ドラマ版の“昭和元禄落語心中”が始まった。１話を観たのですが、結構短縮されてはいましたが、それでも、頑張って作ってくれていました。
私、最初雲田さんの漫画を読んだ時、初老の八雲のイメージは、篠井英介氏だったのですが、その篠井氏が松田さん役で出ると言うミラクル。ちょっと色気あり過ぎの松田さんでしたが（笑）。案の定、ツイッターに「篠井英介が八雲の方が良くない？」と書いてた人も結構いた。でも、篠井氏の年齢だと八雲は出来ても、菊比古は出来ないと思う。逆に、岡田氏は八雲はイマイチでも、おそらく菊比古はピッタリではないかと。
落語監修を、柳家喬太郎氏がやっていて、『出来心』と『野ざらし』のドンドンドン「１円くれ」が、喬太郎氏の型でやっていて、ちょっと嬉しかった。
既に、１話目の八雲の「そん時ゃ、諸共心中だ。」で泣く。いや、分かってはいるんですよ。この物語、落語も含む、お笑い・芸人好きには辛い物語だって。芸人が背負ってしまった業を思うと辛くて泣けてくる。それでも観てしまう。そんな業など捨ててしまえ！と思うも、それを捨てられるくらいなら、ハナから芸人なんかにゃならないわけで。
その少し前、『チコちゃんに叱られる』という番組をやっており、それに立川志らく氏が出ていた。チコちゃん（中の人は木村佑一氏）に「この人、師匠（立川談志）に、『築地に修行に行って来い』って言われて『嫌でございます。』って言ったのよ！それで師匠が『じゃあ破門だ』って言ったら『それも嫌でございます。』って言ったのよ！」と言われて、志らく氏「でも、アタシはそれで師匠に可愛がられた。」とシレっと言っていて、笑いながらも「そうでしょうよ。談志氏は自分が捻くれ者だから、捻くれ者が好きだもん。しかも、斜め上の回答を出して来る捻くれ者が好きなんだよ。」と思いました。
因みに、志らく氏は、談志氏に「じゃあしょうがねえ。」と言われ、実際破門にもならず、築地修行も免除された。
このエピソード。後に、談春氏が知って驚くんだよね（真面目な談春氏は、ちゃんと築地修行に行った）。「そんなのアリなのか？！」と訊く談春氏。志らく氏は「だってアタシはどっちも本当に嫌だったんだもの。」と答えた（笑）。
そんな変な弟子がいる談志。その談志の師匠は柳家小さんだ。
小さん氏が亡くなった時から暫くして、談志氏の独演会があり、私はそれに行ったのだが、その時、談志氏は“蜘蛛駕籠”をやった。蜘蛛駕籠は、小さんの十八番でもあるのだが。その時、談志氏は「私は、小さんには可愛がられてたんですよ。掃除サボって寝てたら、小さんが布団をかけてくれた。あのぶっきらぼうな小さんがですよ。」と言った。後に意見の相違から、袂を分かつ２人だけれど、どうもその辺りを面白可笑しく雑誌に書かれたコトに、談志氏は未だに納得してなくて、「それをマスコミが面白く…」と言いつつ言葉を濁していた。忸怩たる思いがあったのかな？とも。
そんな思い出話をした後、やおら談志氏は「いいかい？今日は蜘蛛駕籠をやるよ。小さんが教えた通りにやる。一言一句そのままやるよ。」と静かに言った。その時の言葉は静かだったのに、私にはその時、談志氏に纏う空気が変わったのが分かった。自分が受け継いだ芸の重さや、狂気にも似た狂おしさや、そんな物がないまぜになった物。「ああ、この人は、何かを背負っている。」と思った。その時は分からなかったが、それも“業”だったのではなかろうか？芸人だからこそ持ってしまった業。捨てられない業。
言葉通り、小さんの蜘蛛駕籠をやっていたと思う。「へいかご、へいかご。」
談志氏は喉頭ガンの手術で言葉を失った。その時、手術に向かうベッドの上で、何かぶつぶつ言っていたらしい。「へいかご、へいかご。」それは蜘蛛駕籠だったんだそうな。
最後に選んだ言葉が、蜘蛛駕籠。業ではなかろうか？
談志氏が亡くなった後。爆笑問題太田氏が「あの人、別に声が出なくたって良かったんだよ。ただ、いてくれりゃ良かった。だって、存在自体があんなにうるさい人、他にいないよ？」と言っていて、私は爆笑しながら泣いていた。太田氏は優しいね。
芸事で飯を食おうなんて狂気じみた考えを持つ者は、どこかで業を背負ってしまうんだろう。芸人は、その最たるものかも知れない。
私は、落語が好き、漫才が好き、コントが好き、漫談が好き、お笑いと言う表現が大好きな人間だが、この業にあてられて辛くなる時もある。それでも嫌いになれないお笑いという甘美なもの。
ああ、私もすっかり業を背負ってしまってるんじゃなかろうか？
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