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2019年06月12日16:02

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靴の話

職場体験といって、仕事場に中学生たちが来たことがあったけれど、現場はどこもここも個人情報ばかりでうかつに外の人間に触らせられない。結局、窓口に並んで立って、日がな一日「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」を唱えていたり、封筒を折らせたり、裏紙を作らせたり。「なるべくゆっくりね」なんて、一言添えて。
これが一週間続く。
大義名分はいろいろあるだろうけれど、どうも教育活動として成功しているとは言えないんじゃないだろうか。
受け入れる職場の人たちも大変だけれど、中学生本人だって、こんな生殺しのような一週間が有意義とも思えない。苦痛であろう。

で、我が家の中学生、橙助が体験する職場を選ぶにあたっては、ちゃんと「数に数えられる」メンバーとなれるものをと、アドバイスしたのだった。どうせやるなら、がっつり働いた方がいいよね、と。

ということで橙助が選んだのは農家。彼が線路向こうの農園へと向かう初日。
なんだか、玄関で家内と、がやがややっている。ゴム長がないらしい。
「昨日のうちにいってよ、そういうことは」
「いいよ、いらねえよ」
「スニーカーで農作業する人はいないよねえ」
「大丈夫だって。別に言われてないんだから」
で、結局、靴に泥が入ったとか言いながらやり続けた。思春期の中学生はゴム長を履くのにちょっとした抵抗があるらしいのだ。

玉ねぎ、ネギ、胡瓜、茄子、ジャガイモ

毎日お土産にもらった大量の農産物とともに帰宅する橙助。君は、ごんぎつねか。
仕事は、玉ねぎの収穫、ネギの袋詰め、各種野菜の出荷配達作業。
がっつり働いてまんざらでもない顔だ。トラクターも運転させてもらえたらしい。

そんな一週間を終えて、橙助が一言。
「靴が、欲しいんだよね」
ああ、通学に使っている、そもそもぼろくなっている赤い靴が、農作業で泥だらけだ。
「買うよ、新しいスニーカーな」
「いや、それもそうだけど、違うんだよ」
「何?」
「いや、、、黒い靴」
「黒いスニーカー?」
「違うって」
「なんだよ」
「ほら、楽器、吹くときとか、、」
「あ!」

そういえば数日前、農作業から帰ってきた彼は、その靴のまま、夕方出かけて行った。出かけた先は、最近参加させてもらっているジャズセッション。

「ステージで履く靴か?!」
「うん」
「そうだな。そうだ、そりゃそうだよな」
「あの靴じゃさあ、、、」
「黒くてフォーマルっぽい、その時にしか履かないそういう靴な」
「そう、そう」

こりゃ気づかず、すまなかった。
彼に新たに芽生えた自意識を新鮮に感じながら、早速「靴流通センター」へ二人で向かったのでした。

中学生の一週間の目まぐるしいこと。










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