無言歌は続く

　ほぼ終日の雨　冷たい雨　雨　雨・・・　鍼治療に行って帰宅　コタツでひと眠り　と思って入ったら　そうだ　どうせ暇なんだから医者にでも行って薬でももらってこよう　と云ふことでかかりつけ医に出向く　なんと先客一人のみ　先客とはいわんか　すぐに呼ばれて　薬をもらって30分で家に戻る　母曰く　早いねー　

　昼過ぎに二枚目を聴いたので　今宵の音楽は　3枚目
　Disc3
　第2巻　四重奏曲ニ短調
　第2巻　協奏曲ヘ長調
　第2巻　トリオ・ソナタ ホ短調
　第2巻　ソロ・ソナタ イ長調
　第2巻　終曲 ニ長調

　Disc2はこの内容
　 第1巻　トリオ・ソナタ 変ホ長調
　 第1巻　ソロ・ソナタ ロ短調
　 第1巻　終曲 ホ短調
　 第2巻　管弦楽組曲（序曲）ニ長調

　コンチェルト・アムステルダム
　フランス・ブリュッヘン（指揮）
　ブリュッヘン　レオンハルト　ビルスマ　シュレーダーら古楽界の大物たちが集ってのテレマン　しかも　モダン楽器を使っての演奏　これ以上の演奏はないと思う

　今宵二枚目は　Disc4
　第3巻　管弦楽組曲（序曲）変ロ長調
　第3巻　四重奏曲ホ短調
　第3巻　協奏曲変ホ長調
　第3巻　トリオ・ソナタ ニ長調
　第3巻　ソロ・ソナタ ト短調
　第3巻　終曲 変ロ長調　　この作品は　宮廷の祝宴の行事を一段と美しく彩るための音楽である　ブリュッヘンは　現代の楽器を使用している所為か　音色は明るく煌びやかで　音楽を楽しむ喜びが溢れている


　夏目漱石の言葉

　自分がここに来る一年前に　人間に生まれたことを後悔した時があった　自分は人間に生まれたいと思って人間に生まれたのではない　人間がどんなものであるか　この世がどんな処か知らずに生まれてきた　この人生がもっと醜い悲惨なものであって　人間のできがもっと絶望的にできてゐても自分は小言の言へない人間だ　またこの世がもっと悲惨で　なんらの希望もなく　天災が続いて起こり　見るもの聞くものがもっと不愉快であっても　自分たちは小言を言へない　だまされて生まれてきたのではないから　わたしは人間に生まれてきたことを後悔した時も　この世に美があり　人間に善人と　美人と　賢人と　聖人のいてくれることに感謝し　草の青く　空や水の色が限りなく美しく　日の形や色　月の形や色　花の形や色　その他のものの形や色の限りなく美しく　小鳥や　獣の可愛らしい姿を感謝した　しかし人間があまりにあはれで　そしてこの世に生きてゐる間のあまり短く　人生の無情なのをなさけなく思った　自分が　死んでも生きても　どっちにしても同じであることを感じた　苦しんで生きてゐる甲斐のない人生だと思った　一思ひに死ぬほうがどんなにさっぱりしてゐるかわからないと思った　しかし自分は死ぬことはできなかった　何かこの人生に未練をのこすものがあった　何しても始まらないし　何しても同じことだと思って死ぬのは心残りだった　自分は亡き父や母の意見を　自分の内に感じることができた　それは自分に立派な人間になってくれと云ってゐた　そして自分たちが地上に行かしたく思っていかせなかったことを生かしてくれと云ふように思へた　自分もこの世に人間として生きてきた以上は何か人間のために働いていきたいと思った　働いても始まらないと思ったが　それでも何かしてゆきたいと思った　少しでも人間に役に立つことを何処かにしてゆきたい　自分にはそれができるとは思へなかったができるだけのことをせずにできないと見切りをつけるのは自分をつくったものにすまないと思った　自分はそう思うと元気になれた　人間よ　わたしはあなたの為に働きます　愛すべきあなたの為に　自分の力は少ないでせう　だがあなたの為に働きます　自分はそう決心をした　自分はその時分よく旅行をした　そして山路を歩きながらそんなことを考てゐた　そしてお役に立ててください　どうかお役に立ててください　自分の一生をその為にお使ひください　自分は祈りの気持ちでさう云った　自分の心は安まり　嬉し涙が出て来た　人間はくだらない　つまらないものだと思へば思ふほど　愛を感じ　出来るだけ　人間の為に働き　そして人間は生きがいを感じられる動物だといふことを本当に知る為に働こう　地上にある　金剛石や菌を見出す為に人々は随分骨を折る　自分は人間の心のうちにある人間に生きがいを与へてくれる宝を見出すものになろう　自分はさう思った時　勇気を得た　自分は日が暮れてから寂しい峠を　そんなことを考えて夢中に歩ゐた　すると　峠をこして少し行った時　町のあかりが見へた　家々から燈火がもれた　自分はそれを見た時　本当に躓いて祈った　人々よ　幸福でゐてくれ　私はかくれてゐる処であなた方の為に働きます　自分は泣いてしまった　自分は今でもその気持ちをよく思ひ出す
　そして人生に対する希望をとり戻す　人生のために働いてくれたものすべては自分の師だ　自分はその末席にゐて　自分の一生を少しでも人間の御役に立てることが出来ると嬉しいと思ふ　君はそう思はないか

　思ひます　自分は涙ぐみながらさう云った　そして私は今更に尊いと思った
　武者小路実篤