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2019年12月04日12:30

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【殺し屋】『アイリッシュマン』楽しみ方のツボ




12月1日、シネリーブル梅田にて鑑賞。
1日1回興行で、劇場に着いたら立ち見席まで完売していた。予約して正解。

 http://mixi.jp/view_voice.pl?post_time=20191130193539&owner_id=1833905


レビューの方で言及した予習用ネタバレ記事、私が読んだ中ではこの2つがお勧め。

 http://cinemandrake.com/irishman
 https://www.monkey1119.com/entry/irishman-netflix-movie#

これらを読めば作品を概観できるので、私は違う観点からレビューしたい。



本作はリアリティを追求しており、基本的に大げさな演出はない。
(昔のギャング映画は、マーベル作品みたいにド派手なシーンがあったけどね!)

その分、意味を読み解いて「地味にゾクゾクする」(笑)面白さは満点だと思う。
物語はさらっと流れていくが、特に前半は重要エピソード満載なので要注意。
だから、2度、3度と観るたびに面白い発見が増える気がする。

たとえば。

老フランク(デ・ニーロ)は、ラッセルと初めて出会った頃の自分はまだ
裏社会の隠語「家にペンキを塗る」を、字義通りの意味でしか理解していなかった、
あの頃の俺は呑気だった、と回想する。

「 I HEARD 」 「 YOU PAINT HOUSES 」 と黒バックに極太の白抜き文字。

画面いっぱい、タイトルのように提示される。 つまり、これがテーマだ。

(ちなみに、「The Irishman」というタイトルはエンドでしか提示されないが、
 「I Heard You Paint Houses」は冒頭とエンドで2度、提示される)

これがキーフレーズだなと思って気をつけながら観ていくと、
随所で「あーなるほどね」と感心する仕掛け。



直接的な例は、「お前、家の壁を塗るんだってな」と言われたフランクが
ターゲットに至近距離まで近づいて急襲するシーン。
撃ち抜いた頭部から噴き出した血飛沫が、バッと白い壁面に広がる。

(これが「家を塗る」という意味かーー) 

本物の暗殺者とは、ゴルゴ13のように見るから物騒な男ではないのだ、と悟った。

フランクは覆面を付けず、普通に歩いてターゲットに近づく。相手は気づかない。
すれ違いざま、素早く弾丸を撃ち込んで仕留め、何食わぬ顔で足早に立ち去る。
その姿は驚くほど周りに溶け込んでいる。だから、彼は捕まらない。

若い頃のフランクは人の良さそうな感じで、およそ殺し屋には見えなかった。
でも、平然と、確実に、手際よく、人を殺せるし、実際に殺してきた男だ。
慧眼なラッセル・ブファリーノ(ジョー・ペシ)はそんな彼の才能をすぐ見抜いた。


フランクとラッセルが初めて出会ったのはガソリンスタンド。
トラックの故障で往生するフランクに目を留めたラッセルが親切に助けてやった。
マフィアの大ボスになど見えない。洒落て気さくで賢そうな男だ。

「車に詳しいな」と感心するフランクに「店をやってるからさ」と答えるラッセル。
「どこの店だい?俺はフランクって言うんだ」と言われても、微笑んで名乗らない。
ラッセルの目はどこか謎めいている。簡単に素性を明かさない慎重さが窺える。
のちに、フランクはラッセルがその辺一帯の店全てを取り仕切っていることを知る。


彼らの再会は、フランクの弁護士でラッセルの従兄弟であるビルがもたらした。
肉を横流ししたトラック運転手フランクを、ビルは「裏の仕事に使える」と見込んだ。
2人はすぐに意気投合、ラッセルはイタリア語が流暢なフランクを気に入った。

「イタリアで4年ほど従軍しました」とフランクは自分の過去を話し出す。
「ほう、どこへ行った?」と問うラッセル。地名がいくつも挙がる。
一見、とても和やかな会話。まるで故郷を懐かしむかのよう。でも、実は違う。
あれはおそらく、生還至難の激戦地だったはず。

