イモートが結婚して家を出て、家族が3人になって数年経った頃、ある夏の日、台所で炊事をしているハハを見ながら、ワタシはチチに尋ねた。
「オトーサン、オカーサン最近ちょっとおかしくない?」
「あんなもん、ぼけとるやろ」、
その頃ハハは怒りっぽくなって、頑固になって、同じことを何度も聞くようになっていた。
「あ。やっぱりオトーサンもこれまでと違う何かを感じてたんだ」
多分その秋にチチが急逝した。
惚けかけた妻と、ボーっとしたムスメを残して逝くのはさぞかし心残りだったろう。
もしかしたら「ワシの介護はせんでもええから、カーサンをたのむ」だったのか。
チチが死んだのは18年前である。
ワタシのハハの介護を始めてから8年目。
ハハはとてもしっかりした人で、滋賀県からチチの遺体を1人で引き取って帰ってきたのと、800人くらい弔問客のあった告別式を、喪主としてしっかりとりしきり、オンナを揚げたのだった。
だからさ、ワタシもチチと話してたことなんてころっとわすれちゃったのよ。そんなことができちゃったから。
今思えば、チチの事務所を片付けるのも、香典返しの一覧もワタシとワタシの友達とイモートの友達にまかせっきりだったし「老人うつ」みたいな状態だったようにも思える。
認知症になっていくまでの間、ワタシは仕事をしていて、ちょこちょこ遊びに行ったりしていたのだけれど、ハハは自分の中で起こる出来事にどんな不安を感じていたのだろうか。
今、ワタシが後悔することでもないんだけど。
チチが死ぬのがもう少しおくれていれば、状況は変わったんだろうか。
もうちょと、なんか話をしておきたかったような。
まー、変わったって言っても、介護期間が延びるくらいやけどさ。
ログインしてコメントを確認・投稿する