2019年１月14日 14:00開演
会場及び主催：いずみホール
今日も楽聖に招かれて、いずみホールまで。
レミ・ジュニエさんは1992年フランス生まれのピアニスト。大きな実績としてはエリザベート王妃
コンクリートの２位であろうか。私は2011年のボンの国際ベートーヴェンコンクール入賞も
気になる。
今日は、いずみホールが推薦する、次世代を担うピアニストの魅力を届けて頂くシリーズ。
曲目
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750)作曲
カプリッチョ変ロ長調「最愛の兄の旅立ちに寄せて」BWV992
1703又は1704年に大バッハのすぐ上の兄ヨハン・ヤーコプ(1682〜1722)がオーボエ奏者として
スウェーデン王カール12世の軍楽隊に入る事になり、その旅立ちに贈られた、とプログラムノート
にあった。全６曲。初めて聴く。別離の悲しみも感じるが第１曲と第５・６曲は変ロ長調で書かれて
おり明朗。18歳の作品とは思えない。終曲などはフーガが現れる。
レミ・ジュニエさんは本曲を収録しており観客の評判も良かった。
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770〜1827)作曲
ピアノソナタ第23番ヘ短調「熱情」Ｏｐ．57
バッハと並んでドイツ３Ｂに数えられる今回、私の目当ての作曲家であるベートーヴェンが登場。
「熱情」は三大ピアノソナタに挙げられる代表作であるが演奏困難な曲である。では構造が
難しいかと言えば、そうとも言えない。本曲はヘ短調で書かれているが主和音ファ♭ラドを
ひっくり返してド♭ラファーと始まる。ベートーヴェンお得意の属音始まりだがホールが不気味な
雰囲気に包まれる。２回目の提示で「運命の動機」が現れる。作曲された1804〜5年、並行して
交響曲第５番を作曲していた(こちらの初演は1808年)。これが現れると曲調が激しくなる。
レミ・ジュニエさんは力任せに、というより全身で弾いているという感の強奏であった。
３回目の提示で旋律を分断して和音による激しい上下動が挟まれる。先例は「悲愴」で、
しかしながら動き自体が、より激しい。これは作曲当時に手にしたエラール社のフォルテピアノ
が関係している。要するに鍵盤の数が増え、表現の幅が広がったのである。
激しさに目を奪われがちであるが第１楽章、実は暗黒の静寂に戻って終わる。
第２楽章はAndante con motoで緩徐楽章であるが変奏曲となっている。ピアノソナタがＯｐ．２
から晩年まで取り組んだジャンルならば変奏曲は20歳頃からＯｐ．120まで取り組んだ何れも
生涯を通じてのテーマであった。主題は主調の属調の平行調変ニ長調。ゆっくり弾かれていた。
主題と４つの変奏から成るが第３変奏はテンポアップ。第４変奏で主題が出て来てテンポも
戻るが、和音が２回奏される。１回目は静かに、２個目は強烈な不協和音。これを
タータタータタと強く弾かれて終楽章へ突入。この方法は、まさに「運命」で後に使われる、
アタッカ。最後の楽章は暗い情熱に満ち満ちているが、実は第２楽章の最後の和音が再現
されたりもする。Allegro ma non troppoと指定されている。速く、しかし甚だしくなく。感覚的には
字義通りの演奏であったかと思う。本曲は1838年つまりベートーヴェン死後に４手連弾版が
出た際に出版社が命名した。しかし、あまりにも性格と合致する。理由は又しても伯爵令嬢との
破局。「愛してはいけない相手なのに」とベートーヴェン自身が手紙を残している。
叶わぬ恋なのを分かっているのに恋する苛立ち。しかし、ほんの少し光が射す。元に戻る
ような所から一気呵成のPresto。実はコケやすい場所で、やってしまった。
ヘ長調への転調。しかし再びヘ短調へ戻って激しく終わる。
ダイヤの原石を見たような演奏であった。今のところは原石。30代になって彼が、どんな「熱情」
を弾いているか。楽しみである。前半が終了し20分休憩となった。
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