この男は、卓越した状況判断力と殺人スキルを持ち、数多くの修羅場を踏んできた。
暗殺者に打ってつけの人材だとラッセルは気づいたに違いない。

そのとき、ふとフランクが思い出して語る。
「従軍中わからなかったことがある。捕虜がなぜ、大人しく自分の墓穴を掘るのか」

観客に回想シーンが提示される。フランクに命じられて深い穴を掘る男が2人。
フランクは上から2人にライフルを向け、逃げないよう見張っている。
ここまではよくあること。捕虜は大人しく従っている限り殺されないと信じている。
だって、それが国際ルールだから。

ところが、「よし、やめ」の声で穴から上がった2人を、フランクは突然撃った。
1人目は考える間も無く即死。2人目は「やめてくれ!」と哀願したが殺された。
フランクには、ためらいも哀れみもなかった。ただ淡々と始末し、死体を埋めた。

これだけで、フランクの特異な二面性と豹変時の冷酷さは過不足なく説明された。
(のちに、親交が深かったジョーを悩んだ末に一瞬で暗殺する件へと繋がる伏線)
倫理など意に介さず上官の命令に従う反社会性も見られる。

ラッセルはフランクの才能を確信し、自分直轄の子分にした。



特異な才能といえば。
フランクの娘・ペギーも、並外れた洞察力と正義感の持ち主だった。

彼女は幼い日、父親がグロサリーの店員を激しく暴行する様を目の当たりにし、
(フランクが凶暴性を露わにしたのは、後にも先にもこのシーンだけ)
「パパはひどい悪事を平気で働く、恐ろしい人間だ」と見抜いてしまう。
自分への愛情からつい仕返しが行き過ぎたとは思わない。以来、彼女は父を疎む。

ペギーは、父と仲良しで、彼女を可愛がってくれるラッセルのことも疎んだ。
フランクもラッセルも、家族の前では良き家庭人の顔しか見せないにも関わらず。
引っ込み思案のペギーは、本質を鋭く見抜く目と、強い意思を持つ少女だった。
そのせいだろうか。
ペギーは、全米トラック運転組合(チームスター)委員長のジミーにだけは懐いた。
労働者を束ね、裏ではマフィアと組む強面のジミーも、ペギーをとても可愛がった。

だから、ジミーが失踪した時、ペギーは父が殺したのではないかと直感した。
彼の失踪2日後、帰宅した父に「なぜすぐジョーに電話しなかったの?」と鋭く問い、
返事に窮した様子を見て、父が殺したと確信。その瞬間、心の中で父と絶縁した。

フランクはペギーを他の娘たちよりも愛していた。いや、気にしていた。
なんとかしてペギーと和解したいと思っていた。だが、彼女は冷たく拒絶し続けた。



…こういった、深い人間ドラマが淡々と描かれていく。

ジミーの迫力ある演説など目の覚めるシーンもあるが、殺しは概して短いし地味。
でも、実際はこんな感じなのだろうと思わせる説得力に満ちている。

ラッセルもフランクも、かつて自分達がしたように、新興勢力に追い落とされた。
彼らは法曹を抱き込み、罪をでっち上げて、老いた邪魔者を刑務所に送り込んだ。

よぼよぼのじいさん達が平和に過ごす刑務所の日常は、ペーソスにあふれていた。
ラッセルは死に、フランクは右足に麻痺が出た体でひとりぼっちの自宅に戻る。
ひっくり返っても介助する人は誰もいない。よたよた歩く姿は哀れだ。

いくら金や力があっても人間の最後は寂しいもんよなぁと、先を考えて暗くなった。
「悪事を働いた末路はこうだ」という安い説教ではないからこそ身につまされた。
老人ホームに入った父を思った。父の顔は少しデ・ニーロに似ている。




『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』に匹敵する製作費をかけて作られた
『アイリッシュマン』を、できれば大劇場のスクリーンで観たかった。

