世話が、Kの心を次第にほぐしたようだ。ある日、自分だけの閉塞的で観念的な世界に、一筋の光明が射し込んで来た。お嬢さんへの恋だ。初めての経験であり、これは何だという戸惑いを覚えたに違いない。求道的な生き方に背くものでもある。理想との矛盾に彷徨する苦悩を、唯一の友の「私」に自白・相談した。Kは、恋をし、自分から心を開いて他者の世界を受け入れようとする人間らしさがあったのである。
「精神的向上心がない……」と激しく指摘された夜、黒い影となって不思議な言動をしたのも、仕切りの襖を開けて自殺した晩も、そうだった。信用する友に心を求めていたのだ。裏切りを知らなかったKは、仮病だった友を気遣う言葉もかけている。思いやりがあり優しい性格のような、正直な道を歩くつもりでつい足を滑らし、友人を裏切る結果になった「私」とは違う。
純粋で正直な心の持ち主であって、友を信頼する善良な青年だったのだ。
(4)決して強くはないK
また、一度決めたら動くことはない意志強固なKは、決して強くはなかった。理想との矛盾に苦悩するKは、「私」にそんな強くはない自分を曝け出さずにはおれなかった。矛盾を友に指摘され、「僕はばかだ…覚悟ならないことはない」という夢の中のような言葉も弱々しい。自尊心の強いKは、過去の言動との矛盾に耐えられない自己否定の思いがあったのだろう。自分から心を開いて受け入れようとした唯一の友の言葉でもあったからだ。
「私」の裏切りを知った「最後の打撃」は、最も落ち着いた驚きで、超然とした態度を保っていたが、実際の心の中はどうだったろうか。次々と人間関係を断ち切られ、初めて経験する恋も永遠に失う絶望の中で、唯一の友「私」を通してのみ外界と繋がっていたが、その友も自分を裏切っていたのだ。理想も友も恋も、自分を支えてくれるものは何もないのだ。人間であるKは、決して強くはなかった。自分を超越して天に達するなどいうことはないのである。
(5)利己主義者ではない善良な青年K
Kは、自分だけの世界で自分のことだけを考えている意志強固な利己主義者のように思える。自分の信念に生きる人間で、他者の世界を認めはせずに、一方的に自分の世界に相手を巻き込む所があるように見える。しかし、そうではない。実は、天涯孤独で、閉塞的な世界で自足しているのではない。心の奥底では人の心や愛を求めている、正直で純粋な心の持ち主で優しく思いやりのある、善良な青年なのだ。自尊心が強くて それを見せないだけなのである。
          (次回は「Kの自殺」について書いてみたい)
それから、昨日10/7の事だが、梅花の元同僚(山崎T能多T)と飲み会の話が持ち上がっていたが、事情があって残念ながら欠席することにした。
山崎さんのFaceBookの記事を読ませて頂いたところ、写真が掲載されていたので、勝手に失敬することにした。宜しく! 
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