私は数年前から IMAX 愛好家だが、予告編がマーベル作品だらけなのが寂しい。

確かに、「ドーン!」「バーン!」「ガーン!」系の作品は IMAX に向いている。
でも、そ れ ば っ か り じ ゃ つ ま ら な い のだ。

揚げ足を取られて世界中の顰蹙を買ったスコセッシ監督の真意も同じだと思う。


 マーティン・スコセッシ:
 (マーベル映画は)新たなアートの形であって、
 劇場で普段かかっているような映画とは違うというだけなんです。
 そして私が危惧しているのは、そんな新しいアートの形である
 テーマパーク型映画にスクリーンが奪われてしまうことです。

 映画(シネマ)は今変化していて、様々な上映場所や製作方法があり、
 非常に楽しめるものとなっています。
 だから遊園地のようなイベントに行きたければ行けばいいし、楽しめるでしょう。

 ただ、グレタ・ガーウィグやポール・トーマス・アンダーソン、ノア・バームバック
 といった人たち(の作品)を、劇場から追い出さないで欲しいのです。

  https://www.gizmodo.jp/2019/10/anti-marvel.html



世界的興収が見込める大衆的作品でなければ、内容は良くても資金繰りに困る。
そんな苦境の中、ネットフリックスという救世主が現れた。
既存の映画業界が目の敵にするネットフリックスに、スコセッシは望みを賭けた。
オスカーは獲れないかもしれないが、どうしても撮りたいという執念を感じる。

今どきギャング映画かよ。しかも3時間半って!
世界中からそう呆れられながらも、この作品がヒットしたら痛快だな。
オスカーを獲ってシネコンで凱旋上映されたら面白いのに。

そんなことを夢想している。




【関連】「アイリッシュマン」は世界の曖昧さを知る、大人のための傑作
 https://www.machikado-creative.jp/introduction/76289/

 記事中に貼られた予告編のセリフで、「これは役に立つ警句!」と唸ったもの。

 「銃を持っている相手には迷わず飛び掛かれ。だが、ナイフだったら逃げろ!」



http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=1833905&id=4859961


予告編を見て「これは絶対に大きなスクリーンで観なきゃダメな作品でしょ!」と直感。劇場公開情報をキャッチしたので、予習の上、馳せ参じた。
210分、インターミッションなし。覚悟はしていたがお尻が痛かった。笑
でも、これはやっぱり観に来て良かった!と満足。
3時間半を楽しめるか寝るかは、覚悟と事前準備と長尺作品の経験値とにかかっている。

登場人物は似たようなおっさんばかり、さらに固有名詞が山ほど出てくるため、短期記憶に自信がなかったり、アメリカ現代史の知識がなかったりすると、話に付いていけない。だから、事前にネタバレあらすじ解説でも読んで観るのがお勧め。

あと、セルジオ・レオーネの遺作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』を知っていたら、すごく楽しめると思う。若き日のデ・ニーロやジョー・ペシが出ているマフィア映画だから。

本作は莫大な費用をかけ、ILM(インダストリアルライト&マジック)の特撮技術で役者を若返らせている。だから、若い頃の彼らを知っていた方が「おおーっ、すげーっ!これぞ映像マジック!」と感動できる。これは地味だが重要なポイントだ。熟練の演技力を誇るデ・ニーロが、若い頃からよぼよぼの爺さんまでを演じ抜く姿を観られるだけでも凄い価値あり。特殊メイクとは別次元のナチュラルさだ。

派手な殺戮や爆破などで子供にも分かりやすくアピールするのではなく、一見地味だが実は凄い!と随所で通を唸らせる。わかる人にはわかると思う。
いろんな視点で楽しめる作品だし、殺しにも人生の栄枯盛衰にもリアリティがあって考えさせられた。ちょっと新感覚のマフィア映画だ。
「お前は家にペンキを塗るそうだな」が意味深。

凄腕の殺し屋であるデ・ニーロは「ほのぼのクマさん」的な父親で、晩年は老人ホームでひっそり暮らすという設定が、そもそも面白い。一方、古い映画ファンなら涙ちょちょ切れる重厚なシーンも多数あり、甘辛のバランスも良い。




ハウプマンさんの超詳解!「アイリッシュマン」感想日記 2026年02月01日
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1991538731&owner_id=6007866




【INDEX】映画/舞台 関連日記(2)2019〜
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1979079540&owner_id=1833905


 
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